91.圧倒
「ぐぬぅ……」
ドラゴンは険しい表情をしている。
「前座はこれくらいで十分か?」
アリシアはニヤリとしながら煽る。だが……、
「前座はまだまだ続くぞ」
今度はドラゴンがニヤリとし、そして、ブレスを吐く。
「っ……!」
クガとアリシアは警戒するが、ドラゴンが放ったブレスはキラキラと瞬くだけで、攻撃性があるものではないようであった。
しかし、当然、何の意味もないわけでもなかった。
クガとアリシアに仕留められた紅龍と青龍がみるみるうちに再生していく。
「我が手下は何度でも再生する」
【なんと……!】
【蘇生のブレスってことか?】
「紅龍と青龍だけでは物足りなかろう……緑龍」
ドラゴンがそう呟くと、さらに風を纏った緑のドラゴンが出現する。
「ふん……次から次へと……手下ばかりに構っていても埒が明かない。クガ……!」
「ん……?」
「三体まとめて頼んだ!」
「えっ……!?」
【クガ、やれ……】
【無茶ぶり来たぁああ!!】
アリシアはクガの返事を待たずして、ドラゴンに向かって、猛進していく。
「改めまして、こんにちは」
「っ……!」
アリシアはドラゴンの目の前に現れ、煽るように挨拶する。
ドラゴンは牽制するように、炎のブレスを放つ。
だが、アリシアはすでにそこにはいなかった。
「……瞬間移動か、こざかしい」
「えぇ……」
アリシアは不敵に微笑んでいる。
すると、ふいにドラゴンが問いかけてくる。
「貴様……魔物だよな?」
「ぬ……? そうだ。吸血鬼だ」
「吸血鬼? 聞いたこともない……だが、つまり、SS級の座を奪いに来た……そういうことよな?」
「そうだ!」
「そうか……だが、不思議なのだが、もう一人の奴は人間に見える」
「そうだが……?」
「やはりそうか……三龍に対峙させ、捨て駒にしたとはいえ、貴様、魔物の身にして、人間を眷属にして恥ずかしくないのか?」
「特に」
【なんだこのドラゴン、差別主義者か?】
【いや、吸血鬼さんが変わってるだけ説も】
「それにクガは眷属ではない。私の何者かだ……!」
アリシアは触手をドラゴンに向けて発進させる。
「ふん……そんなも……っ……!」
アリシアの触手がドラゴンの左肩付近に突き刺さる。
「おぉ……流石に硬いな……」
アリシアは想像以上にドラゴンの皮膚が硬かったことから口をぽっかりと開けて驚いている。
だが、それ以上に、驚いていたのはドラゴンであった。
触手が自慢の堅牢な表皮を貫き、想像以上に皮膚の内側深くまで食い込んできたからだ。
「こざかしい……!」
ドラゴンは身体を大きく回転させ、その巨大な尾を薙ぎ払う。
「おっとっと……」
しかし、吸血鬼は無傷でそれを回避し、ひょうひょうとした様子である。
「っっ……」
ドラゴンは想定していなかった状況に、僅かながら焦燥を感じる。
さらに……、
「ぐぎゃぁああああ!!」
「ん……?」
横からは手下のドラゴンの叫び声が聞こえてくる。
「なっ……!?」
ドラゴンにとって更に想定外の事態が連続する。
吸血鬼が捨て駒にしたと推測していたクガが手下のドラゴン三体全てを討ち取っていたからだ。
「アリシア、大丈夫か?」
「あ、あぁ……」
すぐに駆けつけてきたクガに心配され、アリシアは一瞬、豆鉄砲をくらったような顔になるが、素直に返事をする。
【すげぇ、ドラゴンを圧倒してる】
【さぁ、吸血鬼さんとクガ、二人揃ったぞ】
【ドラゴン、覚悟はいいか?】
アリシアが四本の触手を伸ばし、クガはドラゴンに突進する。
「ぐぎゃっ!」
アリシアの触手がドラゴンの身体に突き刺さり、ドラゴンは痛みに顔を歪める。
そして、クガはドラゴンの首を落とすべく頭部に向かう。
「こざかしい……!」
ドラゴンはクガに向けて、火炎弾を放つ。
しかし、クガは素早くそれを回避する。
「くっ……!」
アリシアの触手が身体の自由を奪っており、ドラゴンは逃げることもできない。
【うぉおおおおおおお!!】
【やっちまえぇえええええ!!】
クガは好機と見て、ドラゴンの首筋を見据えて、大剣を振りかぶる。




