84.スケルトン軍団
クガ達が48層にて、家出魔物少女と出会ってしばらくした頃――。
ダンジョン上層43層、アリシアの城――。
「何もなければそれでよかったんだがな……やっぱり来ちまったか……」
クマゼミの剣聖セラが城の正面に現れたスケルトン軍団を眺めながら苦々しく呟く。
……
クガとアリシアは48層へアタックする際、攻略に一週間以上かかることは事前にリスナーから聞いていた。
そのため、その間、留守となる城の防衛をコボルト達などの通常戦力に加え、クマゼミに依頼していたのであった。
【なんでスケルトン軍団が……!?】
【そりゃあ、柴犬コボルトや狼男への〝骨〟提供のために狩りまくってるから吸血鬼さん、恨まれてるんじゃないかw】
【確かにw】
【それにしてもちょうど吸血鬼さんがいないタイミングで来るとはなぁ】
リスナーの考察は概ね正しく、アリシアは眷属である柴犬コボルトや狼男のために、骨を入手する目的で定期的にスケルトンを狩っていた。
スケルトン界隈では、アリシアへのヘイトが溜まっていたのである。それが、主不在のこのタイミングでちょうど爆発したのであった。
「なんで私があの吸血鬼女の城を守らなきゃいけないの……」
聖女のユリアはぼやく。
「ユリア、そう言うなって。アリシアさんにはクガを引き受けてもらった恩義があるだろ?」
「恩義? 恨みの間違い?」
どうやらユリアとセラには認識の相違があるようだ。
「じゃあ、ユリアは今回の件からは抜けるー?」
横にいた付与術師のミカリが緩い口調で尋ねる。
「それはない。なんかダサいから」
「ふふ……」
ユリアの反応を見て、ミカリは微笑む。
「って、話してる場合じゃないですよーー! 来ちゃいますよ! スケルトン軍団が!」
再生士のクシナがあわあわした様子で、前方を指差す。
スケルトン軍団が一斉に城に攻め込んでくる。
「ワワンオー!」
柴犬コボルト、狼男達が正面からスケルトン軍団とぶつかり合う。
「いけぇ! がんばれー! 柴ルトさん達ーー!」
クマゼミは最後衛に位置しており、クシナはひとまず安全地帯であることにほっとしたのか声援を送る。と……、
「ひっ!」
クシナのすぐ横を矢が通過し、後ろの城壁にぶつかる。
どうやらスケルトンには弓兵もいるようだ。
それを見てか、狼男軍団を統括する人狼兄が宣言する。
「ゴーレム召喚!」
すると、人狼兄の近くにあった石盤から、可愛らしい女の子が出現する。
その少女は、アリシアが当時の有り金をほぼ叩いて入手した守護ゴーレムの〝ウォール〟である。
ウォールは身長140センチくらいで、土色の衣装を纏った妖精のような出で立ちの可愛らしい女の子の姿をしている。
【来たー! 守護ゴーレム!】
【初の実戦投入!】
「きゅうん」
ウォールは可愛らしく鳴きつつ、地表に向けて、両手をかざす。
そして、ゆっくりとその両手を万歳するように、上方に掲げる。
その動きに呼応するように、地面から石の壁がせり出してくる。
【おぉー!】
【これでスケルトンの飛び道具はある程度、遮断できるかな】
【素晴らしいね、守護ゴーレム】
「わぁーー! いいぞー! ウォールちゃーん!」
クシナは喜んでいる。
「って、クシナ、喜んでる場合じゃないでしょ」
「へ?」
ミカリの苦言にクシナは素っ頓狂な返事をする。
「相手がスケルトンなら、あなたの治癒が良く効くんじゃない?」
「……!」
……
「治癒……!」
「オォオ゛オゥウ゛ウォオオ゛オ……」
クシナの治癒を浴びたスケルトンはまるで溶けるように、そして恍惚の表情を浮かべながら消滅していく。




