87.公認
「き、貴様……死体漁りしていたのか」
「まぁね」
「す、少し驚いたが、何かと思えば、我々が仕留めたバジリスクではないか。しかも貴様の死霊は生前より弱体化することは先の戦いから判明済み。再度、葬ればいいだけの話!」
ジャスティスKはそう息巻いて、再び、ヘビオに攻撃を企てる。
「くらえ……正義の裁き!!」
それはジャスティスKが〝生前の〟バジリスクを仕留めた最大火力の攻撃スキルであった。
その最大火力を過去に致命打となった場所と同じ、頭部の縫合跡に容赦なく叩き込む……はずだった。
「かはっ……」
ジャスティスKは地面に叩きつけられる。
「な、なんで……」
バジリスクの尾の薙ぎ払いによって、ジャスティスKの最大攻撃は不発に終わり、そのまま叩き落されたのだ。
ジャスティスKは過去の戦いの再現がならなかったことに驚きを禁じ得なかった。
「僕の死霊は生前より弱体化していた……そうだね。その通りさ」
「っ……」
いつの間にか接近していたヘビオが倒れているジャスティスKを見下ろすように言う。
すぐ後ろにはバジリスクが控えており、同じようにジャスティスKを見つめている。
「僕のせいで堕勇者やクマゼミに邪鬼やアラクネを壊された。僕が彼らを支配しようとしたから」
「え……?」
「バジリスク……ジャスティス人間が憎いか?」
「ジャァアア」
バジリスクはまるで返事をするように静かに鳴く。
【対話してる……? ヘビオが死霊の意見を聞いているだと……?】
【マジか】
【え? どういうこと?】
イビルスレイヤーから流れてきていたリスナーはすぐにその変化に気付いたが、そうでないリスナーは理解不能であった。
「ところで、君、さっきからイビルスレイヤーのことを敗北者と言っていたね?」
「え……? そ、そうだっけ……」
ジャスティスKはこの期に及んで少し日和る。
「うん、確かに敗北者かもしれない。だけど、なぜかはわからないけど、少しむかついたんだ。イビルスレイヤーは確かに負けた。だけど、別に君達に負けたわけじゃない」
「っ……!」
「やってくれ……バジリスク」
バジリスクの目が不気味に赤く光る。
「あ……ちょ……待っ……」
ジャスティスKはみるみるうちに石化していく。
「う、うそでしょ……Kが……!」
リーダーであるジャスティスKの惨敗に、魔法少女ルリアンヌも動揺を隠せない。
「あなた達のリーダー、やられちゃったみたいだけど、まだやる?」
対峙していたユリアが割と親切心でルリアンヌに尋ねる。
だが、ルリアンヌにはそれは〝煽り〟に聞こえていた。
「っ……! ち、畜生がぁああ……! この脳筋ゴリラ! 絶滅させてやる……! 死ね! 死ね! ゴリラ、死ねぇえ!!」
ルリアンヌは激昂し、魔法を乱射する。
「る、ルリアンヌちゃん!?」
その豹変ぶりには、むしろ仲間である近衛兵のジャスティス近藤の方が動揺している。
「そんな適当な魔法、当たらない」
「はっ、速い……」
ユリアが凄まじい速度でルリアンヌのすぐ横に接近し、金属製の杖をテイクバックする。
「それと……さっきからゴリラ、ゴリラ言いやがって! 私はゴリ〝ラ〟はじゃなくて、ゴリ〝ア〟だ!」
「っっっ……!」
ユリアは凄まじい光をまとった杖をルリアンヌの脳天に叩きつける……
「あぁあ゛ああ……い、いやぁあ゛ああ゛……」
ふりをして、寸止めする……のだが、ルリアンヌはあまりの恐怖にその場で失神してしまう。
【ユリア! ユリア!! ゴリアじゃなくてユリア!】
【ユリア様がついにゴリアをご公認くださったぞ】
「……あ」
ユリアは勢いで言ってしまった自身の間違いに気づき、急激に赤面する。
「ちょ、ゴリアじゃなくてユリアの間違い……」
【あぁ、神よ……長年の信仰が今日、ついに結実しました……】
【あぁ、我らのゴリア様、なんてお美しいのでしょう……】
【ゴリア様! ゴリア様!】
だが、時すでに遅し……。




