85.防衛戦
「治癒……!」
「オォオ゛オゥウ゛ウォオオ゛オ……」
クシナの治癒を浴びたスケルトンはまるで溶けるように、そして恍惚の表情を浮かべながら消滅していく。
【うぉおおおおお!】
【めちゃくちゃ効いてる……!】
【なんか心なしか嬉しそうなのは気のせいか?】
【幸せそうに成仏できるなら何より】
「すごい……! こんなに効くなんて……! 知らなかった……」
【いや、いくらスケルトンの弱点が癒し系の魔法とはいえ、ここまでバターみたいに溶けていくのは見たことないわ】
【才能って怖いね】
【本人は阿保そうなのにね】
「ちょ……! 阿保そうってなんですか! 私のお母さんが見てたら悲しみますよ!」
【ごめんなさい】
「謝ればいいんです」
クシナはうんうんと頷く。
「ワワァアアン!」
「柴ルトさん……!」
しかし、その間にも、スケルトンの攻撃により傷ついた柴犬コボルトが悲鳴を上げる。
【やばい……】
【柴ルトさぁああん】
【流石に犠牲ゼロとはいかないか】
「広域治癒!!」
「ワワン!?」
「「「オォオ゛オゥウ゛ウォオオ゛オ……!」」」
その時、クシナが突然、広範囲治癒魔法を放つ。
傷ついた柴犬コボルト達は瞬く間に再生し、そして巻き込まれた多くのスケルトン達が消滅していく。
「秘密兵器、投入です!」
クシナは渾身のどや顔を披露する。
【うぉおおおおおおおお!!】
【仲間を回復しながら、敵兵は一網打尽だと!?】
【これはなんという一石二鳥】
リスナーも大盛り上がりだ。そこへ……、
「すごいね」
「お……?」
クシナの横に、対ハチ防護服を着込んだ人物がひょっこりと現れる。
ヘビオである。
ヘビオもまた城の防衛を任されている。今回、クマゼミは助っ人であるが、ヘビオは常駐防衛員である。
「あっ! へ、ヘビオくんだね……あ、ありがとう」
クシナは初絡みのヘビオに対して、少し戸惑いつつも褒められて満更でもなさそうだ。
「む? ところでヘビオくんって死霊魔術の使い手だよね? あのスケルトン達を操作することってできないの?」
「残念だけど、僕の死霊魔術は最初から死んでる奴は操作できないよ」
「なるほどです……」
スケルトン軍団の襲撃は、ヘビオの死霊魔術で一網打尽というわけにはいかなかったが、クシナの大活躍のおかげで、被害も少なく抑え込みつつあった。
だが、襲撃は魔物だけではなかった。
「聖なる光☆」
「っ……!」
突然、防衛線に輝く弾丸が降り注ぐ。
「わぁあああああ」
それを予期していなかったクシナは対応できておらず、咄嗟に頭を押さえる。
「聖なる騎士」
輝く弾丸は、輝く金属杖によって弾き返される。
「ゆ、ユリアさん……」
「クシナ、大丈夫?」
「はい……」
【うぉおおおおお! ゴリア様! ゴリア様!】
【ゴリバット炸裂!】
【それはそれとして、突然、何が起きた?】
「あーん、私の聖なる光弾かれちゃった。うぇーん、ゴリラが相手なんて聞いてないよー」
少女が泣くような仕草をしながら現れる。
その少女はヒラヒラしたフリルの桃色を基調としたドレスを身にまとっていた。
更に、その近くに三人の男性が立っている。
【あ、あいつらは……!】
【S級パーティのジャスティス人間!?】
リスナーのコメントの通り、彼らはクマゼミと同様に最近、S級パーティになったばかりの〝ジャスティス人間〟であった。
そのパーティコンセプトは、私人逮捕系と呼ばれている。
「あろうことか魔物の城の防衛を手助けするなど……全くもって許容することができない巨悪。本官が動かなくて誰が動くというのか」
警官の制服姿のような衣装に身を包んだ男性は覚悟めいた表情で呟く。
【ジャスティス人間のリーダー……警官のジャスティスKだ】
【魔物の城の防衛の手助けに関しては、これまでの人間サイドの通念からすると確かにアウトかもなぁ……】
【だが、俺はもちろん、吸血鬼さんサイドを応援するぜ】
【それにしても何の因果か、いきなり昇格したばかりのS級パーティがつぶし合うってことか……!】
【ごくり……】
「厄介だな……スケルトンの攻撃もまだ続いている」
クマゼミの剣聖セラは唇を噛みしめる。
スケルトン軍団とジャスティス人間は手を結んでいるわけではない。
しかし、スケルトン軍団のターゲットはあくまでもアリシアの城であり、ジャスティス人間には関心を示していない。
「ど、どうしますか? セラさん!」
クシナがセラに判断を仰ぐ。
「クシナはスケルトン軍団の対処に当たって、犬族軍団を支援してくれ。ジャスティス人間は俺達が対処する」
「わ、わかりました!」
クシナは相槌を打つ。
クシナ抜きで戦わなくてはならないのは、クマゼミとしては苦しい判断であったが、仕方がなかった。
……
ジャスティス人間の前に、クマゼミの三人が対峙する。
「来たか。巨悪の権化め」
「確かに、俺達もこんなことになるとは思ってもみなかった」
警官のジャスティスKの痛烈な言葉に、セラは頭をかく。
しかし、その間にも相手のパーティ構成を見極める。
警官のジャスティスKと魔法少女の二人の他に、〝盾を持った兵士風の男〟と〝神官らしき男〟がいた。
「ミカリ、ユリア……相手はオーソドックスな物理攻撃特化、魔法攻撃特化、防衛特化、回復特化パーティだな」
「えぇ……」
ミカリは返事をし、ユリアは黙って頷く。
その間にも、気を利かせたリスナーから、ジャスティス人間の構成員情報が提供される。
=========================
【ジャスティス人間の構成員】
前衛
・警官(物理攻撃特化)……ジャスティスK
・近衛兵(防衛特化)……ジャスティス近藤
後衛
・神官(回復特化)……ジャスティス優
・魔法少女(魔法攻撃特化)……ルリアンヌ
=========================
当然、ジャスティス人間側のリスナーもクマゼミ側の構成員の情報を提供する。
=========================
【クマゼミの構成員】
前衛
・剣聖(物理攻撃特化)……セラ
・聖女(魔法攻撃特化)……ユリア
後衛
・付与術師(補助特化)……ミカリ
・死霊魔術師(回復特化)……ヘビオ
=========================
「「って、え!?」」
ひっそりとヘビオがクマゼミ側に紛れ込んでいることに両陣営の物理攻撃特化がほぼ同時に気付き、驚きの声をあげる。




