矛と盾 序章 1 アドミラルの独語
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
アメリカ合衆国サンディエゴ海軍軍港を出港した、マーク・アンドリュー・ミッチャー少将率いる奇襲攻撃艦隊は、厳重な無線封鎖と灯火管制の下で対潜、対空警戒を厳にして、北太平洋から太平洋を西進していた。
ミッチャーが乗艦し、少将旗を掲げているのは航空母艦[ワスプ]である。
[ワスプ]の横に、航空母艦[サラトガ]が位置し、[ワスプ]と[サラトガ]の後方を艦隊防空と艦隊哨戒を担当する護衛空母[ロング・アイランド]がいる。
空母3隻の前衛に戦艦[ワシントン]が配置され、この4隻を囲むように駆逐艦、巡洋艦が配置されている。
ミッチャーは[ワスプ]のパイロット待機室に顔を出し、[ワスプ]艦載機群のパイロットたちの顔を見回した。
「諸君等の攻撃目標を伝える。諸君等は東京の軍事工場を爆撃する」
ミッチャーの言葉に、[ワスプ]艦載機群のパイロットたちの表情は、極めて険しかった。
「諸君等も知っての通り、日本軍は極めて優れた防空レーダーとドイツ空軍のジェット戦闘機を上回る迎撃戦闘機を揃えている。成功の可能性は出航前にも伝えたが、極めて低い。恐らく、諸君等のほとんどが本艦に戻ってこないだろう。それは[サラトガ]の艦載機群も同じだ。しかし、アメリカは開戦以来、日本に泡を吹かせられ続けられた。だが、誰かがやらなければ日本に一矢報えない。それが君たちだ」
ミッチャーは、正直に説明した。
日本軍の情報は、今年の2月に行われたアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドの連合軍の捨て身の作戦で、様々な貴重な情報を手に入れた。
ゴースト・フリートのロケット弾、レーダーの探知能力等の情報もかなり入手できた。
「それと、運良く諸君等の何人かが、爆撃に成功して本艦隊に戻っても、本艦を含めて全艦は傷だらけだろう。我々はできる限り日本本土近海まで近づき、諸君等を発艦させる。今からニミッツ提督からの指示を伝える。明日の午後20時に随行する駆逐艦2隻が本国に帰投する。全員家族宛の手紙を書き、明日の19時までに手紙箱の中に入れておく事、以上だ」
ミッチャーがそう言うと、先任士官がパイロットたちを起立させ、挙手の敬礼をした。
彼も答礼する。
ミッチャーはパイロット待機室を出ると、艦内の通路をゆっくり進む。
[ワスプ]と[サラトガ]の艦載機群は170機の戦闘機、爆撃機、攻撃機を搭載し、すべての機が東京に向かう。
爆撃機と攻撃機は爆装し、低空で日本の首都を空爆する。
まさに自殺任務もいいところだ。
しかし、この作戦に参加するのは自分たちだけでは無い。
攻撃隊の決死の攻撃が成功する可能性を高めるために、さまざまな陽動作戦が行われる。
ソ連極東の航空基地からも、Bー29が再び東京に向けて発進するし、中国の航空基地からは、別命を遂行するために、ジミー・ドーリットル中佐に率いられた爆撃隊が、ある場所へ向かう。
日本人たちに、自分たちが味わった恐怖を思い知らせる為に。
「しかし・・・」
そうミッチャーは、つぶやいた。
軍人は命令には絶対だ。
それは、いかなる体制の国家でも同様だ。
「・・・犠牲が多すぎる・・・例え作戦が成功したとしても、この犠牲に酬いるだけの戦果を挙げる事ができるのか・・・」
将兵たちを前線へ送りながら、戦場から遠く離れた本国から命令するだけの、政治家や軍上層部に不満はあるが、それを口にする事もできないもどかしさを、ミッチャーは感じていた。
矛と盾 序章1をお読みいただきありがとうございます。
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