92.龍娘
【うぉおおおおおおお!!】
【やっちまえぇえええええ!!】
クガは好機と見て、ドラゴンの首筋を見据えて、大剣を振りかぶる。
しかし、クガはその大剣を振り下ろすことができなかった。
〝予期せぬ方向からの〟炎弾攻撃を回避することを優先したからだ。
想定外の横やりが入ったが、クガはこのチャンスを逃すまいと再び、ドラゴンに大剣を振り下ろす。
だが、やはりドラゴン討伐には至れなかった。
今しがた炎弾にて、クガの攻撃を妨いだ者が、今度は自分の身を盾にして、ドラゴンを守ったのだ。
「……っ」
クガが振り下ろした大剣は、ドラゴンを守った〝家出魔物少女〟の身体を叩き斬っていた。
すると、アリシアにより動きを止められていたはずのドラゴンが激しく暴れまわり、クガも一度、後退せざるを得ない状況となる。
「ちっ……」
アリシアが軽く舌打ちする。
どうやら先ほどクガが回避した炎弾は直線上にいたアリシアの触手も同時に狙ったものであったようだ。
【龍娘さん……】
【利用し利用されていた関係とはいえ、ちょっと可愛そう……】
クガに一刀両断にされてしまい、無残な姿となった家出魔物少女……改め龍娘のことをリスナーが憂う。
「ふん……いい壁にはなったようだな」
「っ……! 貴様! 貴様を守るために死んだ配下に対してなんだその態度は……!」
アリシアがドラゴンに怒りをぶつける。
「我の手下を我がどのように扱おうと我の自由であろう……」
「っ……、貴様とは意見が合わないようだ」
「そのようだな。それに吸血鬼とやら……そいつはそう簡単にはくたばらんよ」
「え……?」
気が付くと、龍娘がすでに元通りになっていた。
「そいつには、無限の蘇生の効果がかかっている。要するにそいつの命は粗末なものだ」
「貴様……身を粉にして貴様を守った相手を目の前にして……」
アリシアはドラゴンの配下に対する態度に憤りを感じているようであった。
「……母上」
「母と呼ぶな!」
「っ……」
ドラゴンに叱責され、龍娘は萎縮する。
「極力、我の視界に入るんじゃない。その醜く悍ましい人間のような姿を見るだけで鳥肌が立つ」
「はい、申し訳ありません……母上……あ……も、申し訳……」
「母と呼ぶんじゃないと言っているだろうが……!」
ドラゴンは激昂し、龍娘を脚で思いっきり踏み潰し、龍娘はぐしゃぐしゃになる。
だが、すぐに再生が始まり、たちまち元の姿に戻っていく。
「あら、手が滑ったわ。ごめんなさいね」
ドラゴンは軽い感じで一応、謝罪する。
「なぁ、ドラゴンよ」
しばらく黙っていたクガがその光景を見て、ドラゴンに問いかける。
「そんなにその娘が気に入らないのだったら、なぜ無限の蘇生とやらをかけて復活させるのだ?」
「は……? そ、そんなの愛しているからに決まっているじゃない」
【は……?】【えーと……】
【こ、これは】
「意味わからん」
アリシアは唖然としている。
「とりあえずドラゴン! 貴様は眷属にはしてやらんからな……!」
アリシアが再びドラゴンへの攻撃を開始する。
クガも加勢しようとしたが、どうやらそうはさせてくれないようだ。
龍娘がクガの前に立ち塞がる。と、龍娘が口を開く。
「っっ……!」
挨拶代わりの炎弾ブレスだ。
【いや、すげぇな……】
【まるでレーザーだな】
龍娘から放たれるブレスは直線状の軌跡を描き、レーザービームのようにクガに襲い掛かる。
クガは転がるようにして、なんとかそのレーザーを避ける。
と、起き上がりを狙い、龍娘が飛び込んでくる。
鉤爪のように変化した掌で、クガに襲い掛かる。
クガは大剣を盾のようにして、その進行を食い止める。
だが、龍娘は尻尾を巧みに動かし、クガの側面を狙ってくる。
「っ……! っら……!」
クガは力で龍娘を後退させ、なんとか難を逃れる。
しかし、尾がかすっていたのかクガの太ももの周辺から血が流れ出る。
【え……? 龍娘ちゃん、結構強いじゃん】
【龍娘ちゃん、なんであんな横暴な母ちゃんを……】
【目を覚ますんだ】
リスナー達は龍娘へ同情するようなコメントをしているが、クガはそれどころではなかった。
ノックバックさせた龍娘に対し、急接近し、大剣を振り下ろす。
クガの中では、その一撃は、龍娘にとって〝防ぎようのある〟攻撃であり、次の攻撃へとつなぐための餌巻きであった。しかし……、
「っ……!」
龍娘はその攻撃を防ぐことなく、そのまま致命打となってしまう。
だが、口からは光が溢れ出ている。
「のわっ……!」
炎弾ブレス。
ノーガードからの予期せぬカウンター攻撃により反応が遅れ、レーザーがクガの左肩をかすめる。
「くっ……」
クガの左肩の装甲が溶けるように吹き飛び、炎弾ブレスがかすった箇所は円形に抉れている。
「……治癒」
クガはすぐに自身に対し、応急処置をする。
致命打を受けた龍娘は何事もなかったかのように、不気味に立ち尽くす。
無限の蘇生が発動したようだ。
この娘……自分自身も命を粗末にした戦い方をしてくる……。
クガは唇を噛みしめる。
「ぐがぁああああ!!」
「「っ……!」」
クガの耳にドラゴンの叫び声が入ってくる。
クガと龍娘が一進一退の攻防をしている横で、アリシアとドラゴンの戦いは、明らかに一方に優位性がある状況であった。
【いいぞー! 吸血鬼ちゃん】
【強い強いとは言われていたけど、SS級相手でも全然優勢か】
【大将討ち取ればこっちの勝ちでしょ!】




