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閑話 3 

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 西太平洋カロリン諸島トラック諸島トラック泊地。


 ソロモン海方面でのアメリカ海軍空母機動艦隊との戦闘を終えた、第1空母機動群はその軍港の錨地に錨を降ろした。





「ありがとうございます。またお越し下さいませ」


 いつも通り、笑顔で挨拶をして、航空母艦[あまぎ]内売店店員の伊藤(いとう)恵美(めぐみ)は、買い物に来た自衛官を見送った。


「あれ?伊藤さん、三上(みかみ)君は?」


 倉庫の在庫整理から戻ってきた売店サブチーフの桐生(きりゅう)明美(あけみ)が、店内を見回しながら聞いた。


「・・・トイレに行くと言って出て行ったきり、30分程経っていますが、帰ってきません・・・」


「・・・店長も、副店長も、チーフもね・・・」


 察しがつくという表情で、桐生はため息をついた。


 泊地の同じ軍港に、大日本帝国海軍聯合艦隊旗艦戦艦[大和]も停泊している。


 そして、新世界連合軍連合海軍アメリカ合衆国海軍ミサイル戦艦[ミズーリ]も停泊している。


 男性スタッフ一同が何を考えているか・・・多分、軍艦好きの男の子(心はそうでも、実年齢は成人以上)なら、誰でも考えるかもしれない。


 が・・・今日の売店やレストラン、映画館等は、普段では考えられないほど閑散としている。


 こういう時ほど、いつもは出来ない仕事をするべきなのだが。


 許すまじ、敵前逃亡である。


「連れ戻してくるから」


「どこにいるのか、わかるのですか?」


 眉を吊り上げて、桐生は売店を出て行こうとした桐生に伊藤は声をかけた。


「飛行甲板よ」


「・・・・・・」


 本気で怒っている。


 そう思って伊藤は首を竦めた。





[あまぎ]の飛行甲板の一角は、異様な光景だった。


 何しろ、戦艦[大和]と戦艦[ミズーリ]が並んで停泊しているのだ。


 自衛官たちは、その光景を撮影しようと、カメラやスマホを向けている。


 それは、泊地に停泊している他の艦艇でも、同じ事をしているのが肉眼で見て取れる。


 気をつけて見ていると、海上では意味もなく作業艇が戦艦2隻の周囲を走り回っているし、上空では、自衛隊だけで無く、新世界連合軍の各国の哨戒ヘリ等が、やたらに低空飛行している。


「・・・気持ちはわかるけど・・・やりすぎでしょうに・・・」


 桐生は、ボソリとつぶやいた。


 余談だが、ヘリや作業艇等の燃料費は、後日使用者からキッチリと徴収されている(給料等から天引き)。





 ちなみに、この件に関して山本始め、聯合艦隊首脳部には回転翼機の飛行訓練と民間人との交流を兼ねて、遊覧飛行させると説明されていた。


「ご覧ください。日米の誇る、戦艦[大和]と戦艦[ミズーリ]が艦首を並べて停泊しています!!この感動的光景を、視聴者の皆様にお伝えする言葉が思い浮かびません!!埠頭では、この光景を一目見ようと駆け付けた、観光客等の民間人でごった返しています!!!」


[大和]の作戦室に設置されているテレビから流れる、日本共和区放送局のニュース番組の映像を見て、宇垣は一言「[大和]が観光名物にされた・・・」とつぶやいたとか、つぶやかなかったとか・・・


 一方の[ミズーリ]でも、艦長のケイト・トミナガ・バギー大佐が「せっかく、観光名物から現場復帰できたのに・・・また、観光名物にされた・・・」とぼやいていた。





 桐生はすぐに、目当ての人物を見つける事ができた。


 店長の田中(たなか)洋哲(ようてつ)以下、売店の男性スタッフの面々であった。


 何しろ田中は、元陸曹長(元第1空挺団)である。


 そのため、[あまぎ]に乗艦している陸自隊員から慕われている。


 特等席ともいう場所で、一心不乱に戦艦2隻の雄姿を撮影していた。


「てぇ~んちょ~う・・・」


 地獄の底から響いてくるような声に、背中に大量のドライアイスをぶち込まれたような感覚を覚えて、田中は振り返った。


「撮影するなとは言いません。ですが、休憩時間にして下さいね」


 桐生は、これ以上ないほどの優しい笑みを浮かべて立っていた。


「いや・・・これは・・・その・・・ですね・・・」


 桐生の全身から迸る殺気に、田中はシドロモドロに答える。


 周囲の自衛官たちも、何事かと振り返り、この絶対零度の光景に凍り付いた。


「桐生さん・・・いや桐生様、後5分だけ!!・・・一生のお願い!!!!!」


「ダ・メ・で・すぅ」


 両手を合わせて懇願する田中のお願いは、冷たく一刀両断された。


 この後の事については、目撃者は全員が口を噤んで、何も語らなかった。





 後日。


 桐生に防衛局より辞令が届く。


『戦艦[大和]酒保への異動を命ず』であった。


「どういう意味でしょうか?」


「山本長官から要請があったらしい。[大和]乗員の士気向上のために、酒保・・・まあ売店だな。[あまぎ]のようにしたいらしい。そこで、酒保の職員の教育をする人間が必要になったそうだ。で、君か病院船[こんよう]売店のサブチーフのどちらかという事になったそうだが、[こんよう]のサブチーフは、マッカーサー大将の専属の通訳官を命じられたそうだ。そこで、消去法で君になった」


「消去法って・・・」


 あんまりな言われようだが、田中は羨ましそうな表情で言っている。


「代わりましょうか?」


「正直、そうしたい・・・」





 この後、桐生は[大和]を始め、[武蔵]、後に聯合艦隊旗艦となる指揮艦[信濃]、第1航空艦隊等の全航空艦隊を統括する聯合艦隊下部組織の空母機動艦隊独立旗艦となる、新型航空母艦の酒保に配属される事になり、常に最前線で民間人として、日米戦争の帰趨を見届ける事になる。


 閑話3をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

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