89.リスナー達の言う通り
アリシアの城での防衛戦の勝利は上層48層を攻略していたアリシア本人やクガ、そしてアイエにも伝わっていた。
クガは防衛役や協力者が大きな被害なく、乗り切ってくれたことに安堵するのであった。
そんなクガ、アリシア、アイエはついに48層の迷宮を抜け、SS級ボスのいる49層に到達していた。
48層道中で拾った〝家出魔物少女〟の案内のおかげか、一週間以上かかると言われていた48層の攻略を五日で達成していた。
家出魔物少女は、赤髪に二本の角、お尻辺りからはニョロニョロとした蛇のような赤い尻尾が生えており、後ろから、ついていくには非常に良い目印になっていた。
「うむ、ここが49層か。悪くない」
アリシアは49層に入場してすぐのところで腰に手を当てて仁王立ちしている。
49層は遺跡のような佇まいをした神秘的な空間であった。
入場すると正面に一本の大きな道があり、
「さぁ、みちなりに行きましょうー!」
と、家出魔物少女はそのままその道を進んでいく。
しばらく進むと、前方に大きな神殿が現れる。
「ついに着いたか! ここにSS級ボスがいるのか!」
アリシアが息巻く。
「いや、アリシア、ここにはいない」
「えっ? クガ、なぜ、わかるのだ!?」
「ここはSS級ボスで唯一の空席。かつてベヒーモスがいた上層中央区画だ。すでに何度か聞いていると思うが、ベヒーモスはサムライにより打ち破られた」
「なるほど……ということは……」
「右か左どちらかに行く必要があるな」
「ふむ……」
アリシアは顎に手をあてるような仕草で、どちらにしようか考えているようだ。すると……、
「なるほどーー、では、右に行きましょーー」
家出魔物少女は勝手に進行方向を決めてしまう。
クガとアリシアらは仕方がないなという様子でついていく。
そして、再びみちなりに進んでいくと、先ほどとは別の神殿が出現する。
「さぁさぁ、こちらへーー」
家出魔物少女はそう言いながら、戸惑いなく神殿の中へ入っていく。
「うむ、いよいよだな。準備はいいか? クガ」
「あぁ……」
そう言って、クガとアリシアも神殿に足を踏み入れる。
と……、
「待ってくれ、堕勇者さん、吸血鬼さん」
「「お……?」」
アイエが神殿には入らずに入口のところで止まっていた。
「どうやら僕が付き添えるのはここまでのようだ」
「え……?」
「ほら、このように不可思議な障壁により神殿に入場することができない」
アイエはまるでパントマイムのように、神殿入口の境界を触っている。
「そうか、アイエもん、ここまで有難う……! しかし、なんでだろうな」
アリシアはアイエが来れないこと自体はあまり気にしていないようであったが、理由については不思議そうにしていた。
【うーん……】
【パーティじゃないから? でもどうやって判定してるんだろ。今はパーティ上限の四人は超えてないしな……】
【ひょっとしてパーティ割のせいじゃない?】
【あー、あり得る】
リスナーの推測は正しかった。
アリシアとクガは48層入場の際、一人1000万円の入場料に対し、パーティ割を利用し、二人目半額の合計1500万円で48層に入場していた。
パーティ割を利用した者が他の人間と組んで、SS級ボスに挑むことが不正判定となってしまったようだ。
「まぁ、よくはわからぬが仕方がない。ただ、この戦いはクガと出会ってから、最初の目標としていたSS級ボスになるための集大成。アイエもんには悪いが、私にとっては君と二人で挑む方が自然体だ」
「あぁ、そうだな」
アイエが抜けたことへの戦力ダウンの心配もあったが、クガも不思議とアリシアと同じ気持ちであった。
「さぁさぁ、お二人、こっちですよー」
家出魔物少女が神殿奥で手招きしている。
「クガ、行くぞ」
「あぁ……」
……
「着きました!」
家出魔物少女に誘導され、クガとアリシアは神殿内の開けた場所に出る。
そして、その中心には、巨大な黒いドラゴンがいた。
四足歩行で、背中には大きな翼がある。体長で言うと、頭の先から尻尾の先までで25メートルはありそうだ。
「ごめんなさいね、お二人……」
すると、突然、家出魔物少女の声のトーンが急に暗くなる。
「皆さんをSS級最強の〝ドラゴン〟のところへ誘導してしまい……」
「な……!」
アリシアは口をぽっかり空けて驚く。
「は、母上……わ、私、ちゃんとやったよ……!」
家出魔物少女はドラゴンに向かって、そんなことを言う。
「家出じゃなかったのか?」
クガが尋ねる。
「えぇ……母上が退屈だから獲物を連れてこいと……あなた達、簡単に騙されてびっくりしました」
「ふ……この娘に簡単に騙されるとは愚かな奴らだ……」
ドラゴンは見下すように、クガとアリシアを見つめる。
「な、なんということだ……」
アリシアは小刻みに震えている。
「なんということだ! 本当にリスナー達の言う通りになりおった!」
アリシアの目は輝きに満ちている。
「え……?」
アリシアの態度が想定外であったのか、家出魔物少女とドラゴンは目を丸くする。
【やったぜ、吸血鬼さん】
【いや、まさか本当に的中するとはなw】
【吸血鬼さんが嬉しそうで何より】
リスナー達も大盛り上がりだ。




