表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/452

矛と盾 第12章 ド-リットル隊来襲

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 南東諸島で陸海空の3次元で激戦が行われていた頃、北海道に侵攻したソ連軍の残存部隊は降伏した。


 ミッチャー少将の指揮の下、特別奇襲攻撃艦隊は、厳重な無線封鎖と無灯火管制で、北太平洋を西進し、ある程度進出すると、すぐに南下した。


 米ソ英蘭軍による、日本本土に対する大規模攻撃と、周辺地域への大小の攻撃で、日本軍の目を多方面に向けさせる事には、成功していた。


 そのため、特別攻撃艦隊は、日本海軍の哨戒部隊やゴースト・フリートの哨戒部隊に発見されずに、日本近海まで進出する事ができた。


 そして、これからが正念場だ。


「提督。作戦開始時刻まで、後4時間です!」


 ミッチャーの副官が、報告した。


 副官の報告を受けて、彼は時計に目を向ける。


 午前0時丁度。


「そろそろ、ドーリットル隊が出撃する時間だな」


 ミッチャーはつぶやいた。





 ソ連極東方面某地方のアメリカ陸軍航空軍戦略空軍基地では、B-25[ミッチェル]20機がエプロンに並べられていた。


 この日のために特別改良させたB-25は、増槽を搭載した状態でも、2トンの爆弾を搭載可能である。


 爆撃目標は、アメリカ・ノーフォーク海軍基地空襲の報復として、大日本帝国海軍の重要な基地である呉基地への空爆と、もう1つ重要な任務がある。


 まさにそれは、空襲のオウム返しと言うべきだろう。


 午前0時丁度に出撃時間になったB-25隊は、全機がエンジンを始動した。


 指揮官は、ジミー・ドーリットル中佐である。


「これまでの訓練成果を果たす日が来た。必ず、日本本土空襲を成功させる。これまで、我々の作戦を成功させるために、多くのアメリカ兵、イギリス兵、ソ連兵、オランダ兵が犠牲になった。彼らの死を意味あるものにするのだ!!」


「「「サー・イエス・サー!!!」」」


 ドーリットルは、部下たちに訓示を行うと、自身が操縦するB-25を、真っ先に離陸させた。


 指揮官機が離陸すると、次々と彼の部下たちが操縦するB-25が離陸した。


 B-25は、高度10メートルという低高度を飛行し、日本本土を目指した。


 20機のB-25中16機は呉海軍基地、残り4機は、この爆撃任務で絶対に完遂しなければならない任務についた。


 ドーリットル機は、3機のB-25を率いて、その目標に向かった。





 大日本帝国海軍舞鶴鎮守府舞鶴海軍航空隊では、日本海及び対馬海峡の出入口(一部)の安全確保のために、昼夜問わず索敵機を発進させていた。


 対馬海峡警戒を次の隊に引き継ぎ、舞鶴飛行場に帰投する3機編隊の零戦隊は、誘導信号に従い夜間飛行に当たっていた。


「ん?」


 零戦隊3番機の搭乗員が、東の海上スレスレを飛行する機影らしき物を確認した。


「隊長!東の海上スレスレを飛行する、不審な飛行物体を確認!」


 小型の無線機で、3番機の搭乗員は隊長機に連絡した。


「何?」


 燃料に余裕が無いが、不審な航空機が接近している以上は、確認しなければならない。


 3機の零戦は、飛行場に不審な航空機を発見したと報告した後、針路を変更した。


「あれは・・・」


 隊長が、不審な航空機は函館や大湊を空爆した、アメリカ陸軍航空軍の爆撃機B-25[ミッチェル]だという事を確認した。


 隊長は、再び本土空襲があると判断し、すぐに舞鶴飛行場に緊急連絡しようとしたが、B-25にも護衛戦闘機が随行していた。


 護衛戦闘機から攻撃を受け、3機の零戦はあっさりと撃墜された。


 もともと燃料も無く、戦闘飛行はおろか回避飛行するのは不可能だった。


 しかし、護衛戦闘機が高度を上げたため、本土防空のために設置した、航空予備軍広域防空電探が探知した。





 帰投途中の零戦隊が不審機を発見し、確認途中で撃墜され、飛行場との交信が途絶えたが、最後の交信により、不審機を確認すると航空予備軍広域防空電探が探知した航空機により、中国地方、近畿地方に警戒態勢が発令された。


 航空予備軍は高射部隊が存在し、高々度、中高度、低高度に対処する対空高射砲が存在するし、高度1万メートル程度まで照射できる探照灯もある。


「京都府上空に侵入した不明機は、アメリカ陸軍航空軍のB-25爆撃機と確認!護衛戦闘機と思われる双発機の戦闘機が護衛し、京都市に向かっている。航空機を使って、これに対処せよ!!」


 菊水総隊統合防衛総監部航空総監部の総監部付の通信隊から、西部地方から中部地方の防衛を担当する第85航空隊第207飛行隊に、スクランブルが発令された。



 菊水総隊航空自衛隊第85航空隊が常駐する航空自衛隊の基地(航空予備軍も使用)である山口県防府基地。


 スクランブルを報せる警報ブザー音が鳴り響き、待機していた4機のF-15Jが、スクランブルした。


 南東諸島での激戦が続いているため、第85航空隊第207飛行隊に所属するF-15Jのほとんどが、那覇基地とクラーク空軍基地に移動しているため、同基地に配置されているF-15Jはわずかである。


 同基地は、菊水総隊航空自衛隊の予備部隊である予備航空団も存在するが、使えるパイロットは各飛行隊に配属させたため、基地にいるのは実戦にはとても使えない、パイロットのみだ。


 スクランブルした4機のF-15Jは、京都市に全速で向かった。


 4機編隊長の、1等空尉のフライトヘルメットに、防空指揮所から緊急連絡が入った。


「京都市、並びにその周辺の住民の避難が完了していないため、市街地上空での交戦は、許可できない」


「ラジャ」


 航空自衛隊の幹部自衛官として入官してから、20年以上の経歴を持つ彼は、指揮所からの市街地上空での交戦を許可しない指示に、異議を唱える事も無く、素直に従った。


 爆撃機であるB-25を見逃せば、どういう結果が生まれるか、それは誰でもわかるが、避難行動中にその上空で空中戦を行えば、それこそとんでもない被害が出る。


 特に京都は、日本国民の象徴的都だ。





 京都府への侵入に成功した、ドーリットル指揮のB-25隊4機は、1000年の歴史を持つ都に接近した。


「配達目標に近づいた!爆弾倉を開け!」


 ドーリットルが直接指揮する4機編隊は、京都市への爆撃が目的では無い。


 これは、日本空軍の戦略爆撃機が行った事を、そのまま返すのである。


 4機のB-25の爆弾庫には、爆弾は搭載されていない。


 大量のビラである。


 大日本帝国軍が行った心理作戦を、大日本帝国の象徴である都で行うのだ。


「配達開始!」


 ドーリットルの命令で、4機のB-25に積まれていた大量のビラがばらまかれた。


 そのビラには、アメリカからのメーセッジが書かれていた。





『これは、単なる始まりだ。大日本帝国陸海空軍は、圧倒的な軍事力でアメリカ合衆国を含む連合国を圧倒した。しかし、これが現実である。実際、我々は日本の1000年の歴史を持つ都に、いともたやすく進入できた。今回はこれだけだが、次は焼夷弾の雨が1000年の都を焼き払うであろう』





 と書かれていた。


 この文章は英語、日本語で書かれていた。


 幕末に、尊皇攘夷派によって企てられたとされる、京都大火。


 これには諸説があるそうだが、未遂に終わったとはいえ、京都の人々にとってそれは恐怖以外の何物でもない。


 もしも、次にアメリカ軍の爆撃機が飛来した時には、その恐怖は現実となる。


 それは、日本人の心に深く突き刺さるだろう。





 ドーリットル隊のB-25爆撃機隊の攻撃は、京都空襲にはとどまらなかった。


 16機のB-25は、日本本土防空警戒網を突破し、呉鎮守府呉軍港上空に到着した。


 呉には、菊水総隊海上自衛隊基地施設も置かれている。


 呉基地に配備されている基地防空のために、陸上自衛隊から払い下げられた、81式短距離誘導弾が配備された、陸警隊麾下の防空警備隊が存在する。


 2000年代に、海上自衛隊も基地防空用として81式短距離誘導弾、91式携帯地対空誘導弾等の防空装備が存在したが、ほとんどは退役するか、他の自衛隊に配置換えになった。


 しかし、この時代では海上自衛隊艦艇の定係港である呉、及び横須賀等の基地では護衛艦等の戦闘艦が使用する武器、弾薬、部品等が保管されている補給処に対する空襲に備えて、再び陸警隊傘下の防空部隊を新設した。


 誘導弾搭載車(3トン半トラック)、射撃統制装置搭載車が展開し、青を基調したデジタル迷彩服を着込んだ陸警隊員たちが、接近中のB-25を撃墜するために発射準備を行っている。


 目視照準具を使い、接近中のB-25をロックオンする。


 誘導弾搭載車に搭載されている4発の81式短距離地対空誘導弾(B)は、目視照準具の動きに合わせて、発射器が旋回する。


「発射!」


 小隊長である3等海尉が叫んだ。


 発射器から81式短距離地対空誘導弾が、オレンジ色のロケット噴射しながら、呉基地に接近する4機のB-25編隊に向けて飛翔した。


 誘導弾はロックオンした目標に正確に接近し、4機のB-25に直撃する。


 81式短距離地対空誘導弾により、海上自衛隊の施設に接近したB-25は撃墜した。


 しかし、大日本帝国海軍の軍港及び一部のドック等は、B-25の水平爆撃で破壊された。


 海軍にも、軍港やその他施設の防空のために対空機関砲や対空砲が設置されているが、改良型のB-25には威力不足であった。


 そのため、全機撃墜は困難だった。


 B-25は呉軍港だけでは無く、奈良県奈良市にも現れ、京都市のようにビラがまかれた。


 内容は、ほとんど京都市と同じだが、次はビラでは無く、本物の爆弾を投下すると通告してきた。


 南北の同時多発的侵攻と、大日本帝国統治下の占領地域への、大中小さまざまな攻勢により、戦線が拡大し、防衛態勢や海上、航空補給路の安全保障が脅かされてしまい、その間にアメリカの放った1本の矢は、確実に日本の懐に突き刺さった。


 中国の兵法書には、このような記述がある。


 大軍を破るにはそれを超える大軍が必要だが、どんな大軍も大将が死ねば、大軍はその機能を失う。


 大軍・・・100万の軍勢と仮定すれば最低でも同兵力か、その3倍は必要だが、大将は1人である。


 100万の壁には100万の弓矢を使っても突破は不可能だが、必中の1本の矢なら、それは可能だ。


 これは日本史と中国史をひたすら研究し、日本に強烈なパンチを撃ち込むにはどうすればいいか、それをひたすら軍部、民間、政府で研究して編み出されたアメリカ合衆国の攻勢だった。


 しかし、その矢はこれで終わりでは無い。


 時間差をつけて、さらなる次の矢が太平洋から放たれる。


 だが、日本共和区統合省防衛局自衛隊破軍集団司令官付高級副官兼特別監察監の石垣達彦1等陸佐は、弟の楽観主義とその他の甘い思考により、手詰まりになっていた首都圏防衛態勢を、再構築していた。


 その鉄壁の首都圏防衛態勢が、第二の矢を待ち受けている。





 ドーリットル隊の奇襲攻撃成功の報告を受けた、ソビエト社会主義共和国連邦極東方面のソ連軍某航空基地にある、アメリカ陸軍航空軍には、カーチス・エマーソン・ルメイ少将の命令で、第2次東京空襲が命ぜられた。


 残存するB-29、B-17はエンジンを始動し、数日前にスペース・アグレッサー軍からのロケット攻撃で破壊された基地を移動し、応急修復ができた滑走路から離陸した。


「・・・・・・」


 ルメイは、離陸するB-29、B-17、B-25で編成された連合戦略爆撃機団300機以上の機影が空を上がり、日本に向かう光景を、ただ眺める事しかできない。


 彼の任務は、彼らを送り出すだけでは無い。


 多くの犠牲を出して手に入れたスペース・アグレッサーの情報等を、すべて本国に提出するまでが任務である。


「すまない・・・」


 ルメイは小さな声で、小さくなりつつある連合戦略爆撃機団の爆撃機群につぶやいた。


「閣下!準備が整いました」


 副官が報告する。


「ああ」


 副官の報告でルメイ以下、幕僚及びこの作戦に参加した情報収集部隊、情報分析部隊、特殊偵察部隊は輸送機に乗り込み、そのままウラジオストクからアラスカ、カナダを経由して、ワシントンDCに戻る。





 首都圏某地区の高地に建造された、角張った建物。


 その構造は、イージス艦の艦体上部構造物を思わせる建物だ。


 この建物が、陸上型イージス・システム(イージス・アシェア)である。


 元の時代では、日本本土の弾道ミサイル防衛のために作られた施設である。


 これは単に、イージス艦のイージス・システムをそのまま陸上に設置する物であり、主にヨーロッパのロシアに近い国では、すでに配備されている。


 陸上型イージスの最大の特徴は、それなりに大きな建造物でありながらも、短い期間で分解し、他方に移設可能という利点がある。


 そのため、この時代にタイムスリップした際に、超大型貨物船に陸上型イージスを積み込み、必要に応じて、必要な場所に設置が可能である。


 日本共和区統合省防衛局では、石垣達彦1佐の立案により、首都圏、ハワイ諸島にそれぞれ1器配備している。


 今後は、新世界連合軍のアメリカ軍と協議して、増設するかしないかが、決められる。


 陸上型イージスの運用は、防衛局長官直轄部隊航空自衛隊が担当している。


 システムは、すべてコンピューター制御であるため、人員は交代要員と合わせても多くは必要ないのだが、陸上型イージスの無力化を計るゲリラ部隊や、コマンド部隊に対処する警備部隊と巡航ミサイルや航空機に対処できる防空部隊が必要であり、必要に応じて陸上自衛隊や海上自衛隊から応援部隊が派遣される。


 ただし、陸上型イージスは莫大な電力が必要になるため、日本共和区に本社がある電力会社から移動式発電車(ガスタービン発電)と変電車が派遣されている。


 むろん、自家発電もあるが、これは非常用であり普段は使用しない。


 平時では、太陽光発電器で施設内の電力を確保し、有事の際にガスタービン発電器を搭載した発電車が電力を供給する。


 余談だが、この施設の存在は防秘中の防秘であり、大日本帝国政府でも聞かされているのは統帥権を持つ天皇陛下、首相、陸相、海相、内務相のみである。


 そのため、この施設から円形3キロ圏内は立入禁止エリアであり、日本共和区警察本部特別地域警備隊の警察官が警戒している。


 場合によっては、侵入者に対し無警告で拳銃叉は特殊銃を発砲する場合もある。


 立入禁止エリアから外側2キロの範囲は警戒範囲であり、アシハラ協定により私服姿の特別高等警察官や国家憲兵が巡回している。


 陸上型イージスは、イージス艦とまったく変わらない。


 戦闘指揮所があり、主にここで迎撃指揮を行う。


 当然ながら、陸上型VLSも存在する。


 元の時代ではSM-3やTHAADミサイルが装填されているが、ここの時代では主に戦略爆撃機を迎撃する、長射程高々度迎撃ミサイルとして開発された、SM-2ブロックⅡである。


 48セル中のVLSに、32発の同SM-2が装填されている。


 2回目の首都圏空襲であり、その備えは万全だった。


 まず、入間航空基地からF-22UJとF-35Jが離陸し、各地に展開した地対空誘導弾ペトリオットや03式中距離誘導弾が迎撃態勢に入る。


 前回、出番を自衛隊に取られた、陸軍航空隊と航空予備軍も立川飛行場で、離陸準備を整えている。


 統合防衛総監部地下指揮所のモニターには、東京を目指す無数の光点が映し出されていた。


「浦賀水道沖に展開中の、防衛局長官直轄部隊直轄艦隊旗艦イージス護衛艦[うねび]より緊急連絡!」


 通信士が声を張り上げる。


「防衛局長官より、『敵航空隊への攻撃を許可する。不法侵入者に身の程を教えてやれ』以上です」


「やれやれ・・・一番喧嘩を売ってはならない相手に、喧嘩を売ってしまった敵には少し同情するな・・・」


 航空総監の小川(おがわ)(しゅん)空将はそうつぶやいて立ち上がった。


「陸上型イージス戦闘指揮所に連絡!敵航空隊への攻撃を許可する!一匹たりとも逃がすな!すべて、たたき落とせ!!」

 矛と盾 第12章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿予定は11月14日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ