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矛と盾 第1章 統合省防衛局長官直轄部隊幸島警備隊

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 南東諸島に属する幸島は、大小10以上ある島の中で最大の島である有人島。


 80年後の時代から来た、未来人の地理には存在しない諸島である。


 これについて、未来から来た日本人が質問しても、大日本帝国の人々は皆怪訝な表情を浮かべて「昔からあった」と答えた。


 因みに、未来から一緒に来た専門家の話で、海岸線等が当時の資料と異なっている場所も多々あると報告されたそうだ。


 これについては、彼らが様々な議論や検証をしているそうだ。


 南東諸島と幸島の命名は大日本帝国建国時に付けられた。


 それ以前は同諸島の名は、罪人諸島と呼称されていた(主に中国と中国の属国の呼称である)。


 その諸島の住人たちの先祖は、中国及びその属国等で流刑になった人々を追放するための流刑地であったし、イギリスやオランダ等を含む西欧列強も、植民地等から強制的に連れてきて売れ残った奴隷や、権力争いに敗れて追放処分となった、ヨーロッパ系の貴族階級だった者等が流れ着いたと言われている。


 そのため、その島の存在が明らかになってもどこの国も、この島を罪人の島として忌み嫌い、いかなる貿易も行わなかった。


 ただ、日本だけがこの島に手を差し伸べた。


 最初にこの島を救ったのは、薩摩藩であった。


 薩摩藩は、独自にこの島と交流し、親交を深めた。


 そして、時が流れて激動の幕末時には、幸島の島民は薩摩藩に味方し、あらゆる支援を行った。


 明治に入り、大日本帝国が建国された時、この南東諸島の所有権を主張する国は無く、大日本帝国に併合された。


 その際、罪人諸島という名は不憫であるとして、南東諸島と幸島の名前を与えた。


 基本的に南東諸島は、縁起のいい名前が島に与えられている。


 幸島は3つに別れて、北幸島、中幸島、南幸島からなり、海が間にあるが、干潮時の水深は、一番深くても1メートル半ぐらいで大人なら歩いて渡れる(ただし、人食い鮫のオオメジロザメがうろついているため、無事に渡れるかは不明)。


 幸島は鹿児島県下に属する市であり、人口は5万人強。


 主に平地が多い中幸島に、島民の7割が生活している(南幸島に2割、北幸島に1割である)。


 幸島と南東諸島の防衛と警備を任されている大日本帝国陸軍南西軍第15軍も、中幸島に駐屯している。


 海軍は、比較的波が穏やかな北幸島の北端に、基地隊が置かれている。


 防衛局長官直轄の統合運用部隊が、航空予備軍と共に南幸島に駐屯している。


 さらに幸島に興味を持った日本共和区統合省地下資源調査委員会は、同島の地下資源調査を行った。


 すると、北幸島に豊富な原油が眠っている事が判明した。


 もっとも、無資源国家日本と言われるが、まったく無資源では無いと言われている。


 実は、日本の地下には約100年分くらいの、原油と石炭が大量に眠っているらしい。


 しかし、諸外国と比べて地下資源は日本の場合、地中深くに眠っている上に、その土も極めて固い。


 このため、それを採掘するには、諸外国の石油産地国等よりも莫大な予算がかかる。


 だから、掘らないのだ。


 しかし、幸島の地質調査をすると、他の石油産地国と比べれば地中深くにあるが、土がそれほど固く無いため、予算もぎりぎり採掘予算内にとどまる計算だ。


 原油量も彼らの調査では、南方の油田地帯を攻略しなくても、20年間は問題無いレベルの量だ。


 すでに採掘作業が行われているが、やはり地中深くまで掘らなくては行けないから、その分機械的なトラブルも多い。


 今のところ、輸入量は多くないが中国国民党と共産党から、それぞれ所有する原油を輸出してもらっている(だが、現在の中国は中国史の三国時代状態である)。


 しかし、本格的な激動になれば、その輸入も途絶える。


 だから、いくつものプランが必要なのだ。


 もちろん、原油の採掘はこの島だけでは行われてはいない。


 もっとも低予算で条件上問題無い土地から原油の採掘も行っている。





 陸上自衛隊幸島警備隊は、幸島の防衛と警備を任されている大日本帝国陸海軍及び航空予備軍の駐留部隊よりも、かなり少ない。


 幸島警備隊は500名であり、隊本部、本部管理中隊、普通科中隊(6個普通科小隊、1個迫撃砲小隊)、誘導弾中隊(88式地対艦ミサイル小隊、中距離多目的誘導弾小隊、11式短距離地対空誘導弾小隊)、後方支援隊、業務隊で編成されている。


 主な編成は、元の時代で編成されていた対馬警備隊、南西諸島の各離島で編成されていた警備部隊から各隊員を引き抜き、1200名強(プラス500名の新幹部及び新隊員)の離島警備を専門とする警備部隊をこの時代に投入した。


 同部隊は、菊水総隊陸上自衛隊、破軍集団陸上自衛隊のいずれの指揮下にも置かれず、防衛局長官から直接の指揮を受ける独立部隊である。


 幸島警備隊の指揮官は、連隊長クラスの1等陸佐が任命されている。


 各中隊長も3等陸佐叉は、1等陸尉が任されており、業務隊隊長は幸島警備隊副隊長も兼任し、駐屯地及び利用施設の運営と管理、有事の際には増援部隊として投入される菊水総隊陸上自衛隊、破軍集団陸上自衛隊の上陸誘導や降下叉は着陸地点の誘導と増援部隊との防衛行動の打ち合わせ等を担当する。


 幸島警備隊隊長の土谷正就(つちやまさつぐ)1等陸佐は、南幸島駐屯地の会議室で、自身の幕僚たちと幸島の警備防衛計画について議論していた。


「フィリピン諸島及び、南太平洋は大日本帝国の制海権下にあり、フィリピン海及び南シナ海は、菊水総隊海上自衛隊第2護衛隊群と海上保安本部第1船隊群が海上警備を行っており、さらに保安庁海上警備隊の沿海警備艦と海軍の哨戒艇等が海上警備しています。南太平洋には菊水総隊海上自衛隊から1個潜水隊が派遣され、保安庁海上警備隊と海軍が海上警備を行っています」


 情報担当の第2科長である3等陸佐が、世界地図にレーザーポインターを使って説明する。


「しかし、これらの海上警備も万全では無く、たびたび、連合軍潜水艦に突破されています。2日前に海上自衛隊幸島防備所が探知したイギリス海軍の潜水艦から発信されたと思われる暗号通信と、中幸島に隠密上陸した日系イギリス人の工作員を海岸地区で巡回していた自治体警察官が逮捕した情報が南幸島町警察署経由で情報提供されました」


「工作員の目的は?」


 土谷が、顎の無精髭を撫でながら聞いた。


「幸島に駐屯する国家憲兵隊に身柄を引渡され、現在、尋問中という事です」


 第2科長からの報告に、土谷は世界地図の隣に置かれている幸島の地図を見下ろした。


「統幕本部からの情報では、南東諸島叉は先島諸島への連合軍による攻撃の可能性があると結論付けられている。第3科長、万が一にも本島に上陸された場合の防衛計画はどのように進行している」


 土谷が第3科長の2等陸佐に顔を向けると、彼は答えた。


「陸軍の第12軍と共同での防衛計画を議論していますが、彼らは連合軍からの大規模上陸は低いと考えています。コマンド部隊による後方攪乱を目的とした攻撃のみと、結論付けています」


 第3科長からの説明に、土谷は小声で「やりきれん・・・」とぼやいた。


「ですが、島民の避難計画に関しては、積極的に協力してくれています。もっとも地形が険しい北幸島南部に島民を避難させるそうです。あそこは自然界が生んだ山岳地帯であり、防空壕兼避難所としても使用できるようにしていますから」


「島民の安全を確保しても、島の防衛と警備を担当する軍隊が緒戦で壊滅したら、あまり意味が無い」


 土谷はそうつぶやき、ため息をついた。





 北幸島から北に1キロ半の距離に位置する無人島で、幸島警備隊普通科中隊第5小隊は、大日本帝国陸軍版海兵隊と言うべき、水陸戦闘団とゲリラコマンドによる攻撃に備えた合同訓練を行っていた。


 新世界(ニューワールド)連合軍多国籍特殊作戦軍陸軍特殊戦コマンドアメリカ陸軍特殊部隊群第1特殊戦グループから派遣された1個小隊をアグレッサー部隊として、対ゲリコマ訓練を行った。


 この無人島は、主に自衛隊と軍の演習場として使用されており、平地、山岳地帯、森林地帯がバランス良くあるため、幸島防衛と警備訓練には適していた。


 平地の一部に木造住宅街や簡易の市街を作り、市街地戦の訓練も実施している。


 今回の想定訓練は、森林地帯の奥にある小さな集落がゲリラ部隊に占拠された事を想定していた。


 幸島警備隊普通科中隊第5小隊長の()(ばな)睦生(むつお)3等陸尉は、匍匐前進しながら目標の小集落にゆっくり接近していた。


「常駐警備が6人、巡回警備が6人」


 伊花は双眼鏡で、小集落を確認しながら、つぶやいた。


 顔や口調からわかるように、伊花は新幹部だ。


 幸島警備隊普通科中隊に所属する6個小隊のうち、第1から第4小隊は離島警備隊出身の精鋭隊員で編成されているが、伊花が指揮する第5小隊と第6小隊は、新幹部や新隊員がほとんどで、主にコア部隊的な扱いを受けている。


「水陸戦闘団の制圧部隊も、配置を完了している時間帯です」


 伊花小隊の小隊陸曹である森切佳(もりきりよし)(いち)1等陸曹が、双眼鏡で確認しながら、つぶやく。


 森切は40代のベテラン陸曹であり、伊花とは親子に近い程歳が離れている。


 小隊陸曹の森切は、顔つきや口調から小隊内では厳格の父親的存在であり、小隊長の伊花は兄的存在である。


 第5小隊の中では一番の年長者であり、離島警備隊経験者の陸曹だ。


 他の陸曹(伊花小隊に属する指導陸曹は除く)は、20代も30代だが、経験が浅い。


「了解。1班と2班は集落の制圧準備。水陸戦闘団の先遣隊が集会場に囚われている村人の安全を確保できしだい突入。3班は緊急事態に備えて待機」


 伊花は森切に告げると、彼は的確に各班に指示を出した。


「隊長。行動開始時刻です」


 森切が、腕時計を確認しながら告げた。


 時間通りに集会場がある場所から大きな音が響いた。


 訓練用の特殊閃光弾が使用された事を教える音だ。


 狙撃手からの援護射撃を受けながら、片手で運用できる小型防弾盾を持った隊員とその背後からMP5を装備した隊員が突入する事になっている。


「隊長。水陸戦闘団より、人質の安全を確保!次の行動に移れ。です」


 小隊長付の無線員が、報告する。


「1班、2班。突入!」


 突入のタイミングを計っていた各隊員が飛び出し、警備要員たちを排除する。


 アグレッサー役のアメリカ陸軍特殊部隊群の小隊は、この時代の主武装である短銃身小銃のM1カービンや、短機関銃であるM1A1[トンプソン]等を武装して抵抗する。


 ちなみに今回の演習で使用している自衛隊、陸軍、新世界連合軍のアメリカ軍の銃火器は実銃に近い電動エアガンと高圧ガスガンである。


 これは単純に、予備に限りがある実銃を可能な限り使わないための配慮と、この時代の連合国軍等の主武器を入手する際にモデルガンの方が安価に入手できたからだ。


 今回の対ゲリコマ訓練は、あくまでも第5小隊の練度向上が主目的であり、水陸戦闘団とのゲリコマ共同対処時に同小隊も問題無く行動できるようにするためだ。



 準備運動と言うべき、水陸戦闘団との共同訓練を終えた翌日。


 第5小隊は、本日から幸島警備隊と菊水総隊陸上自衛隊第15旅団との共同防衛演習に参加する事になっていた。


 参加部隊は幸島警備隊、第15旅団第51普通科連隊第1普通科中隊と第15ヘリコプター隊第2飛行隊(CH-47JA[チヌーク])である。


 今回の演習では実弾射撃訓練も含まれているから電動エアガンでは無く、実銃である。


「小隊陸曹。第15ヘリコプター隊第2飛行隊の着陸地点はここだ。僕たちはこの着陸地点に着陸誘導班、周辺警戒班の2つに別けて、第51普通科連隊第1中隊が搭乗したCH-47JAを無事に着陸させる事になっている」


 朝の8時に完全装備で出撃した第5小隊は、夕方の16時には目的地に到着した。


 伊花は森切と、簡単な打ち合わせをしていた。


 その間、第5小隊の他の隊員たちには、背嚢に入れていた戦闘糧食Ⅱ型[パックメシ]で早めの夕食と休息をとらせていた。


「第15ヘリコプター隊第2飛行隊は、本日の2200時に着陸誘導班の誘導に従い着陸地点に着陸します。隊長からは周辺警戒班は全員暗視装置を装着した上で警戒を厳にするようにと指示を受けています。エクアドルでの1件から、特にヘリが着陸する際の安全確保にはかなり念入りに検討しています」


 森切が、地図を見下ろしながら告げた。


「周辺警戒だけど2個班を投入して、指導陸曹に2個班の指揮を任せようと思う」


「それがいいでしょう。指導陸曹は部隊勤務15年以上の経歴がありますから、十分に若い班長2人の指揮を行えるでしょう」


 森切の言葉に伊花はうなずいた。


 第5小隊に所属する3個班班長は、一番年少の3等陸曹は21歳だ。


 他の2人の陸曹も20代後半叉は30代であるが、班長になって1年から2年半程度だ。


 年少の3曹は、自衛隊生徒学校出身の陸曹だ。


 経験の浅い陸曹2人のどちらかが指揮をとるのでは無く、指導陸曹である2等陸曹が指揮する方がいい。


 21時まで2交替制で、周辺警備と休息が行われた。


 指示された21時の時刻を迎えると、第5小隊はCH-47JAの着陸誘導と着陸地点周辺の警戒のために各班が迅速に行動した。


「2150、隊長。第2飛行隊からの通信時間です」


「着陸地点Bより、第2飛行隊、応答せよ」


 伊花は無線員が背負う大型携帯無線機から、CH-47JA編隊(4機編成)に交信を行った。


「こちら第15旅団第15ヘリコプター隊第2飛行隊。着陸地点Bに接近中。予定通り着陸する」


 CH-47JA編隊長が回答した。


「着陸誘導の信号を発信する。受信を確認してくれ」


 伊花がそう言うと、森切が着陸誘導班として配置されている第3班に指示を出す。


「こちら第2飛行隊。着陸誘導信号を受信した。これより着陸する」


 CH-47JA編隊長が言い終えると、遠くから聞こえていた大型ヘリのローター音が近づいてきた。


「小隊長より、周辺警戒班へ、かすかな動きも見逃さないように」


 伊花が周辺警戒班の第1班と第2班に注意する。


 常に実戦を意識させるため、演習に参加した部隊にドッキリ演習が行われる事は、隊員たちの噂で広まっている。


 ドッキリ演習については、幹部自衛官の中でも上級幹部クラスにしか教えられない。


 しかもこのドッキリ演習は、かなり隊員の肝を冷やす刺激的な物だ。


 うまくできず、失敗して叱責されるよりも洒落にならない事も数件報告されている。


 着陸誘導班の隊員の誘導に従い、4機のCH-47JAが着陸する。


 着陸後第15旅団第51普通科連隊第1普通科中隊の隊員と装備を吐き出す。


 今回は何のドッキリ演習も無く、拍子抜けをするぐらいだった。





 演習が終わり、隊員たちが宿舎に戻ったのは、時計の針が翌日を示した時だった。


「あ~、やっと終わった」


 点呼と簡単な反省会の後、簡易ベッドに潜り込んだ陸士が眠そうにつぶやいた。


「しかし、毎日訓練ばかりだと、何か戦時中だっていう実感がわかないな」


 同じように、ベッドに潜った陸士も欠伸混じりでつぶやいた。


 連日、菊水総隊や陸海軍の戦闘の情報は伝えられているが、単に伝えられる事だけでは実感が無いのは仕方の無い事かもしれない。


 防衛局長官直轄部隊は、予備部隊のさらに予備部隊の位置付けのように思われている。


 統合省や防衛局、幕僚本部の上層部はまったくそう思っていないが、階級が下に行くほど、その思いが強い。


 防衛局長官は、特に若手幹部に蔓延する危機感の希薄さを懸念していたが、こればかりはどうしようも無い。


 いつ、どこが最前線となるか?


 それがわからないのが、戦争の恐ろしさだ。


 どこか、対岸の火事のように、戦争を眺めている。


 それが、現在の彼らだ。


 暢気と言われれば、その通りと答えるしかないが、1942年3月下旬。


 連合国による、同時多発的侵攻作戦。


 日本本土防衛戦によって、その思いはあっさりと覆された。

 矛と盾 第1章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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