88.戦いの末
「くっ……撤退するぞ……!」
「はい……!」
ジャスティス近藤と、ほそぼそ治癒をこなしていたヒーラーのジャスティス優はルリアンヌを連れて、一目散に撤退していく。
「逃がしていいの……?」
ヘビオがその様子を見て、ミカリに尋ねる。
「いいのよ。私達はまだ闇堕ちしてないからね。極力、人は殺さない」
ミカリはウィンクする。
「……その理屈で言うと、僕はもう闇堕ちしてるんだけど」
「あら? いいじゃない。だって、ヘビオはもう闇堕ちサイドの人間なんでしょ?」
「っ……! まぁ、罰ゲームだけど……そういうことになってる」
ヘビオは困ったようにミカリから視線を逸らす。
【うぉおお、何はともあれクマゼミ、勝利おめでとうー】
【おめー】
【これでSランクの四番手はジャスティス人間じゃない! クマゼミだ!】
「ありがとうー」
ミカリはリスナーの祝福に手を振って応える。
【それはそれとして、ミカリン、あっちはあっちで凄いことになってるよー】
「え……? あっち……?」
……
クマゼミ+ヘビオがジャスティス人間と対峙していた頃――。
スケルトン軍団の襲撃に、犬軍団+クシナが対抗していた。
「スケルトン軍団もだいぶ減ってきましたね。このまま頑張りましょう! 柴ルトさん、狼男さん!」
攻めてはスケルトンを二百体以上消滅させ、守っては驚異の治癒力で被害をゼロに抑える程の超絶活躍中のクシナが味方を鼓舞する。
「「「「ワワンオーー!!」」」」
「「「「うぉおおおおおお」」」」
柴犬コボルト、狼男もそれに応える。どこかクシナに対し、尊敬のまなざしを向けている。
だが、その時であった。
「「「ワンワオーー!」」」
「「「ぎゃぁあああ!」」」
「え……?」
突然、どす黒いエネルギー体が前線の柴犬コボルト、狼男達を襲う。
「なに……?」
クシナは前方に視線を送る。
「っ……!」
そこには一際大きく、古びた杖を手にした王冠を被った骸骨の魔物がいた。
【うわ、マジか……出やがった……】
【アンデッド】
【S級のアンデッドだ】
それはS級魔物のアンデッドであった。
【よりによってアンデッドか】
【こいつ初期の頃から倒されてないよな】
【ボス強さ考察でもS級では妖狐に次いで二位にされてたよな】
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【現在のS級ボスリスト】
・ミノタウロス
・アンデッド ← こいつ
・妖狐
・機械兵
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「な、なんでS級魔物がぁあ!? しかも上位ぃ!?」
クシナは滅茶苦茶うろたえる。
「で、でも……広域治癒!!」
クシナはすぐに黒い魔法を浴びた自陣に回復魔法をかける。そして……、
「効いてください!」
そのままアンデッドの方向に治癒魔法を飛ばす。
「えっ……?」
「「「オォオ゛オゥウ゛ウォオオ゛オ……!」」」
スケルトン軍団がまるでアンデッドを庇うかのように立ち塞がる。
その間にクシナの治癒魔法の効果時間は切れてしまう。
「くっ……」
そして、アンデッドが杖を高くかざす。
「また強いのが来る……! や、やばいぃい……!」
クシナの動揺が最高潮に達する。その時であった。
「ありがとう……我が眷属を守ってくれて」
「え……?」
クシナの横を何者かが通る。
その何者かはあっという間に姿を消す。
いや、目にも止まらぬ速さで前線へと向かったのだ。
……
アンデッドの前にふわっとした白銀の髪の少女が立っている。
「貴様は……人狼か……」
アンデッドが目の前に現れた魔物、人狼のグレイについて言及する。
「S級を追いやられた者か……」
「眷属になったのだから否定はしない」
「はっ、S級魔物たる者が眷属になろうとは、稀代の恥晒しめ……最近のS級の不甲斐なさ、凋落ぶりはS級の品位を下げている……S級を名乗る者は私と妖狐だけで十分だ」
アンデッドは嘆くように言う。しかし……、
「妖狐? 妖狐って、ひょっとしてこの子のこと?」
「え……?」
グレイの右手にはめられた指輪が光る。
すると、白い和装を身にまとった犬のような耳とふさふさな尻尾がついた小柄な少女がグレイのすぐ後ろに跪いた状態で現れる。
「え……? 妖狐……? え……? え……? どういうこと?」
【え……? 妖狐……? え……? え……? どういうこと?】
図らずもアンデッドとリスナーがシンクロしてしまう。
「眷属にされちまった☆」
妖狐は自分の頭をこつんと叩いて、アンデッドに向けてテヘペロする。
「っっっ……!」
それまで饒舌であったアンデッドは絶句する。
グレイは単身、ダンジョン地下47層の厳しい環境で、魔物との戦いに明け暮れた。
そして、格上である妖狐に挑み、激しい戦いの末、眷属にすることに成功していたのだ。
【まじか】
【妖狐が人狼ちゃんの眷属!?】
【また犬っぽいタイプw】
【人狼ちゃんがクガの眷属ってことは……実質、クガの眷属やん】
【妖狐の幼女……許せん】
「あ、あの……予も……その……」
先ほどまでの威勢はどこへやら……アンデッドがモゴモゴと何かを言っている。
「うーん、ごめん。あんまり好みじゃない……でも、あなたの〝骨〟は美味しそう……」
「なっ……!」
申し訳なさそうにそう答えたグレイの姿がみるみるうちに巨大な白銀の狼へと変貌していく。
かつて、ただただ美しかったその姿には、いくつかの傷跡がついている。
「それに、S級魔物たる者が眷属になるなんて、稀代の恥晒しですものね?」
「っっ……! あぁあ゛あああ゛ああ……」
……
かくして、スケルトン軍団、ジャスティス人間の襲撃から、アリシアの城の平和(?)は守られたのであった。




