断章
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
菊水総隊旗艦であるヘリコプター搭載護衛艦[くらま]は、フィリピン共和国(アメリカ軍の降伏後に独立した)ルソン島にあるスービック海軍基地に入港していた。
スービック海軍基地は、菊水総隊海上自衛隊第2護衛隊群、大日本帝国海軍聯合艦隊第2艦隊、第2航空艦隊の定住港であるが、第2航空艦隊に編入された第6航空戦隊[日向]型航空母艦1番艦[日向]と、2番艦[伊勢]のために第2航空艦隊は何度か出港し、第2航空戦隊[翔鶴]型航空母艦1番艦[翔鶴]と、2番艦[瑞鶴]は、艦載機が新規調達された艦載機に更新されたため、その訓練に日々を送っていた。
スービック海軍基地には、新世界連合軍連合海軍艦隊総軍司令官在艦の[ロナルド・レーガン]級航空母艦([ニミッツ]級航空母艦)11番艦[フォレスタル]と、新世界連合軍連合海軍艦隊総軍直轄の駆逐隊と、朱蒙軍海軍第1艦隊と第3艦隊も錨を降ろしていた。
トラック泊地から、一部の随行艦と共に入港した戦艦[大和]も停泊していた。
とてつもない大艦隊が、同基地に投錨していた。
戦艦[大和]に菊水総隊司令官である山縣幹也海将とその幕僚、新世界連合軍連合海軍艦隊総軍司令官であるアーサー・スタンプ・ケッツアーヘル大将と幕僚、朱蒙軍海軍機動艦隊司令官の全利達中將と幕僚たちが乗艦した。
今後の共同作戦についての打ち合わせをするためと、明日からの5日間にもわたる合同演習の最終的な確認作業をするためである。
戦艦[大和]に乗艦した山縣、ケッツアーヘル、全の3人は戦艦[大和]の甲板に足をつけるのは初めてである。
戦艦[大和]の作戦会議室に聯合艦隊司令長官である山本五十六大将とその幕僚たちと3人の来訪者とその幕僚たちが椅子に腰掛けていた。
この中でもっとも長身(大男と言うべきだろう)であるケッツアーヘルは椅子に腰掛けてもやっぱり大きく、小柄な者たちは、彼と話す際は顔を上げなくてはならない。
ケッツアーヘルは身長190センチ超えであるため、未来の日本人や韓国人から見ても長身である。
打ち合わせは4時間程で終わり、その後は戦艦[大和]で会食となった。
4人の司令長官、司令官は戦艦[大和]の長官室で会食となった。
出された食事は、戦艦[大和]の主計科が、腕によりをかけて作った日本料理、韓国料理、アメリカ料理である。
4人の司令長官と司令官の前のテーブル一杯に、料理が並べられた。
「では、いただきましょう」
山本が口を開くと、一同は大日本帝国海軍一の主計科が作った料理を食した。
ケッツアーヘルは、アメリカ料理である牛肉のステーキを味わった。
「ほぉ~。私が第7艦隊空母打撃群司令官だった頃に、横須賀海軍基地近くで経営されていたステーキ店の味と同じだ」
ケッツアーヘルの言葉に山本は答えた。
「ケッツアーヘル提督がお好きだった、そのステーキ店の味を[大和]の主計科が再現したのです。提督は故郷の味に似ているステーキ店だったとおっしゃっていましたから、再現をするのは、さほど難しくはありませんでした」
「それは、お手間をとらせました」
ケッツアーヘルは、かなりアメリカ訛りが強い日本語で感謝した。
韓国料理も、主計科が乗艦する朱蒙軍海軍提督の故郷の味に可能な限り近づけて、作らせた。
そのため、全も驚愕していた。
韓国料理の定番と言えばキムチだが、韓国では地方によってその味は異なるそうだ。
戦艦[大和]で大日本帝国海軍、菊水総隊海上自衛隊、朱蒙軍海軍、新世界連合軍連合海軍の会食後、各軍の司令官、参謀たち等との団欒が行われていた。
菊水総隊司令官付特務作戦チームの副主任である石垣達也2等海尉は[くらま]に乗艦し、山縣の下で雑務をこなす坂下亜門1等空佐に、これまでの報告書を提出していた。
「以上がこれまでの報告書です」
「ご苦労。報告書は確認後、山縣司令官に提出する」
「はい、お願いします」
石垣はそう言って、少し不満そうな表情を浮かべた。
坂下は彼の不満が何か察しが付くため、小さくため息をしてから、口を開いた。
「統合幕僚本部と破軍集団で行われている、首都圏防衛計画の強化か?それを強く主張したのは、君のお兄さんだったな」
石垣の兄である達彦は、事前にタイムスリップさせた陸上型イージス・システムの随時起動と、それに連動する迎撃ミサイルの増設を主張し、それが採用された。
陸上型イージス・システムは、ミサイル防衛態勢の強化のために計画されたシステムであり、この時代では主にB-29やその発展型を含む戦略爆撃機への迎撃を目的とした首都圏と日本共和区の戦略爆撃機防衛を目的としている。
石垣自身も、最初の対アメリカ戦の際に、万一にもハワイ攻略やパナマ運河破壊等の作戦が失敗した事を想定した破軍集団の防衛計画にはしぶしぶ納得したが、ハワイ攻略、パナマ運河破壊、アメリカ本土空襲、フィリピン攻略(これは、予定外であったが)等も成功した。
ハワイの防衛態勢も完了したから、後はアメリカと根比べをするだけでいいと考えていたのに、兄は自分の考えを否定するかのように、本土防衛計画の強化を立案した。
それがあっさりと、受け入れられるのも納得がいかない。
「俺にも兄がいるから、お前の気持ちはわかるが、石垣1佐とお前では自衛隊内はもちろんの事、新世界連合軍、朱蒙軍からの信用は、天と地程の差がある。確かにお前は優秀だ。しかし、それは単純に平凡な優秀であって、お兄さんのように天賦の才では無い。それに、10歳以上も年の差があるだろう。その時間差で積み上げた実績もある、そんなに対抗意識は持たない方がいい」
「ですが、坂下1佐!自分はいくつもの作戦を立案し、それを成功させています!」
「石垣!勘違いするな!お前は単に、これまでの史実を元に作戦を計画し、助言したに過ぎない。その作戦を成功させたのは、現場に出た自衛隊、大日本帝国陸海軍、そして、お前の作戦案を修正した現場の上級幹部や、石垣1佐がいたからだ。お前はただ、優秀な指揮官や参謀たちに恵まれていただけだ!」
坂下は上官として、部下を叱責した。
実際、石垣の評価はメリッサの1件以来、國仙派の自衛官からは、兄の顔に泥を塗るダメ弟だの、新世界連合軍や朱蒙軍の上級将校や高級将校たちに兄の名前を汚す存在だの、散々な言われようである。
確かに、兄の実績から弟の能力が過大評価されていた節があるのは否めないが、それは石垣の責任とは言えない。
兄が希に見る逸材だからと言って、弟が同じである可能性が無いと理解している坂下や山縣、さらに山本等の聯合艦隊司令部の参謀たちは彼に優しく接しているが、坂下自身もそれが本人のためなのかどうかわからなくなっていた。
しかし、自分も弟であるから、彼の気持ちはわかる。
(どうしたら、いいのか・・・)
坂下は心中で悩むのであった。
坂下に報告書を提出した石垣は、戦艦[大和]艦長の有賀幸作大佐から1つ頼まれ事を受けた。
スービック海軍基地に隣接するスービック特別区に、上陸許可申請したメリッサ・ケッツアーヘル少尉と同行するよう指示された。
大日本帝国海軍軍紀により、基本的に日本帝国海軍籍の軍艦に乗艦する女性将校及び女性の下士官、兵卒は外地での単独上陸は許可されない。
基本的には、国家憲兵叉は警護兵が同行する事に定められている。
しかし、スービック特別区はフィリピン政府と大日本帝国政府との間で締結された協定により、日本人居住区があり、日本の文明や農業、漁業等を勉強する教育施設も存在する。
治安は本土から派遣された国家憲兵隊と、統合省防衛局自衛隊統合警務隊から派遣された警務隊が担当している(陽炎団からも警察官が派遣されている)。
治安に関しては、フィリピン共和国の中では一番安全だろうが、念には念を入れる。
石垣は、スービック海軍基地の敷地内に海上自衛隊の施設を置く、分遣隊から同隊が管理するパジェロを借りる申請を行った。
「え~と、ケッツアーヘル少尉。よろしくお願いします」
「まあ、お願いするわ」
メリッサはそう言うと、ドアを開けて、助手席に座った。
(ケッツアーヘルさんって、性格はかなりきつくて、強烈な毒舌を吐くけど、見た目はすごい美人さん、なんだよな・・・)
石垣は心中で嬉しそうにする。
「何をニヤニヤしているの?勘違いしないで、貴方は運転手で荷物持ち!」
メリッサにビシッと言われて、石垣は小さくなりながら、「はい」と弱く答ながら、アクセルを踏んだ。
ちなみに2人の服装は、青を基調したデジタル迷彩服とUCP姿である。
スービック海軍基地の正門で一時停車し、石垣とメリッサは身分証を、実弾入りの弾倉を装填した64式7.62ミリ小銃を肩にかけた陸警隊の海士長に見せる。
石垣と同様に青を基調したデジタル迷彩服に、同じデザインの鉄帽と防弾チョッキを身に付けている。
「では、気をつけて行ってきてください」
海士長が2人の身分証を確認すると、挙手の敬礼をして見送った。
スービック特別区の整備された道路脇には、いろいろな店が出店していた。
フィリピン人たちが、日本人相手に品物を売っている。
「ケッツアーヘル少尉。上陸許可をとって、何の買い物をするのですか?」
石垣が運転に集中しながら、質問する。
「久々に、伯父さんの好きなお菓子でも作ってあげようかなと思って」
「伯父さん?」
「そう、ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍司令官アーサー・スタンプ・ケッツアーヘル大将。私の母の兄」
メリッサからの回答に、ようやく思い出した。
厳格そうな顔つきをした長身男性。
「それなら[大和]の酒保でも買えるのではありませんか?」
「伯父さんだけに作るのなら、そうするのだけど、他の方にも振る舞うから」
メリッサの台詞を聞いて、側瀬美雪3等海尉が目を輝かせる姿が思い浮かぶ。
メリッサは、山本以下参謀たちにも食後のデザートを作った事もある。
甘党である山本はとても上機嫌だったし、他の参謀たちも、とても美味しそうに食べていた。
スービック海軍基地を出港した[フォレスタル]を中核としたニューワールド連合軍連合海軍、菊水総隊海上自衛隊、朱蒙軍海軍、大日本帝国海軍等の戦闘艦20隻以上と連合海兵隊、朱蒙軍海兵隊、菊水総隊陸上自衛隊水陸機動団等の水陸両用作戦部隊が輸送艦、揚陸艦、強襲揚陸艦に乗り込んでいる。
共同軍事行動に備えた、大規模な合同演習である。
戦闘艦の中には、聯合艦隊旗艦兼第1艦隊旗艦の戦艦[大和]や、ミサイル戦艦[ミズーリ]も本演習に参加している。
菊水総隊海上自衛隊からは、第2護衛隊群第2護衛隊汎用護衛艦[あまぎり]と第6護衛隊イージス護衛艦[きりしま]も参加し、日本共和区統合省防衛局長官直轄部隊からも、護衛艦が派遣されている。
大日本帝国海軍聯合艦隊からは、戦艦[大和]を中核にした第1艦隊の一部と正規の航空艦隊に格上げされた、第2航空艦隊が参加している(第2艦隊は居残りである)。
[フォレスタル]の艦橋ではケッツアーヘルが司令官席に腰掛け、窓から、元の時代では絶対に拝めない光景を目にしていた。
[フォレスタル]の前方1マイルに、戦艦[大和]とミサイル戦艦[ミズーリ]が展開している。
後方に第2航空艦隊第2航空戦隊空母[翔鶴]と[瑞鶴]、第6航空戦隊空母[日向]、[伊勢]がいる。
その周囲を各国のミサイル駆逐艦やフリゲート等が固めている。
「対潜戦闘演習開始。第1艦隊旗艦[大和]に通信」
ケッツアーヘルが副官である大佐に指示した。
[フォレスタル]艦内から、戦闘配置のブザー音とアナウンスが響く。
パイロット待機室からパイロットたちが、フライトヘルメットを持って飛び出した。
甲板で駐機していたF/A-18E/F[スーパー・ホーネット]がカタパルトに移動し、発艦する。
合同任務艦隊の前衛駆逐隊に対潜戦闘演習開始の指示が通達され、新世界連合軍連合海軍の駆逐艦やフリゲートよりも劣る通信設備を有する大日本帝国海軍の駆逐艦や軽巡洋艦部隊も、一切の遅れも見せなかった。
「提督!連合海軍作戦本部から緊急通信です!」
ケッツアーヘルが司令官席から立ち上がり、連合海軍作戦本部と直通の通信回線を繋いでいるコンピューターを操作する通信士官の元に早歩きで駆け付ける。
液晶画面には連合海軍作戦本部が独自で使用する暗号通信が[フォレスタル]に送信されていた。
同じ頃、戦艦[大和]も軍令部から暗号通信が送られてきた。
戦艦[大和]の第1艦橋で、山本以下聯合艦隊司令部の幕僚たちと共に暗号文を解読した通信参謀が、緊急報告した。
「軍令部より、緊急電!イギリス空軍の戦略爆撃機が沖縄、九州地方の一部軍事施設を空爆しました!」
「本土空襲!?」
聯合艦隊先任参謀の黒島亀人大佐が叫んだ。
「中国の少数武装勢力が保有する航空基地から、改良型のB-17戦略爆撃機を出撃させたと思われます!」
通信参謀の報告に、聯合艦隊の幕僚たちは顔を見合わせた。
「そ、そんな!?」
石垣だった。
まったく、想像もしていなかった、本土空襲の知らせを受けて、彼は絶叫した。
「先島諸島及び沖縄方面の海軍航空隊に第2級防空警戒態勢を発令!それと水偵搭載の哨戒型潜水艦を台湾から南西諸島海域に移動!ただちに第2次本土空襲に備えさせろ!」
山本は、すぐに本土防衛の指示を出した。
これ以外にも、東京空襲に備え、小笠原諸島の父島海軍基地隊と硫黄島海軍基地航空隊に水上偵察機と長距離偵察機を随時発進させる指示等も出した。
ニューワールド連合軍連合海軍作戦本部から、日本本土空襲の知らせを受けたケッツアーヘルは、副官に指示した。
「本演習に参加する合同任務艦隊及び他の新世界連合海軍艦隊総軍に属する全艦に演習を中止し、戦闘準備を発令。全火器に実弾を装填、演習では無い」
2人の大将の判断は早かった。
断章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回から第6部に入ります。投稿日は9月26日を予定しています。




