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追放された器用貧乏、隠しボスと配信始めたら徐々に万能とバレ始める~闇堕ち勇者の背信配信~(WEB版)  作者: 広路なゆる


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96.サムライ

「戻らずの隠し部屋から戻ってきちゃうんだから……それも元凶である吸血鬼くんと一緒に配信をするっていうんだから……クガくん、君は大したもんだよ」


 和装の人物がクガと呼ばれる人物を称賛する。

 クガは地味な鎧に身を包み、背中には巨大な剣を背負う男性だ。


「あ、はい……どうもです」


 そのクガは照れくさそうに頭を搔く。


 場所は魔物の街の守護ゴーレム専門店。

 和装の人物は伝説のSS級パーティ〝サムライ〟の一人、刀聖のサナダである。


 堕勇者のクガと吸血鬼のアリシアはダンジョン上層49階にて、SSランクボスのドラゴンを倒した。

 そして、その上階へとつながる階段を昇ってきたところである。


 結果……、辿り着いたのが、まさかの守護ゴーレム専門店であった。

 さらに、守護ゴーレム専門店の店長の正体がサムライのサナダであったのだ。


「つ、つまり、ダンジョンの50階が魔物の街だったってことなのかぁ!?」


 吸血鬼のアリシアが今更ながら、その事実に気が付き、驚愕する。


「まぁ、そういうことだ」


 サナダがそれに相槌を打つ。


「ん……? 君は守護ゴーレム専門店の店長だよな? すまない、なぜ君がちょっとどや顔で、知ったような口を聞いているのだ?」


【あ、そうか。吸血鬼さんはサムライのことなんて知らないもんな】

【吸血鬼さん、その人が過去に何回か話に出てきたSS級パーティ〝サムライ〟のメンバーのサナダさんです】


 リスナーがアリシアに補足情報を伝える。


「えぇえええ!? つまり、こいつ人間なのか!?」


「まぁ、そういうことだ」


 サナダは満足そうに相槌を打つ。


「えーと、つまりダンジョンの50階が実は魔物の街で……えーと、えーと……」


【吸血鬼さん、それさっきも言ってた笑】


 アリシアは目を回している。


「サナダさん、一つ伺ってもいいでしょうか」


 クガがサナダに尋ねる。


「ほい、なんでも聞いてくれ、クガくん」


「ありがとうございます。あの……ダンジョン50階が魔物の街であったのはなんとなく理解できました。ですが、なぜ49階からの階段の直上がこの守護ゴーレム専門店なのでしょうか?」


「隠れ家みたいでかっこいいだろ?」


「はい……?」


「いや、クガ君さ、子供の頃に憧れなかったか? 普通の食事処っぽいところの地下が実は秘密の試験の会場になってたりすることに……」


「あ、はい……まぁ、憧れたか憧れてなかったかと聞かれれば、憧れましたけども……」


「それだよ。二年ほど前になるのかな。この魔物の街に辿り着いた時は、ここは祠のようになっていたんだけどね。それじゃあ味気ないってことで、こっちに来てハマってしまった守護ゴーレム専門店を開店することにしたのさ」


「……なるほど」


【納得しちゃったよ!】

【まぁ、実際、憧れたよな】

【結構、しょうもない理由で草】

【祠、破壊しちゃって大丈夫そ?】


「まぁ、そいつの言ってることはよくわからないが、クガよ。そんなことよりよっぽど不思議なことがあるぞ」


 横で聞いていたアリシアが眉間にしわを寄せている。


「なんだ? アリシア」


 クガは息を呑む。


「最大の謎は…………なんでここにミノちゃんがいるのかってことだ!」


「ひゃっ……!」


 コソコソとその場から去ろうとしていた人物……いや、牛物がその猛々しい姿からは想像もつかないような可愛らしい声をあげる。

 S級ボスにしてアリシアの友達、ミノちゃんことミノタウロスである。

 実は、クガとアリシアが49層から、この守護ゴーレム専門店に上ってきた時に、反対側の階段から降りてきて鉢合わせたのがミノタウロスであったのだ。

 それにしても、その巨大な体躯で、バレずにその場から去ろうとするなんて流石に無理がある。


「そ、そうだよね、吸血鬼ちゃん……! 本当に不思議だよねぇ……なんで私、こんなところにいるんだろうねぇ……」


「うーむ、不思議だ……摩訶不思議だ……」


 顎に手をのせて、渋い顔をして考え込むアリシア。

 ミノタウロスをじとっと見つけるクガとサナダ。


【本当……不思議だね】

【なんでミノちゃんが守護ゴーレム専門店なんかにいるんだろうねぇ】

【しかもどうして会員様専用の2階から降りてきたんだろうねぇ】

【本当に不思議……】


 リスナーは空気を読んでとぼけてくれていた。

 おかげで、アリシアだけが、ミノちゃんが〝ただの守護ゴーレムのヘビィユーザーである〟ことに気が付いていなかった。


「そ、それじゃあ、吸血鬼ちゃん、私はちょっと用事があるから!」


「え? ミノちゃん、行っちゃうのか?」


「うん、ちょっと用事があるから!」


「わ、わかった。また今度、ゆっくり侵略者狩りでもしよう」


「うんーー! またねーーーー!」


 そう言い残して、ミノタウロスは少々恥ずかしそうにその場を去ろうとする。


 と……、


「お客さん、いつもありがとうね! またよろしくねー!」


 去っていくミノタウロスの背中にサナダが声を掛ける。

 ミノタウロスは一瞬、びくっと背中を揺らしつつ、そそくさと去っていく。


「はて……、またよろしくとは……」


 アリシアは首を傾げる。


「んで、お二人さん、こんなところで立ち話もなんだ。話があるのなら、どこか別の場所でどうだ?」


「そ、そうですね……」


「よし、んじゃ、今日は店仕舞いだ。すこーし待っててくれ」


 そう言うとサナダは店の方へ戻っていく。


 それからしばらくして、サナダは閉店作業を終え、クガとアリシアの二人を別の場所へ案内してくれる。


 そこは個室のある居酒屋であった。


「ごめんねー、個室のある場所って意外と少ないからさー」


 サナダは軽い感じで、クガとアリシアに謝る。


「いえいえ、場所まで準備していただき、すみません」


 クガはサナダにお礼を言う。

 すると……、


「サナダぁ! 何、勝手にカミングアウトしてんのよぉ!」


「「っ!?」」


 急に女性の声が聞こえてきて、クガとアリシアは少し驚く。

 声のする方を向くと、二人の人物が個室の入口付近で立っていた。


 一人は今、声を上げた人物。赤と白の和装、巫女のような恰好をした女性。

 もう一人は正装をした眼鏡をかけた男性だ。


「おー、ナナミ、コダック来たのか」


 サナダは手を挙げて、二人を出迎える。


「クガ君、紹介しよう。彼女が巫女のナナミ、彼が薬聖のコダックだ。僕を含めてこの三人がサムライのメンバーだ。以後、よろしく頼む」


 巫女姿をした女性がナナミ。

 眼鏡の男性がコダックというようだ。


「いや、存じていますよ……こちらこそ初めまして……お会いできて光栄です」


 クガはへりくだるように返事をする。


 クガも配信者だ。

 しかも最近まではA級パーティとして活動していたのだ。

 伝説のSS級パーティ〝サムライ〟の配信は何度も観た。

 そんなサムライのメンバーを知らないはずがなかった。


【うぉおおおおお、ナナミだ】

【久しぶりに観たけどやっぱ美人だなぁ】

【元祖俺のアイドル】

【元祖俺の性癖を歪ませた人】

【よかった、コダックさんも健在だ】

【元祖眼鏡】

【コダックさぁあん、こっち見てぇええ!】


 リスナー達は久しぶりに配信に登場したサムライに大興奮している。


 と、ドローンは今度はサナダの方を映し出す。


【ちょ、ドローンそっちじゃない】

【トイレタイム】

【サナダはいらない】


「……」


 現在、稼働しているドローンはクガの所有物である。

 また、サナダにコメントが届く設定にはしていない。そのため、コメントがサナダに届くことはない。

 しかし、サナダへの扱いが、かつて自分が所属していたパーティ〝クマゼミ〟での自分に近しいものを感じ、クガは少し胸がきゅっとなる。


 と、ナナミがドローンの存在に気が付く。


「ちょ、配信中だったのぉ……? 勝手に撮るのやめてほしいなぁ……」


「あ、すみません……今、止めます」


【やめてぇえええ】

【クガぁあ! 止めるんじゃねぇぞ!】

【あぁあああああああ】


 ぷつっ……と配信は中断される。


「あー、悪いね、クガくん、ありがとう」


 サナダが配信を止めたクガに謝意を告げる。


「あ、いえ、こちらこそ配慮が足りずすみません」


「いや、まぁ、僕も止めろって言わなかったしね、お互い様ってことで」


「「……」」


 一瞬、沈黙が流れる。

 若干の気まずさからクガが質問をひねり出す。


「あ、あの……そういえばなんでサムライさんは配信を止めてしまったのでしょうか」


「え……? あ……えーとね……」


 サナダは若干、気まずそうな表情を見せる。


「あ、すみません。秘匿事項でしたら、全然、言わなくていいんですけど……」


 クガは軽はずみな質問をしてしまったことを少し悔やむ。

 サムライ程のパーティだ。きっとそこには深い事情があるのだろう、と。

 だが……、


「はは……まぁ、大したことじゃないんだよ……」


 サナダが乾いた笑い声と共に、幾分、悲しげに語りだす。


「はい……」


「クガくん、さっきさ、ドローンが部屋に入ってきたナナミとコダックを捉えて、その後、僕の方を向いたよね?」


「え……、はい……」


「その時さ、どんなコメントがついてた?」


「……! あ、えーと……」


 クガは言葉に詰まる。


「…………あー、やっぱり言わなくていいよ。傷つくから……」


 サナダはどんよりとしている。


「も、もしや……」


「まぁ、そこから想像してくれよ……」


「……!」


 クガはたじたじとする。


「まぁさ、僕さ……一応、パーティの花形と呼ばれる近接物理タイプなのにさ……なんなのさ、この扱いはさ……」


 想像してくれと言いつつ、サナダはやっぱりジメジメとした自分語りを始める。


「あ……はい……心中お察しします……」


 クガはなんだかいたたまれない気持ちになっていた。と……、


「ん……? サナダ虫とやら……ひょっとしてお前……自分の不人気が不満で、仲間に嫉妬して配信をやめたのか?」


 それまで黙って聞いていたアリシアが突如、どストレートに言ってしまう。


「あっ……! アリシア……それは……」


 クガはあわあわする。


「…………そ、そんなわけ……な、ないっすけど……?」


 サナダはプルプルと震え、目が泳いでいる。


 そんなサナダをナナミとコダックの二人はじとっとした目で見つめる。


「はぁ……まぁ、ぶっちゃけそんなことはどうでもいいのだが……」


 アリシアは本当に興味なさげで、サナダは「そんなこと!?」などと言って、追撃を食らっているようだ。


「そんなことはどうでもいいのだが、クガよ……こ奴らがここに居たということは、つまり人間はすでに魔物の街に出入りできていたということだよな? クガのように魔物である私が招きいれたわけでもないのに……」


「まぁ、そうなるな……」


「そうか…………それはなんか……少しずるいように感じるな……」


 アリシアは少し遠くを見るように独り言のようにつぶやく。


「あ、えーと、ちなみに、サムライの皆さんは、二年前からずっとこの街にいたのですか?」


 クガの質問に、巫女のナナミが答えてくれる。


「基本的に活動の拠点はこっちにしてたわぁ。でもぉ、私とコダックは時々、人間界にも戻ってたわよぉ」


「そうなんですね……よくバレなかったですね」


「私服になってぇ、帽子でも深く被ればぁ、案外バレないもんよぉ」


「なるほどです」


「ところでさぁ、うちも聞きたいことあるんだけどぉー!」


「え……? なんでしょう……?」


「人型魔物の生殖器ってどうなってんのぉ?」


「ん……?」


 聞き間違いかな? クガは自分の耳に異常が発生したことを疑う。




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