矛と盾 第3章 英軍空挺団降下作戦
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
大魚島にオランダ海兵隊を中核にした連合軍が上陸してから、わずか数時間後に、南幸島に展開していた幸島警備隊誘導弾中隊移動式レーダー小隊の索敵対空レーダーが、島に接近する多数の航空機群を探知した。
その数、100機以上であった。
イギリス陸軍第42空中強襲旅団は、アメリカから提供された、改良型試作機であるC-46を使って、南東諸島南幸島にある大日本帝国軍飛行場に接近していた。
イギリス陸軍と言っても、同旅団に所属する4割は、東南アジアのイギリス領から徴募した現地民がほとんどである。
しかし、彼らは日本への反攻作戦のために、インドで何度も空挺降下訓練を積んだ精鋭揃いだ。
「目標まで5分!いいか、もうほとんど燃料は無い。降下地点上空には長くいられないぞ!」
1番機である、C-46の機長が叫ぶ。
空挺作戦では、C-46にできる限りの燃料を満載した状態で、イギリス軍に航空基地を貸し与えた中国軍(国民党でも共産党でも無い勢力)の基地から離陸して、なんとかたどり着ける状態だった。
そのため、第42空中強襲旅団の将兵たちが個人携帯する銃火器の弾薬は最低限であり、携帯食糧も3日分である。
空挺部隊を降下させた後、C-46群はそのまま中幸島の海岸線に不時着し、イギリス軍、インド帝国軍、オランダ軍、義勇軍で編成された上陸部隊第1陣と合流する事になっている。
「目標まで5分だ!我々の戦場では、イギリス海軍の空母から発艦した艦載機群が、島に攻撃を仕掛けている為、大日本帝国軍は、その対応に追われている。さらに洋上からも駆逐艦数隻が突入し、島に艦砲射撃を加える。我々が上空で撃墜される危険性は少ない!」
第42空中強襲旅団長のアモス・バネン・ボネット准将は、1番機の機上で叫んだ。
「目標まで2分!」
「降下準備!」
ボネットが叫んだ。
落下傘を装備した、イギリス兵たちが座席を立った。
予想通り、飛行場周辺からはわずかな対空砲火があるだけで、彼らが恐れるロケット弾による迎撃は無い。
その瞬間、機内で点滅していた赤ランプが緑色に変わった。
「降下!」
ボネットが飛び出す。それに続いてイギリス陸軍の空挺兵たちが次々とそれに続く。
幸島駐屯地に隣接する航空予備軍の飛行場には、わずかな対空砲陣地のみを配置し、対空砲による申し訳程度の対空砲撃を行っていた。
もはや、連合軍が本格的な島嶼奪取に動き出せば、行動に制限がある離島での防衛は困難と判断し、あらかじめ計画された防衛計画に従い行動した。
「隊長!輸送機群より多数の落下傘を確認!」
幸島警備隊普通科中隊第5小隊は、飛行場の対空砲陣地から空を見上げながら、イギリス軍のマークがある輸送機群から降下する空挺兵を確認した。
「射程距離に入ったら、対空射撃開始!」
伊花は、双眼鏡で上空を確認しながら叫んだ。
彼の小隊には、対空射撃用に設置した12.7ミリ重機関銃座がある。
「装填よし!」
12.7ミリ重機関銃を操作する機関銃手が、レバーを引く。
「射程距離!」
「撃て!」
森切の報告に、伊花が叫ぶ。
空に向けられた12.7ミリ重機関銃が、一斉に火を噴く。
12.7ミリ重機関銃から、曳光弾が撃ち出され、明るくなりつつある空を明るくする。
しかし、これは単に敵に抵抗がある事を見せているだけで、空挺降下阻止が目的では無い。
だからある程度の段階で、伊花小隊は高機動車(防弾仕様)に移動し、退却する。
C-46から飛び降りた、イギリス陸軍第42空中急襲旅団第422落下傘歩兵連隊第4221連隊C中隊ジミー小隊長のジミー・マコーリー少尉は、落下傘を開傘させて、ゆっくり降下する。
飛行場周辺から、対空砲が火を噴いている。
マコーリーは対空砲火を受ける事無く、無事に降下地点に着地した。
すばやく、落下傘等を取り外して、自分の装備を手にする。
ハワイやフィリピン等での戦闘で、大日本帝国軍は、ドイツ第3帝国国防軍陸軍が保有する自動小銃をはるかに上回る自動小銃を武装している事から、イギリス軍ではニュージーランド軍に要請して開発されたばかりのチャールトン自動小銃をベースとした独自仕様の自動小銃を、空挺部隊用と歩兵部隊用にそれぞれ開発した。
北アフリカ戦線でドイツ第3帝国国防軍陸軍から鹵獲した、SiG44等の調査データを元に、様々な改良を加えられている。
部隊では[クロムウェル]という愛称で名付けられた自動小銃は、空挺部隊では[クロムウェル・カービン]と呼称する。
マコーリーはクロムウェル・カービンをフルオートモードにして、同じく無事に着地した部下たちと共に、飛行場の制圧にかかる。
だが、第42空中強襲旅団が幸島飛行場に降下すると、先ほどまで対空砲火を行っていた対空砲がピタリと止まった。
大日本帝国兵たちは抵抗する事無く、そのまま退却した。
もちろん、持ち運べない対空砲はただちに爆破した。
「全部隊に告ぐ。深追いは無用だ。飛行場の制圧と防衛陣地構築を急げ」
ボネットは、目的達成を優先した。
特に第42空中強襲旅団は、手持ちの弾薬や予備弾薬は最低限度しか無く、早く補給部隊が到着せねば、飛行場奪還に来た日本軍の大規模反撃には対処できない。
マコーリーは、自分の小隊と共に飛行場の防衛配置についた。
輸送機から投下した機関銃や、迫撃砲等が入れられたコンテナを回収し、太陽が西に傾く頃には機関銃座と迫撃砲陣地を即席の陣地に構築した。
「設置完了!」
ヴィッカース重機関銃の操作を担当する機関銃手が、報告した。
弾薬補給や機関銃手の補佐を担当する兵が、いつでも予備弾薬を使えるように準備をする。
「日本兵は夜襲が得意だ!常に迫撃砲からは照明弾を打ち上げて、周囲を照らせ!」
マコーリーは、迫撃砲陣地に無線で叫んだ。
照明弾が打ち上がった時、前方の茂みから動く陰が見えた。
「いたぞ!」
ヴィッカース重機関銃の機関銃手たちが叫び、ヴィッカース重機関銃の銃口から火が噴いた。
連続した発射音と共に、前方の茂みに弾丸が撃ち込まれる。
すると茂みの中から、単発射撃ではあるが、半自動小銃と思われる小銃から銃弾が撃ち返された。
「撃て!!撃て!!」
マコーリーが叫び、彼の部下たちがカービン銃を撃ちまくる。
「待て、撃ち方やめ!!撃ち方やめ!!」
小隊軍曹が叫ぶ。
彼の命令で、マコーリー小隊が射撃をやめる。
「どうした?」
マコーリーが聞く。
「あれは単なる威力偵察です。我々に無駄弾を撃たせているだけです」
小隊軍曹が、ベテラン下士官らしく言った。
マコーリーが照明弾に照らされた茂みを見回すが、人間らしい陰は発見できない。
「小隊長。中隊長からです!」
無線兵が無線機を持って、マコーリーに伝える。
「私です」
「日本軍守備隊は、恐らく予定の退却行動をとったと思われる。今後、我々に無駄弾を撃たせるための威力偵察や挑発行為を行うものと思われるが、大規模反撃以外では交戦するな!あくまでも追い払う事を目的とした射撃にとどめろ!」
中隊長は、飛行場防衛陣地の警備部隊に厳命した。
日の出と共に中幸島の海岸線から、イギリス国旗、オランダ国旗、インド国旗を掲げた輸送船、戦艦、巡洋艦、駆逐艦等の戦闘艦艇が現れた。
それは、海を覆い尽くす程の艦数だった。
その戦闘艦艇から、一斉に砲煙が上がった。
艦砲射撃が始まった。
上陸地点と思われる海岸線には、駆逐艦クラスの艦艇が、しつこいくらいに砲弾を撃ち込んだ。
その艦砲射撃中に輸送船から次々と上陸舟艇が降ろされ、中幸島の海岸線に向かった。
上陸舟艇が砂浜に乗り上げると、そこから、イギリス歩兵、オランダ歩兵、インド歩兵が次々に吐き出された。
もちろん、軽戦車や中戦車も上陸する。
イギリス陸軍歩兵戦車のマチルダⅡや、アメリカ陸軍から供与されたシャーマン・ファイアフライの姿もあった。
連合軍の上陸の状況を、幸島防衛と警備を任されている大日本帝国陸軍第12軍第116独立旅団長の少将は、幕僚たちと共に上陸地点を一望できる山の中腹から双眼鏡で確認していた。
「攻撃を、開始しますか?」
参謀長の大佐が尋ねる。
「まだ、早い」
旅団長は、双眼鏡で確認しながらつぶやいた。
「全将兵が、総攻撃の許可を求めています」
「第3陣の上陸部隊が上陸するまで待て」
旅団長が、海上から接近している第3陣の上陸舟艇を確認しながら告げた。
「上陸地点が、かなりの兵士や戦闘車両で溢れた・・・攻撃開始!!」
第3陣が、上陸舟艇から海岸線に上陸したところを見計らって、総攻撃の指示を出した。
「攻撃開始!!攻撃開始!!」
参謀長が無線機で、展開中の全部隊に攻撃命令を出した。
「攻撃開始!!!」
旅団司令部から攻撃命令が無線機から響くと、巧妙に隠蔽した即席トーチカから零式汎用機関銃が火を噴いた。
「撃て!!!」
第116独立旅団砲兵隊から10糎榴弾砲群が吼えた。
連合軍が上陸した海岸線には、たちまち機関銃弾の十字砲火の火線と榴弾砲、対戦車砲の砲弾の雨が降り注いだ。
身を隠す場所が無い連合国軍上陸部隊は、第1陣、第2陣、第3陣が展開と配置が完了していない状況下で火力が集中したため、上陸地点は混乱の渦に突入した。
さらに混乱状態の中で、巧妙に隠蔽していた一式支援戦車1個中隊が姿を現し、混乱した連合軍上陸部隊に砲撃を加える。
一式支援戦車は75粍戦車砲を搭載しているため、対歩兵戦を重視しているが、徹甲弾も装填できるため、イギリス陸軍の歩兵戦車やその他の軽戦車に対しては、十分に対処できる。
だが、混乱は最初だけであり、その後は洋上に展開している戦闘艦艇から弾道修正を行われた状態で艦砲射撃が行われた。
洋上艦からの援護で、落ち着きを取り戻した連合軍上陸部隊は、さらに上陸部隊が追加され、その士気を高めた。
「旅団長。これ以上の戦闘の継続は無用と考えます。次の戦いもあります。海岸に展開させた部隊に撤退命令を出しましょう」
参謀長が進言する。
「敵は洋上艦からの艦砲射撃と次々に上陸する増援部隊でその対応に追われている。今なら、安全な撤退はできるが・・・念には念を入れるべきだ」
旅団長がそうつぶやくと、通信参謀に命令した。
「菊水総隊陸軍幸島警備隊に連絡。噴進弾による火力支援要請」
旅団長の命令はすぐに伝えられ、南幸島から移動した幸島警備隊誘導弾中隊第1対舟艇対戦車小隊の96式多目的誘導弾システムから、多目的誘導弾が2発発射された。
多目的誘導弾は、戦車や上陸舟艇への攻撃用ではあるが、対人攻撃も可能である。
連合軍の将兵にとってミサイルはかなりの心理的効果が期待できるため、単純に部隊を撤退させるなら、地雷よりも効果は絶大だ。
幸島警備隊本部管理中隊情報小隊は、幸島飛行場を占拠したイギリス陸軍空挺部隊の様子を把握していた。
情報小隊は普通科連隊に所属する隠密偵察部隊であり、師団叉は旅団の偵察隊では無い。
OD色で塗装された偵察用オートバイを活用し、敵情偵察を行うのは一般国民には馴染みのある光景だ。
情報小隊は、普通科隊員の中では一番レンジャー資格保有者が多く、同部隊のみ他の普通科隊員とは異なる専門的教育を受ける。
ギリースーツを着込んだ情報小隊の隊員2名が、オートバイを横に寝かせた状態で敵情偵察を行った。
3等陸曹が、一眼レフカメラで飛行場と周辺の撮影をする。
隣にいる陸士長は、双眼鏡で目標を確認しながら、メモ帳にボールペンを走らせる。
「機関銃座が1、2、3、4・・・4挺か、間隔を空けて側面からの奇襲攻撃に備えているな。塹壕には1個中隊クラスの兵士が展開して、守りを固めているか」
一眼レフのシャッターボタンを押しながら、3曹がつぶやく。
「その後方に迫撃砲陣地が、3つあります」
相棒の台詞に、3曹は聞いた。
「迫撃砲弾は、確認できるか?」
「今までに、迫撃砲弾を入れている箱を2つ確認しました。各陣地に2つです」
士長の報告に、3曹はうなずいた。
「どうやら、飛行場を制圧した空挺部隊の予備弾薬は、あまり多くないという訳か・・・」
「そのようです。我々が早朝から偵察を行いましたが、度々、空母から発艦したと思われる艦載機が爆弾では無く、箱を投下していますから。恐らく、あれが予備弾薬等の支援物資かもしれません」
「かもでは無く、そうだろう」
3曹は、根拠のある口調で告げた。
「その証拠に飛行場に接近する際に3機程度の小編隊で低空を飛行しながら、投下している。恐らく俺たちの誘導弾に警戒しているのだろう」
「つまり、敵も我々が保有する各種ミサイルが怖くて、満足に補給物資を送れず、思うように部隊展開ができないという事ですね」
その時、3曹の右腕に装着したストップウォッチから振動を感じた。
「時間だ。指揮所に戻るぞ」
3曹がそう言うと、慎重に地面から立ち上がり、偵察用オートバイを起こし、相棒と共にその場を離れた。
背中に回していた89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を前に回した。
上空では小型の無人偵察機と、地上では小型の無人偵察車がリアルタイムで情報を送信しているだろうが、やはり人間の目で見て、耳で直接聞くのが偵察には重要である。
映像だけでは、どうしても把握できない事がある上に、いくつかの問題で使用不能になる場合もある。
「3曹。これから反撃開始ですか?」
「上が考えている事は知らないが、そうだろうな」
偵察用オートバイを走行させながら、ヘッドセットで2人は会話する。
「その前に、海上にいる洋上艦を撃破するのが先だろう」
「じゃあ、海上自衛隊と海軍が活躍する訳ですか?」
偵察用オートバイに乗車した2人は、そのまま速度を上げて森林走行を行う。
矛と盾 第3章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。




