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矛と盾 第6.5章 矛盾する思考と感情、それがもたらすもの

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 北マリアナ諸島沖。


 新世界連合軍連合海軍艦隊総軍司令官が在艦する[ロナルド・レーガン]級航空母艦([ニミッツ]級航空母艦の発展型)[フォレスタル]([ニミッツ]級航空母艦11番艦)は、新世界連合海軍艦隊総軍司令部直轄艦隊の駆逐艦、フリゲート、原子力潜水艦、潜水艦等に護衛されて、南東諸島を目指して北上していた。


 菊水総隊海上自衛隊第2護衛隊群から第6護衛隊イージス護衛艦[きりしま]、第2護衛隊汎用護衛艦[あまぎり]の2隻が派遣され、[フォレスタル]の随行艦として同行している。


 艦隊の上空護衛として、新世界連合軍連合空軍と菊水総隊航空自衛隊の戦闘機が展開している。


 菊水総隊航空自衛隊からは、南西諸島と関東地方を除く西日本全域の防空を担当する第85航空隊第207飛行隊に所属するF-15J(近代化改修が行えない初期型機であり、南西諸島の防衛を任されているF-4EJ改と同じ扱いである)が6機編隊で展開飛行を行っている。


 新世界連合軍連合空軍からは、F-15CとF-15SGがそれぞれ6機ずつで、編隊飛行を行っている。


 さらに上空には、早期警戒管制機と護衛のF-16Cが2機護衛戦闘機として随行している。


 空、海上、海中からも鼠1匹を見逃さない布陣である。





「あぁ~。面倒臭え~」


 イージス護衛艦[きりしま]の艦長室で、書類に目を通しながら、艦長の杉山驍(すぎやまげん)1等海佐はブツブツとつぶやいていた。


「おほん!!」


 艦長室のドアの前で、仁王立ちになっている先任伍長が、わざとらしい咳払いをする。


「今日中に、その書類全部に目を通して、サインと捺印をしていただきます」


 先任伍長の無慈悲な宣告に、杉山は恨みがましい視線を向ける。


「・・・いつもなら、副長が全部やってくれているんだ。今回もそれでいいだろう」


「ダメです!大体、艦長はいい加減過ぎます。面倒がって、後回しになさっているから、こんなにたまるのです。副長に任せるのも結構ですが、新世界連合軍の他の指揮官の目もあります。艦長が怠惰では示しがつきません!!」


 艦長に直接助言をする権限を有する先任伍長の正論に、杉山は反論を封じられた。


 何しろ、某国海軍では先任伍長は、場合によっては艦長を逮捕する権限を与えられている。


 言わば、影の権力者と言っても過言ではないだろう。


「あぁ~空が青いなぁ~」


 脳内で現実逃避をしながら、杉山はぼやいた。


「ぼやいている暇があったら、目と手を動かして下さい。終わるまで、1歩も艦長室から出しませんよ」


 先任伍長の冷たい宣告が降る。


 因みに第1、第2護衛隊群の曹士たちの間では、こんな、ここだけの話が存在する。


 曰く、「もしも、第1、第2護衛隊群のイージス艦の艦長たちが、夏休みの宿題を出されたら?」である。


[あかぎ]艦長神薙は・・・計画的に宿題をこなして、夏休みのお盆前に終わらせる。


[あしがら]艦長向井は・・・無計画ながら、夏休み終了間際に辛うじて終わらせる。


 そして、残り2人は?と言うと。


[きりしま]艦長杉山は・・・面倒臭がった挙げ句、夏休み終了前1週間は地獄を見る。


[こんごう]艦長橘田は・・・やる気が出ればする。出なければ、ガン無視。


 だそうだ。


 そもそも、何故夏休みの宿題なのか、その話の発生元は不明ではあるのだが、それぞれの艦長の性格や言動などから、そう言われているらしい。


 これは、冗談半分の分析だが、強ち間違ってはいないだろう。


 ただし、その話を聞いた杉山には、少し訂正を入れたい部分がある。


「神薙は、結構あれで大雑把な所があるぞ。俺と同じ血液型だからな」である。


 それはさておき。





「失礼します!!」


 そんな、すったもんだの状況に、副長が待ったをかける。


 副長の佐伯(さえき)千夏(ちなつ)2等海佐がノックも無しに、勢い良く艦長室のドアを開けて入ってきた。


 よほど慌てていたのか、ドアをぶち破るような勢いだった。


「グエッ!!!」


 コワ~い先任伍長が、ギャグ漫画のお約束通りに、ドアと壁に挟まれて潰れた蛙のような声を出した。


「あっ!!?ごめんなさい!!」


「ギャハハハハハ!!ナイスだ、副長!!」


 さすがにこれには、杉山も大爆笑した。


(いたい)()な艦長を、苛めるからそうなる」


「誰が!!?」と猛烈な突っ込みが入りそうなセリフを述べる。


「艦長!冗談を言っている場合ではありません!!」


 佐伯が怒鳴る。


「何だ?」


 佐伯の様子から、ただ事でないと理解した杉山が真顔に戻る。


「先ほど統合幕僚本部から連絡が入りました。大日本帝国海軍第3航空艦隊が、英軍空母艦隊の艦載機からの航空攻撃を受けたそうです」


「・・・損害は?」


「はい。旗艦[龍驤]及び[祥鳳]は航空攻撃により、大破炎上中という事です。沈没の危険はないようですが、護衛に当たっていた軽巡、駆逐艦等の被害状況、死傷者数は現時点では不明です」


「・・・・・・」


「艦長?」


 急に杉山は立ち上がり、デスクの上にあった書類の束を破り、投げ捨てた。


 破れた紙が、宙を舞う。


「「艦長!?」」


 突然の杉山の行動に、佐伯と先任伍長は叫び声を上げた。


「・・・わかっている。俺たちのやっているのは戦争だ・・・1人の犠牲も出ないなんて事は、ないってな・・・だがな!!」


 そう言って、杉山は大きく息をついた。


 正直、どうしてそうなったか、大体予想がついている。


 かつて、杉山が佐伯に語った事がある、男には頭でわかっていても、感情でどうしても譲れない事があると。


 今回、それが悪い方向に行ってしまった結果だろう。


「・・・副長、引き続き情報を集めてくれ」


「はい」


「・・・・・・」


 杉山はデスクの前に座ると、無言で一点を睨んでいた。

 矛と盾 第6.5章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は10月24日を予定しています。

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