日本本土防衛戦 第13章 ジューコフの誤算 未来からの反撃
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
北海道北端地域に上陸したソ連軍は、西側に上陸したソ連軍を上回る規模の兵力が戦車等を含む戦闘車両と共に陸揚げされた。
ソ連軍北海道侵攻軍司令官ジューコフ元帥は、幕僚たちと共に南進作戦の会議を行っていた。
「西側への強襲上陸の際には、日本軍から抵抗を受け、1個連隊規模の被害を出しましたが、北端部の強襲上陸時には、我々が予想する抵抗はありませんでした・・・」
参謀の言葉に、ジューコフは顎を撫でる。
「貴官の危惧はわかる。日本軍の武力なら、空、海、陸の3方向から一気に総攻撃をかけ、我々を撃滅する事はできた。しかし、まったくそのような事はせず、我々は無血で上陸できた。つまり、日本軍はとんでもない策を持って、我々を迎え撃つ準備を整えているという事になる」
ジューコフは、北海道の作戦地図を見下ろしながら、つぶやく。
彼が疑問に思うのは、日本軍の新兵器もだが、戦略、戦術が大きく変換されている事だ。
ノモンハンから、どれ程の時間も経っていないというのに、この変化は何なのだ。
アメリカ経由で伝わってきた、宇宙人等のオカルト話を信じていなかったが、ここに来て、本当なのかと思わざる得ない出来事ばかりだ。
「我が軍には、ソ連国土回復軍最高司令部から送られてきた、最新鋭の戦車で編成された1個大隊があります。同戦車は重戦車クラスですが、機動力、防護力、火力は極めて高く、IS-2をはるかに超えます。戦車砲は100ミリ砲ですが、貫通力、破壊力は高く、日本軍の重戦車も撃破できるかもしれません」
「さらに、日本軍が戦車開発に力を入れた情報を入手しましたので、対戦車攻撃戦術と必要な物はすべて用意しています」
参謀たちの言葉に、ジューコフはうなずいた。
「軽戦車、中戦車、重戦車で編成された戦車師団を前進させ、新鋭戦車で編成された大隊は、その後方で前進する。もし、日本軍の強力戦車群が現れた時には、新鋭戦車と対戦車攻撃部隊で対処する」
ジューコフが言った。
「同志元帥。アメリカ軍に、航空支援を要請してはいかがでしょうか?」
参謀の1人が言った。
参謀たちの視線が集中した。
「そもそも、この北海道侵攻作戦は、アメリカがハワイを奪還する作戦の1つです。確かにその協力と引き替えに、いろいろな支援を約束されましたが、さらに1つ、2つ要求してもいいでしょう」
「そうだな。それも理に適っている。ならばアメリカ軍に航空支援を出そう」
ジューコフがうなずいた。
しかし、ジューコフが要請した航空支援は受け入れられなかった。
すでにアメリカ軍の日本本土空襲作戦が開始されており、ジューコフ軍の支援をする余裕は無かったからだ。
つまりは、お膳立てはしてやったのだから、後は自分たちでどうにかしろという事だ。
北海道北端に上陸したソ連軍本隊は、1個戦車師団、2個機械化歩兵師団等を主力として進撃を開始した。
だが、新世界連合軍、大日本帝国軍、菊水総隊によるソ連軍地上軍への迎撃態勢は完了し、後は、猫が用意した狩り場に鼠を追い込むだけでいい。
ソ連軍の行動は、すべて深部偵察を専門にする偵察部隊と、無人偵察機等で空と陸から逐次行動は把握されている。
北海道北部に位置する某地区のヘリ分屯地では、4機の軍用ヘリコプターがエンジンを始動していた。
4機の軍用ヘリコプターは、西側兵器では無い。
Mi-35と、Mi-17であった。
東側諸国軍の、代表的な軍用ヘリである。
そのヘリを操縦するのは、ヨーロッパ人でも無ければ東アジア人でも無い。
浅黒い肌の、中東や中央アジア人を思わせる者たちだ。
新世界連合軍連合支援軍に参加した、アフガニスタン陸軍の戦闘群だ。
彼らは兵士と言うより、戦士に近いオーラを漂わせる。
それは、自衛官やアメリカ兵等の軍隊や軍隊に類する組織の兵士とは異なる。
言葉では表せない、何かを感じる。
ソビエト社会主義共和国連邦軍極東方面軍北海道攻略軍第118戦車師団長のバフィト・ニコラム・ミネンコフ中将は、師団指揮車から軽戦車で編成された、偵察部隊からの報告を受けていた。
(おかしすぎる・・・)
ミネンコフは腕を組みながら、北海道防衛の日本軍に不可解な思いを持つ。
「同志中将。意見具申をしてもよろしいですか?」
参謀の1人である大佐が申告した。
「ああ、構わない」
「これは罠かもしれません。ここまで進撃し、日本軍からの大規模攻撃が無いのは明らかに何かあります。一時進軍速度を落としてはいかがでしょうか?」
「ふうむ」
ミネンコフは悩んだ。
「待て、同志大佐。ここで進軍速度を落とすのは危険が大きい。日本軍は我々の予想しない人知を超えた考えをする。我々が罠だと思い進軍速度を緩めるのを待っている可能性がある。だが、このまま進軍しても日本軍の罠があるかもしれません。まずは偵察隊を派遣すべきでは」
別の参謀である大佐が進言した。
「同志参謀諸君。私はここで一端全侵攻部隊の進軍を停止し、防衛陣地と補強拠点の確保をするべきだと思う。何か異議があるか?」
ミネンコフの言葉に参謀たちが顔を見合わせたが、すぐに師団長の決断を承諾した。
もともとロシア人は、国を守るに置いてはかなり強い民族に該当する。
実際、極寒の地に暮らしているだけでは無く、自然界の厳しさと共に暮らす民族である以上は国土防衛に対しては屈強な民族だろう。
広大な土地にあらゆる価値観を持つ民族から古代から侵略されていたのだから、その防衛戦略はかなりな物であろう。
しかし、ドイツ第3帝国軍からの侵攻では、砂漠の狐の異名を持つロンメル将軍率いる、ソ連侵攻軍の電撃的侵攻速度に対応できず、防衛線を次々と突破され、モスクワを占領されてしまった。
モスクワを放棄したソ連軍部は、ロンメル軍からの攻勢に備えて、絶対防衛線を構築し、大規模な兵力を配置した。
防衛が得意な民族であるロシア人たちが、他国の土地に侵攻すれば国土防衛という経験で得た勘が、彼らに警告するのは当然だ。
しかし、その勘の警告に耳を傾けるタイミングが戦争の勝敗を別けるのは、当事者たちだけが分かるものだ。
その師団指揮車に搭乗する通信兵が担当する師団通信機が鳴り、通信兵が受話器を耳に当てる。
「なんだと!」
通信兵が、緊急報告に驚き立ち上がった。
「ど、同志師団長!後方で前進していた補給師団と輸送師団が敵の奇襲攻撃を受けて、壊滅しました!」
「なんだと!?馬鹿な!!補給師団と輸送師団には精鋭の戦車旅団と歩兵旅団、対空砲兵大隊が護衛していたはず!!」
「同志師団長!緊急報告です!海上警備行動中の警備艦隊が日本軍の航空攻撃を受け全滅!物資集積所各地も空爆を受けています!!」
別の通信兵が報告する。
「何ぃ!?」
ミネンコフが声を上げた。
「こ、これが日本軍の本土防衛戦略なのか・・・」
参謀の1人がつぶやく。
「敵襲!!敵襲!!」
突然外から、兵士たちの叫び声が響いた。
ミネンコフが師団指揮車のドアを蹴飛ばし、外に出た。
「同志師団長。危険です!!」
警備兵の警告に耳を傾けず、空を見上げる。
すると見慣れない回転翼航空機が森の上をすべるように低空飛行しながら、現れた。
「なんだ、あれは?」
ミネンコフは北海道に侵攻する前に、アメリカ軍やイギリス軍から日本軍が保有する新兵器の写真を見せられた。
しかし、ミネンコフが目撃している回転翼航空機はまったく違う。
それもそのはず、彼らが目撃したヘリコプターは、AH-1やAH-64等と言った戦闘ヘリコプターでは無い。
大戦後、東西冷戦下で軍拡したソ連が開発した、攻撃ヘリコプターの発展型であるMi-35である。
そして、その攻撃ヘリコプターは、これから約40年後の未来に、ソ連が行った事に対して投げ返されたブーメランであった。
Mi-35、2機は進撃中のソ連軍戦車師団の師団司令部と警備部隊に、機銃掃射とロケット弾攻撃を浴びせる。
撃ち出された銃弾とロケット弾は非装甲車群に襲いかかり、次々と撃破する。
警備部隊が保有する自走式対空砲の対空砲塔が旋回し、対空射撃開始する準備をした時・・・
「今だ!撃て!!」
すでに周囲に配置についていた、連合支援軍陸軍第101騎兵戦闘団(アフガニスタン陸軍出身者たちで編成)クヴァル隊の対戦車兵たちが、RPG-7を構え、自走式対空砲に撃ち込む。
1960年代からソ連が開発した、携帯式対戦車擲弾発射器であるRPG-7は、安価でとても使いやすい利点から、正規軍から民兵までが幅広く好んで使用している。
ゲリラ戦や奇襲攻撃では、西側諸国軍の携帯式対戦車兵器を上回る威力がある。
発射された対戦車榴弾は、自走式対空砲の側面に命中し、一瞬のうちに火の塊にした。
現代戦でも、主力戦車(第3世代戦車やその発展型)を撃破可能なRPG-7は非正規戦ではかなりに恐れられているが、これは単にゲリラ戦が最大の原因だ。
RPG-7は安価でとても使いやすいが、重大な欠点がある。
実は命中率は西側諸国軍の携帯式対戦車兵器と比べると低く、初心者が使用する場合は近距離まで近づく必要がある。
訓練を受けた者であれば150メートル以内なら、なんとか命中できる。
熟練者なら条件にもよるが、500メートル以内なら命中させる事ができる。
操作は簡単なのだが、戦果を挙げるのに人を選ぶ兵器なのだ。
クヴァル隊の対戦車兵たちは、元の時代でソ連とアメリカという大国の軍と戦った経験があり、その時からソ連戦車やアメリカ戦車を撃破した方法をそのまま採用した。
まず、攻撃ヘリコプター若しくは機関銃等の重火器を搭載したトラックで攻撃し、敵の注意を逸らし、100メートル未満まで接近した対戦車兵が戦車や装甲車両にロケット弾を撃ち込むのである。
アフガニスタン軍で編成された、第101騎兵戦闘団の部隊編成は、基本的に自分たちの出身の部族の名前や、部族に伝わる単語を部隊名にしている。
[クヴァル]とは、彼らの出身部族の部族名に由来する。
彼ら独自言語で、[クヴァル]とは、侵略者から弱者を解放する、という意味もある。
ソ連のアフガン侵攻でも、地の利を生かしたゲリラ戦術でソ連軍からは、死神族と恐れられ、アメリカとの紛争では、どこの勢力にも味方せず、あくまでも戦争で苦しめられる弱者のためにアメリカ軍と武装勢力の両方と戦った。
その後、アメリカ軍は武力攻撃から、対話による平和的交渉に切り替えて、クヴァル兵たちと講和した。
その時は、弱者たちの保護や援助等で、かなり無理難題の要求をアメリカに突き付けたが、当時のアメリカ大統領とアメリカ軍のアフガン駐留軍司令官はすべてを承認した。
RPG-7からのロケット弾攻撃と、Mi-35からの航空攻撃で師団司令部の護衛部隊である警備部隊の自走式対空砲、中戦車が撃破され、ソ連兵たちは見えない敵に対し、闇雲に半自動小銃や短機関銃等を撃ちまくる。
「敵は乱れた!突撃しろ!抵抗するソ連兵は殺してもいいが、戦えないソ連兵は生かせ!我らクヴァルの戦士は掟と誓いを遵守する!突撃!!!」
クヴァル隊隊長である、クヴァル・ハン・ラスリ少佐が突撃の号令を叫びながら、AKMSを構えて、精密射撃をしながら突撃する。
他の兵たちも、AKMやM16A1等を使って隊長の後に続く。
AKMはAK-47を近代化改良型である。
AK-47の欠点である突撃時の連発射撃の安定性を重点に置き、対人戦闘でもっとも打撃力、殺傷力がある7.62ミリ弾の火力を最大限に活用できる改良が行われたのがAKMである。
まず、M16自動小銃を持つ兵は基本的に第101戦闘団では、新兵か後方部隊の個人防護火器として配備し、戦闘部隊の熟練兵はAKシリーズを愛用している。
これは新兵が精神的に未熟であり、多数の人間を殺害するのは精神崩壊に繋がると考え、相手を殺害するというより、相手の行動を無力化する5.56ミリ弾を使用するM16自動小銃の方がいいからだ。
新兵たちは熟練兵の背後に立ち、M16A1を3点バーストモードで射撃を行う。
熟練兵はAKシリーズを駆使して精密射撃を行い、確実にソ連兵を仕留める。
精確な攻撃と巧妙な突撃戦法により、ソ連兵はさらに混乱し、上官の怒号がまったく効果をなさず、逆にそれは狙撃兵の絶好の的にされた。
巧妙に身を潜めた狙撃兵が、各部隊の指揮官クラスを次々と狙撃し、指揮系統をさらに混乱させる。
ここまで、彼らの能力を最大限に引き出せるのも、新世界連合軍から独立した指揮権を委託されている、連合支援軍司令官が、直接北部方面軍の司令官に働きかけて、先遣隊を派遣して、様々な調査をしていたからだった。
追い詰められたソ連兵たちは上官の指示を仰ぐ事もできず、次々と地面に倒され、拘束された。
ミネンコフも拳銃で、明らかに日本兵では無い武装兵と戦ったが、回転翼機から発射されたロケット弾で吹き飛ばされ、気絶した。
意識を取り戻した時には、ミネンコフは見慣れない銃口を突き付けられていた。
「安心しろ。我々は戦う力を失った者は殺すな、と命令を受けているし、誓約をしている。祖父母や父母と、その同砲たちの仇を取りたいが、我々は、あんたたちと違って、誓約はいかなる事があっても破らない。だから、あんたを助ける」
かなり聞き取りにくいロシア語ではあるが、なんとか聞き取れた。
ロシア極東地方と北海道の中間海域に第1空母打撃群は大日本帝国海軍から派遣された護衛艦隊と破軍集団海上自衛隊から派遣された護衛艦、潜水艦の護衛下で作戦行動を行っていた。
4月上旬ではあるが、西から強風と雪が降り出した。
パイロット待機室から2人のパイロットと兵装システム士官は出動命令を受けて、フライトヘルメットを持って、待機室を出た。
「北海道北端部にソ連軍の物資集積所がある。今回はそこを空爆する」
ホースがそう言いながら、飛行甲板に移動し、整備と爆装が完了した2人の搭乗機であるF/A-18Fに乗り込む。
管制室から誘導と誘導員の誘導に従い第3カタパルトに待機する。
第1と第2カタパルトでは防衛線に接近するソ連軍への航空攻撃のために2機のF-35Cが発艦していた。
第3と第4カタパルトに移動した2機のF/A-18Fは千歳基地から離陸した2機のF-15J改が護衛の下で物資集積所への空爆を行う。
管制室から発艦許可が出ると、その後、ホースとフローレンスが搭乗するF/A-18Fは滑走し、[フロンティア]から発艦する。
ホースは操縦桿を右に倒し、自機を右に旋回させ、[フロンティア]上空を一回りする。
第1空母打撃群の上空では新世界連合軍連合空軍に所属するF-15C[イーグル]とF-16C[ファイティング・ファルコン]が艦隊防空のために4個編隊(2機編隊編成)が警戒飛行しているし、破軍集団海上自衛隊航空部隊のP-1対潜哨戒機が対潜装備と対艦装備で2機が警戒飛行している。
第4カタパルトから僚機であるもう1機のF/A-18Fが発艦し、ホースとフローレンスの機の後方に付く。
「こちらは菊水総隊航空自衛隊第11航空団第111飛行隊所属のサイクロン1だ。サイクロン2と共にナイト1と2の護衛を担当する」
管制室から事前の連絡通り、指定の航空周波数で交信を行ってきた。
「こちら、ナイト1。護衛に感謝する」
日の丸を付けたF-15J改が自分たちの前衛に付く。
準備が終わると、ただちに4機のF-15J改とF/A-18Fは空爆目標へ向かった。
「爆撃目標に接近中。ナイト2へ、高度そのままで、右に旋回」
フローレンスがそう言うと、ホースも操縦桿を右に倒し、機を右に旋回させる。後続機もそれに続く。
護衛のF-15J改は左に旋回し、以降は自分たちの航空攻撃中に邪魔が入らないように周囲の警戒飛行を行う。
「爆撃目標の精密な情報を受信。爆撃目標を確認した。GBU-39による精密爆撃を行う」
フローレンスがそう言うと、必要な操作を行う。
後続機は物資集積所と軍司令部周辺に配置されている、地上設置式対空レーダー施設と通信施設に対レーダーミサイルであるHARMとAGM-84Kを撃ち込む事になっている。
「ナイト2。攻撃目標を確認した。これより、攻撃を開始する」
ナイト2のコール・サインを持つF/A-18Fから通信が入り、その後、主翼下から次々とHARMとAGM-84Kが発射される。
レーダー施設と通信施設を破壊し、物資集積所等の戦略的攻撃目標に攻撃を行う。
航空攻撃の基本戦術である。
ナイト2から送信された情報は、フローレンスも確認している。
発射されたHARMとAGM-84Kはレーダー施設と通信施設に命中し破壊した。
その後、GBU-39を搭載したホースとフローレンスの機は爆弾投下ポイントに突入し、GBU-39を投下した。
小直径爆弾であるGBU-39は小型であるため爆発力は小さく、破壊力は限定的であるが、目標への正確無比に突入し、確実に破壊する爆弾であるため、たとえ、限定的であっても、確実に破壊する。
投下されたGBU-39はそのまま目標となった物資集積所に直撃し、炸薬が炸裂する。
日本本土防衛戦 第13章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。




