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矛と盾 第10章 刹那の格闘戦 シーファイア対ファントム

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

[コロッサス]級航空母艦[コロッサス]と[グローリー]を基幹とする英蘭印連合軍主力艦隊空母機動部隊第3航空艦隊は、前衛の哨戒部隊と護衛部隊が全滅した事を、前衛部隊と本隊の間に待機させていた、広域レーダーを装備した潜水艦から報告を受けた。


「提督!作戦通り、敵は我々に注目しました!」


 副官からの報告に、第3航空艦隊司令官の少将はうなずいた。


「艦載機の発艦状況は?」


「サー!全戦闘機部隊発艦準備は、できています!」


 提督は、航海艦橋から飛行甲板を見渡せるウィングに出た。


 飛行甲板上では、スピットファイアのイギリス海軍仕様にされた、シーファイアが発艦準備をしていた。


「オキナワ近海まで接近していた潜水艦からの報告では、スペース・アグレッサー軍のジェット戦闘機が離陸しました。まもなく、当海域に到着します」


 副官からの報告に提督はうなずき、戦闘機部隊全機発艦命令を出した。





[コロッサス]からブザー音が響き、飛行服に身を包んだパイロットたちが飛行甲板に姿を現し、自分が操るシーファイアに搭乗した。


 イギリス海軍艦隊航空隊[コロッサス]戦闘飛行隊に所属するジェド・ビックス中尉は、自分が操縦するシーファイアに乗り込む。


 ドイツ第3帝国国防軍空軍からイギリス本土であるイングランド島空襲の際には、本土防衛のために何度も出撃し、ドイツ第3帝国軍のジェット戦闘機を2機撃墜した記録を持つ。


 ジェドはコックピットに、1枚の写真を貼り付けた。


 その写真には、3人の男女が写っている。


 1人は当然ながら、ジェドである。


 もう1人は彼の妹、その隣に立つのは、大日本帝国海軍の将校である。


 彼の友人であり、妹の許嫁でもあった。


 しかし、彼は1942年初期に発生した、ある事件で命を落とした。


 密かに大日本帝国との貿易業を営むジェドの友人から、妹の許嫁の死について聞かされた。


 妹の許嫁が所属していた海軍航空隊基地で、基地隊の半数が反乱を起こし、基地を占拠した事件が起こったそうだ。


 原因については一切公表されていない(表向きは、単なる基地弾薬庫の爆発事故による殉職とされている)が、彼は同じ日本軍の手によって、命を絶たれた。


 いくら戦時下で、交戦国であっても、ある程度の詳細についての情報があっても、いいはずだ。


 事故などと、でっち上げるには公にできない、何かがあった。


 ジェドは、そう思うのであった。


「スペース・アグレッサー。お前たちが来てから、この国も世界も変わった。必ず、お前たちの正体を暴いてやる」


 ジェドがそうつぶやくと、[コロッサス]の発艦誘導士官が、発艦するよう指示した。


 シーファイアが、次々と[コロッサス]から発艦し、空高く飛び上がる。


[コロッサス]と[グローリー]から発艦したシーファイア群のパイロットたちは、熟練者ばかりであり、大日本帝国海軍の空母3隻を基幹とする、機動部隊攻撃の護衛戦闘機隊を勤め、ジークを格闘戦で撃墜している。


 そのため、士気は高く、全員が自分の操縦技術と戦闘技術に自信を持っている。


 ただし、索敵能力はスペース・アグレッサーのジェット戦闘機の方が、はるかに上であるため、向こうが先に自分たちを発見する。


「隊長機より、全機へ、まもなく敵ジェット戦闘機のレーダー探知圏内だ。どこからロケット攻撃を受けるか、わからん、ちゅう・・・」


 その瞬間、隊長機からの交信が途絶した。


 無線機から爆発音に似た音と、隊長の悲鳴が聞こえた。


「2番機へ、スペース・アグレッサーのジェット戦闘機と思われるロケット弾を確認した!散開しろ!ロケットは真上からだ!奴らは俺たちよりも上方だ!」


 次席指揮官が、無線で叫ぶ。





 那覇基地を離陸した、菊水総隊航空自衛隊第1航空隊第300飛行隊に所属するF-4EJ改のパイロットである寒河江(さがえ)1等空尉と、レーダー迎撃士官の梅谷(うめたに)1等空尉は、制空装備のF-4EJ改で、対艦装備のF-4EJ改の護衛に当たっていた。


「エンジンも電子系統にも異常は無い。寒河江、安心して戦って良いぞ」


 後席に座るレーダー迎撃士官の、梅谷の言葉に寒河江はうなずく。


「お前なら、たとえ機体に異常が発生しても、何とかできるだろう。こいつはいくら使える機体と言っても、退役を迎えようとしていたからな」


「ああ。いくらアメリカから中古の機体部品を譲って貰っても、機体そのものが耐用年数ぎりぎりだからな」


 寒河江が、前席のコックピットの計器板を見る。


 F-15Jとも異なるアナログ式のコックピットは、F-15の初期型よりも古い。


 F-4の初飛行は1958年であり、この時代から計算すれば、後16年後である。


 F-15よりも古いF-4は、寒河江たちの時代でも、F-15と並ぶベストセラーだ。


 それは、F-15並の飛行速度を持ち、航続距離も無給油で3000キロメートルも、飛行できる。


 制空戦闘能力も、パイロットの腕にもよるが、F-15と互角に戦う事もできる。


 さらに、この機種が世界各国で採用される最大の理由は、近代化改修がとてもしやすいのだ。


 そして機体寿命も、とても長く、機体寿命を伸ばす改修もしやすい。


 航空自衛隊では、F-35A[ライトニングⅡ](後にF-35J)の導入により、F-4EJ改の退役は進んだ。


 特に航空自衛隊では、増額された装備新規調達の防衛予算が優先的に回されたため、F-35Jのライセンス生産や、F-22UJ[ラプター]の輸入がスムーズに開始され、F-4EJ改の居場所は急激に無くなった。


 もちろん、近代化改修ができないF-15Jの初期型も同じく、F-35J叉はF-22UJに更新される事になった。


 だが、F-15J改はまだ良い方だ。


 世界的に見ても、F-15は世界最強の戦闘機として位置付けられており、特にF-15J改のエースパイロットは、第5世代ジェット戦闘機であるF-35Aとの空中戦訓練で、撃墜判定を出した。


 そのため、F-15Jは近代化改修された状態で新規調達が開始され、さらにF-15FXの導入も検討された。


 F-15Jのパイロットたちは、新しく生まれ変わるF-15Jに乗り、飛び続けられるが、F-4EJ改のパイロットやレーダー迎撃士官は、そうはいかない。


 F-4EJ改では、航空学生や幹部候補生学校からの新人パイロット教育等は行われなくなり、操縦者たちの中に若手はいなくなった。


 そのため、F-4EJ改隊も、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦[くらま]、[しらね]、[ひえい]と同じく老いぼれ艦ならぬ、老いぼれ飛行隊とF-15J改やF-2改の若手パイロットや整備要員たちに囁かれている。


 その時、寒河江と梅谷が機乗するF-4EJ改のレーダーが、複数の航空機を探知した。


「レーダーに多数の機影!どうやら、俺たちを迎撃するために発艦したイギリス海軍の戦闘機部隊だ!」


 梅谷の報告に、寒河江は記憶をたどった。


「イギリス海軍の戦闘機だから、恐らく、シーファイアだな」





 F-4EJ改と、シーファイアのドッグファイトが、南の空で開始される。





 ジェドは、次席指揮官の命令で編隊飛行を解き、散開した。


 その間もロケット弾による攻撃で、味方機は撃墜されていくが、それは最初から覚悟の上だ。


 全員、この任務に志願した時から、そうなる覚悟はできていた。


 ジェドは高度を上げて3000メートルから4000メートルまで上昇し、キャノピー越しから上空を睨む。


「いたぞ!全機、ジェット戦闘機が上方から、急降下してくるぞ!」


 ジェドが、無線機に叫ぶ。


 緑色等の迷彩塗装された大型のジェッド戦闘機が、青い空から高速で突入してきた。


 その機の機首から、機銃弾が発射される。


 ジェドは寸前のところで操縦桿を右に倒し、シーファイアを右に急旋回させ回避した。


 彼はすぐに機体の態勢を戻し、そのまま高度を下げる。


 これは、ドイツ第3帝国のジェット戦闘機と戦った経験から得た、戦訓だ。


 ドイツ第3帝国国防軍空軍のジェット戦闘機も、高速であった。


 そのため、すぐに機銃掃射後は態勢を整える隙に、真下にいかれる。


 だから、ジェドは急降下した。


 彼の予想通り、日の丸を付けたジェット戦闘機は、すでにイギリス海軍の迎撃飛行隊の真下にいた。


 背後につくが、そのジェット戦闘機は恐るべきスピードで、ジェド機を振り切った。


 ジェドたちイギリス海軍の迎撃戦闘機隊と戦っているのは、F-4EJ改である。


 F-4EJ改は、マッハ2.以上の速度であるため、600キロ程度のシーファイアでは、追跡するのは不可能だ。


「くっ!ドイツのジェット戦闘機よりも速い!」


 だが、ジェドもエースパイロットと呼ばれても誰も疑わないレベルの、実績と技術を持ちあわせている。


 機体強度の限界まで増速させて、追跡する。





 寒河江と梅谷が操縦するF-4EJ改は、後方から距離を離されているが、諦めず追跡するシーファイアに驚いていた。


「どうやら、こいつは、そこら辺の平凡なパイロットでは無いな」


「俺たちと、真正面から戦うだけはある」


 寒河江と梅谷は、後方から追跡するシーファイアのパイロットを賞賛し、そして、そのパイロットは確実に倒しておかなくてはならないと考えた。


「梅谷。誘導弾は、まだあるな?」


「ああ。短射程の誘導弾と、機関砲弾がある」


 梅谷から残弾装備の詳細を聞くと、そのまま寒河江はエンジン出力を上げて、F-4EJ改の速度をさらに増速させた。


 そして操縦桿を引き、そのまま機首を上から下に向ける。


 シーファイアとF-4EJ改の速度差では、すぐにシーファイアの背後につける。


 寒河江は機首に搭載されている、20ミリバルカン砲の発射ボタンを押す。


 機首に搭載されている20ミリバルカン砲から20ミリ砲弾が撃ち出される。


 しかし、シーファイアは、またもや寸前のところで急旋回し、回避した。


「同じ手が、何度も通用するか!」


 寒河江は、そのシーファイアが回避飛行する事はわかっていたから、そのまま操縦桿を操り、シーファイアを追跡する。


「AAM-3!スタンバイ!」


 寒河江の指示で、梅谷が計器板を操作する。


 HUDが、シーファイアをロックオンしたアラーム音が鳴り響く。


 寒河江が、AAMの発射ボタンに指を置いた時・・・





「今だ!」


 ジェドは、シーファイアの速度を減速させて、高度を下げた。


 そして、前方から別のシーファイアが突入してくる。





「なっ!?」


 寒河江は慌てて操縦桿を倒し、回避飛行するが、そのシーファイアがF-4EJ改の尾翼に接触した。


 その時、F-4EJ改のコックピットに、警報アラームが鳴り響く。


「尾翼破損!」


 梅谷が、機体の被害状況を確認する。


「くそ!どうやら、今の接触でエンジンにもダメージが出たようだ!エンジン出力低下!」


「なんだと!」


 寒河江が叫ぶが、そんな事に気をとられている暇は無い。





 ジェドは一瞬の隙をつき、同僚の決死の行動で傷ついたスペース・アグレッサーのジェット戦闘機の背後にとった。


 コンマ数秒ではあるが、照準器にジェット戦闘機を捕らえ、主兵装の20ミリ機関砲の発射ボタンを押した。


 20ミリ機関砲弾が発射され、その弾丸はジェット戦闘機の機体に直撃する。





 運命の女神の気紛れ、幸運と不運の交錯、どの言葉が適切なのかはわからないが、シーファイアからの機銃掃射でF-4EJ改を被弾させてしまった。


 機体が僅かながら爆発し、そのまま落下する。


「メーデー!メーデー!ペイルアウトする!」


 寒河江が叫び、緊急脱出の措置をとる。


 キャノピーがものすごい力で吹き飛ばされ、外気が露出した肌に叩き付けられる。


 射出座席が飛び出し、寒河江は緊急脱出した。


 それに遅れて、梅谷も緊急脱出する。


 その後、F-4EJ改は海面に激突し、四方に破片をばらまく。


 寒河江と梅谷はパラシュートが開傘する。





 ジェドは、スペース・アグレッサーのジェット戦闘機を、連合軍に属する戦闘機のパイロットとして初の撃墜を行った。


 しかし、それは単純に戦場で発生する、単なる気紛れのようなものだ。


 初撃墜という戦果に比べれば、戦局に何の変化も無い。


 それどころか、他の友軍機は次々と撃墜されている。


「メーデー!!メーデー!!空母[コロッサス]より、緊急通信!スペース・アグレッサー空軍のロケット攻撃により、操艦不能!艦長代理が総員退艦命令を発令、付近の駆逐艦の救援を要請する!」


 ジェドの通信機に、空母[コロッサス]から救難要請する通信が聞こえた。


「くっ!もはや、ここまでか・・・」


 その時、別のジェット戦闘機が側面に迫り、自分の機にロケット弾を発射した。


 ジェドは回避飛行に移るが、すでにジェット戦闘機とのドッグファイトで、かなり機体に無理をかけていた。


 そのダメージが深刻なのか、回避飛行は困難だった。


 ロケット弾が直撃し、凄まじい衝撃とオレンジ色の炎が身体を包んだ。


 それがジェドの最後に見た光景だった。





 F-4EJ改から緊急脱出した寒河江と梅谷は、パラシュートが開傘した状態で海上に着水した。


 寒河江は飛行要員が装着する救命胴衣により、そのまま海上に浮上した。


 パラシュートを切り離し、相棒である梅谷と合流する。


「空自創設以来初となる、実戦時による初撃墜と緊急脱出だな・・・」


 海上にぷかぷかと浮きながら、梅谷がつぶやいた。


「まったくだな」


 寒河江が同意しながら、腕に装着している救難信号発信装置のスイッチを入れる。


「これですぐに、救助がくるな」


「ああ、でも、戻ったら、整備員の曹長から大目玉だぞ」


「・・・そうだった・・・」


 寒河江の言葉に、梅谷が表情を青ざめる。


 2人のいる位置は、沖縄本島に近い位置(近いと言っても500キロメートル程度の海域だ)だから、すぐに救難ヘリ叉は艦船が救助に来る。


 寒河江は、防水性能付の携帯無線機を無線機入れから取り出し、無線連絡する。


「こちら菊水総隊航空自衛隊第1航空隊第300飛行隊所属のファントム4。救難隊叉は付近の艦船、応答せよ」


 寒河江が携帯無線機で救難要請する。


「こちら菊水総隊海上自衛隊第2沿海護衛隊[あぶくま]。君たちの漂流海域から0.8海里の海上だ。すぐ、救助に向かう。少しの辛抱だ」


 護衛艦[あぶくま]からの通信に、寒河江は梅谷の肩を叩いた。


「やったな」


「ん?」


 2人の目に、波間を漂う紙片が映った。


 半分近く焼け焦げたそれは、1枚の写真だった。


 帝国海軍の制服を着用した青年と、ヨーロッパ人らしい2人の男女。


 寒河江は手を伸ばして、それを拾おうとしたが、波にさらわれ写真は海に沈んでいった。


 青く深い海に・・・

 矛と盾 第10章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は11月7日を予定しています。

 なお、矛と盾篇は後半戦に入ります。

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