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矛と盾 第9章 変人の本領

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

[しおかぜ]のCICでは、電子表示板に海図が映し出され、英蘭印連合艦隊の各艦隊の位置と菊水総隊、破軍集団、新世界連合軍、朱蒙軍、大日本帝国軍の各戦闘艦隊、空母艦隊、輸送艦隊の位置が記されていた。


「レーダーピケット艦への攻撃・・・ですか?」


[しおかぜ]の司令部作戦室で、破軍集団司令官の國仙(こくせん)正春(まさはる)陸将の目であり、耳である石垣1佐が、渡嘉敷と生島に具申した。


「そうだ、渡嘉敷艦長。イギリス海軍は、極めて性能がいい対空索敵レーダーを最大に使って、那覇基地のF-4EJ改を警戒している。先ほど菊水総隊統合防衛総監部では、稼働可能なF-4EJ改に対艦誘導弾を装備させて、第3航空艦隊に打撃を与えたイギリス海軍の空母機動部隊に、攻撃を仕掛ける作戦を決定したそうだ。大魚島には第4高速輸送艦隊が到着し、1個支隊が上陸している。しかし、2隻軽空母を基幹とした、この空母機動部隊は彼らを無視し、そのまま沖縄に向かっている。恐らく、この機動部隊の目的は対馬海峡を通過し、こちらに向かっている戦艦[武蔵]を基幹とした第1遊撃部隊への航空攻撃だろう。さらに、かなり巧妙な無線封鎖と無灯火状態で、第1遊撃部隊と会敵する針路をとるイギリス海軍の戦艦部隊が確認された。航空攻撃に援護された状態での戦艦部隊との戦闘は、いくら戦艦[武蔵]でもきついだろう。そこで菊水総隊航空自衛隊と連携して、空母機動部隊を叩く」


 石垣1佐の説明に、渡嘉敷と生島は顔を見合わせ、同時に空母機動部隊と戦艦部隊の2個小艦隊の詳細なデータに目を通した。


「・・・イギリス海軍の、秘匿戦艦ですか・・・まあ、どこの国家も同じような事を、考えるものですね」


「何でもかんでもデカければ良いって・・・どうして男性は、大きさに拘るのかしら?ドンだけ自分に、コンプレックスがあるのかしら・・・」


「艦長、ネタに走るのはいかがなものかと・・・だから元の時代でも合コンで、男性にドン引きされて、失敗するのですよ」


「お黙り!!」


 生島に窘められて、渡嘉敷はチラッと石垣を見た。


 大方、笑いを取ろうと目論んだのだろうが、無表情の石垣の様子に、小さな声で「ハズした・・・」とつぶやいた。


 その後、咳払いをして真顔に戻る。


「大日本帝国海軍の象徴でもある[大和]型戦艦による、戦艦対戦艦の砲撃戦を思う存分にさせるために、このような措置をとるのですね」


 渡嘉敷は、納得したようにうなずいた。


「艦長。本艦は菊水総隊旗艦である[くらま]と違い、最初から統合運用部隊の旗艦として建造されています。それにこの艦に乗艦する乗組員たちの士気を考えますと、ここはやるべきです」


 生島も、[しおかぜ]の戦闘行動を承認した。


 破軍集団は菊水総隊とは異なり、陸海空女性自衛官たちの定員は少なく、破軍集団海上自衛隊の場合は、女性自衛官の数は1割もいない。


 女性である渡嘉敷が艦長を務めるため、破軍集団海上自衛隊では、渡嘉敷のキャラクター的性格から、[しおかぜ]は、アイドル艦と呼ばれている。


 それで言えば、[あかぎ]は?という事になるのだが、こちらは艦長が男前な性格であるのと、実績、人望も篤いため、別物に区分されている。


 破軍集団自衛隊の男性海上自衛官たちは、第1統合任務群等の戦闘部隊勤務を希望する者がほとんどだったため、[しおかぜ]に配属された者の不満がたまっている。


 芸能人でも無いのに、マスコット扱いされては、完全実力主義の破軍集団自衛官にとっては、不本意極まり無いだろう。


[くらま]を除く、老いぼれ艦と呼ばれ続けられた[しらね]や[ひえい]は、老兵として恥じない働きをしたため、不満は余計に高まっていた。


「わかりました。石垣1佐の具申を承認します。副長、空母2隻を基幹とする機動部隊のレーダーピケット艦への有効な攻撃方法を、検討してください」


 普段は、こんなだが、1度スイッチが入るとガラリと人格が変わる。


 これが、変人の変人たる所以である。


「了解しました。ただちに検討します」


 渡嘉敷は、生島からの返答を聞くと、艦内マイクを持った。


「全艦放送」


 通信士に、そう告げた。


「艦長より、達する。全員そのままの姿勢で聞きなさい。本艦には私を含めて多くの女性自衛官が乗艦し、破軍集団海上自衛隊の他の護衛艦からは、アイドル艦等と影口を叩かれた。しかし、老いぼれ艦とあだ名を付けられた、[しらね]や[ひえい]は、護衛艦としての名に恥じない奮戦をした。本艦もそのチャンスが与えられた。総員、これまでの訓練の成果を試す時が来た!以上!!」





[しおかぜ]の艦橋では、高尾が司令官席に腰掛けていた。


「取舵一杯。最大戦速」


[しおかぜ]の航海長が、CICにいる渡嘉敷からの指示を受けて、操舵員に命令する。


 艦体が大きく傾き、左に旋回する。


「司令官。艦長より、今のうちに食事をとるようにとの事です」


 副官が、給養員長が握った塩お握り3個を、トレイに乗せて運んできた。


「そうだな。攻撃は空自のF-4EJ改と連携するため、レーダーピケット艦への攻撃は、日の出と共に行われる。後、2時間」


 高尾はそうつぶやきながら、塩お握りを1つ掴み、口に運ぶ。


「うん、うまい。さすがにうちの給養員長が作る飯はうまいな」


「ええ、そうですね」


 副官も、自分のお握りを食べながら、うなずく。


[しおかぜ]では艦長命令で戦闘配食が配られており、それぞれの部署で早めの朝食がとられている。


 艦内哨戒第1配備下であるため、全乗員は持ち場を動く事はできない。


 科員食堂は、臨時の救護所として配置され、第4分隊に所属する医官と看護官が、戦闘時に発生する負傷者の治療を行えるよう待機している。


 士官室では立検隊や海援隊が、完全装備状態で待機している。


 武器庫から持ち出された89式5.56ミリ小銃折曲式銃床と9ミリ機関拳銃に、実弾入りの弾倉をそれぞれが装填する。


 戦闘が間近に迫っているため、全乗員は、戦闘配食である握飯とお茶を飲食している。


 いかなる状況下でも、食事は大事である。


 すでに艦内哨戒第1配備が発令されてから、かなりの日数が経っている。


 第2配備や第3配備とは異なり、まったく交代が無いため、全乗員は持ち場で仮眠をとる事しかできない。


 艦橋横のウィングでは、見張員たちが対潜警戒を厳重にしている。


 見張員の数を増やし、最大戦速状態であるため、ソナーの感度を上げても自艦のスクリュー音やエンジン音に邪魔されて、付近で無音航行している潜水艦を捕捉するのも難しい。


 しかし、速力30ノットという高速航行状態であるため、仮に敵潜水艦が[しおかぜ]を発見しても、水中速力10ノット未満では魚雷を発射するどころか、艦影も確認できないだろう。


 この時代の潜水艦が最大速力で航行すれば、いくら対潜ソナーの感度が低下しているといっても、[しおかぜ]が捕捉するのは難しくは無い。


「艦長。上がられます!」


 艦橋にいる、先任海曹が声を上げる。


 紺色の作業服に灰色の救命胴衣を着込んだ状態で、灰色の鉄帽を被った渡嘉敷が、艦橋に現れた。


「どうした、艦長?」


 高尾が、渡嘉敷に顔を向けた。


「CICでの指揮は、副長に任せました。戦闘指揮は、ここで行います」


 渡嘉敷の言葉に、高尾が苦笑した。


「[あかぎ]艦長に習ってか?」


「はい。[あかぎ]艦長の神薙(かんなぎ)真咲(まさき)1等海佐は初の実戦を経験した時、艦橋で戦闘指揮を行いました。戦闘が開始されたら、艦橋はもっとも危険です。危険なところに艦のナンバーワンが、いるべきでしょう」


「だが、それでは万が一にも艦橋が攻撃されたら、貴官は無事ではすまないぞ」


「それは、司令官も同じでしょう。いかなる事態が発生しても、代えが効くのが自衛隊です。私の代わりはいくらでもいます」





 2隻の空母を基幹とする空母機動部隊は、速力18ノットで対馬海峡を目指す針路をとっていた。


 その空母機動部隊の前衛に、レーダーピケット艦である駆逐艦2隻と、護衛と思われる巡洋戦艦1隻が速力20ノットで、対空レーダーによる索敵を行っている。


[しおかぜ]は、速力30ノットでそのまま空母機動部隊の本隊を通り過ぎ、レーダーピケット艦を、対水上レーダーに捕らえた。


「艦長。レーダーピケット艦への攻撃方法ですが、この方法がもっとも良いかと思われます」


 生島がCICのコンピューターから、艦橋のコンピューターに攻撃方法についての攻撃案を転送した。


 渡嘉敷は、攻撃案に目を通す。


「SSM-1B、3発を発射して、護衛の巡洋戦艦に撃ち込み、同巡洋戦艦を無力化。その後、レーダーピケット艦に主砲砲撃を行う。時間差として巡洋戦艦にSSM-1Bが被弾し、本隊に通報する時間はあるわね・・・でも」


「そうです」


 渡嘉敷のヘッドセットから、生島の声が聞こえる。


「通報する時間はありますが、本隊に通報できるのは、巡洋戦艦にSSM-1Bが命中した程度の報告です」


 渡嘉敷は、その攻撃案を念入りに検討した。


 しかし、時間はあまりないから、早く決断しなくてはならない。


[しおかぜ]の戦闘行動については、艦隊司令官もその上も承認しているため、艦レベルの判断は、すべて艦長に委ねられている。


「副長。この案を採用するわ」


「了解」


 渡嘉敷は、腕時計を見た。


 まもなく日の出である。


 那覇基地からは、対艦誘導弾を搭載したF-4EJ改が、離陸している頃だ。


 渡嘉敷は、CICにいる生島に命じた。


「対水上戦闘用意」


 その命令と共に、艦内に対水上戦闘を知らせるブザー音が響き、艦内放送が流れた。


「水上戦闘用意!」


「航海長。面舵15度、速力そのまま」


 渡嘉敷の命令を航海長が復唱し、操舵員に命令する。


「SSM-1B、諸元入力完了、発射準備よし」


 生島から、報告される。


「SSM-1B発射始め!」


 渡嘉敷の号令が響く。


 後部に設置されている4連装SSM発射器2器のうち、左舷側に設置されているSSM発射器から3発のSSM-1Bが、オレンジ色の閃光とロケットブースターの点火により発生した白い煙の中から、上空へ打ち上げられた。


 3発のSSM-1Bは空高く飛翔し、そのまま高度を下げて、海面スレスレを高速で飛翔する。


「主砲射撃用意!弾種、対艦砲弾!」


 艦首に搭載されている127ミリ単装速射砲を起動し、射撃管制レーダーに従い、主砲塔が旋回する。


 東の空が明るくなり出し、日の出を迎える。


 艦橋に設置されているモニターには、3発のSSMー1Bが目標となった巡洋戦艦に向かっている光点が映し出されている。


「命中、10秒前!!」


「主砲、砲撃始め!!」


 CICからの報告と、渡嘉敷の声が重なる。


 自動装填された対艦砲弾が、127ミリ砲の砲口から連続で撃ち出される。


 精密な射撃管制レーダーと、破軍集団司令部が運用するステルス性能がある無人偵察機から送信されているデータによって、4隻の駆逐艦と1隻の巡洋戦艦の艦体と上部構造物を正確に把握しているため、着弾誤差はセンチ単位からミリ単位だ。


 発射された対艦砲弾は、通常砲弾の射程距離と変わらないが、誘導性能があり、砲弾自らが自艦からのデータと、無人偵察機からのデータを照合しながら、目標となった駆逐艦の航海艦橋、レーダー、通信アンテナを捕捉している。


「3、2、1、スタンバイ!」


 SSM-1Bと、巡洋戦艦の光点が重なる。





「司令!対空レーダーに、微弱な反応!」


 2隻の軽空母を基幹とする、空母機動部隊の小艦隊の前衛哨戒隊を護衛する、護衛隊司令が乗艦する[フッド]級巡洋戦艦2番艦[アンソン]の航海艦橋で、司令席に腰掛けていた代将に艦長が報告した。


 代将とは、イギリス海軍大佐の上で、海軍少将の下に位置する階級であり、准将に相当する。


 ただし、将官では無く佐官に区分される階級。


 なぜ、佐官に区分されるかと言うと、貴族社会であるイギリスでも、将官に昇進できる貴族は10数人の大佐中1人だけであり、諸外国海軍の中でも、かなり狭き門だった。


 特に代将制度が設けられた時代のヨーロッパでは、艦隊指揮下の分艦隊編成では、先任の艦長が司令を務めていたが、艦の指揮と僚艦の指揮をこなさなくてはならず、これでは、艦の指揮にも分艦隊指揮にも支障が出た。


 そこで、大佐の中で勤務歴が長い先任大佐を、代将に昇進させる制度が設けられた。


 以降、イギリス海軍では代将制度は続けられている。


 特に平民階級出身者が、海軍士官で佐官までの昇進が可能になった時代からは、代将は平民階級の最高階級でもあった。


 この司令も貴族出身の士官では無く、平民出身の士官である。


「やはり、我々を真っ先にロケット攻撃してきたか・・・」


 代将は、にやりと笑った。


「これで、我が艦隊の役目は終わった・・・」


 代将はウイスキーグラスに入った、ウイスキーを口に入れた。


「すまんな。こんな事に付き合わせてしまって」


 代将は振り返り、部下たちの顔を見回した。


 巡洋戦艦にしては、航海艦橋にいる操艦要員たちが、少なく感じる人数だった。


 それもそのはず、[アンソン]を含めて他の4隻の駆逐艦も操艦や戦闘になったとしても支障が出ないレベルの最低限度の要員で各艦を操艦している。


「いえ、司令と共に働けたこの3年間は、とても充実していました」


 艦長が、代将の隣に立つ。


「ロケット弾を確認!数3発、本艦に急速接近中!」


 見張員から、報告が入る。


 海面スレスレを高速飛行する3発のロケットは、[アンソン]の1000メートル手前で急上昇し、そのまま急降下した。


 3発のロケットは第1弾が1番砲塔手前に直撃し、弾薬庫までに突入した。


 第2弾は、航海艦橋上部に直撃し、そのまま内部まで進入した。


 第3弾は、中部甲板に直撃し、機関室まで達した。


 3発のロケットが炸裂し、[アンソン]の艦体は大きく吹き飛び、そのままくの字となり、轟沈した。


 巨大な火柱が上がり、それは遠くの海上からでも確認できる光景だった。


[アンソン]が轟沈してから、わずか数秒後に計ったかのように、4隻の駆逐艦に砲弾が直撃し、レーダー、艦橋、通信アンテナに寸分のズレも無く、命中し[アンソン]程では無いが、爆発炎上した。





[しおかぜ]の艦橋に設置されているモニターには、無人偵察機が捕らえた機体下面の高性能カメラの映像が流された。


「艦長。対空レーダーに低空飛行するF-4EJ改を探知しました。まもなく、イギリス海軍空母機動部隊の対空レーダー探知圏内に入ります。3分後にレーダー探知圏外まで降下します」


 CICから報告が入る。


「副長!軽空母2隻から航空機が発艦中!上空警戒のための艦上戦闘機と思われます!」


 CICでは、軽空母2隻の機動部隊を監視していた、対空レーダー員が報告する。


「第3航空艦隊の仇は、自衛隊が取らせてもらう」


 対空レーダーを見ながら、生島はつぶやいた。

 矛と盾 第9章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

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