83.家出少女
「うーん、これって魔物だよね?」
ひとまず段ボールから出された少女を見て、アイエが首を傾げる。
少女は肩くらいまでの赤髪に二本の角。
明るい配色のタイトなドレスを身に着け、お尻辺りからはニョロニョロとした蛇のような赤い尻尾が生えている。
【それにしても……】
【クガ……またなのか……?】
【事案発生】
「ちょ……!」
リスナーのコメントにクガはうろたえる。
リスナーの中では、「クガがまた魔物の女の子に声をかけた」ということで、事件として処理され始めていた。
「それはそれとして……」
クガは一旦、冷静になり、少女に話しかける。
「君、拾ってくださいってどういうことかな?」
「そのままの意味ですよ! 私、家出中でして! 帰る家がなくて大変困っているのです」
少女はわりとセンシティブな内容をやけに元気に答える。
【家出……?】
【家出少女ってやつ?】
【やっぱり事案ですね】
「アリシア、魔物って家出とかするのか?」
クガはひとまず同じ魔物であるアリシアに尋ねる。
「わからん」
アリシアは少々、不機嫌そうに答える。不機嫌そうではあるが、本当にわからないようだ。
「え? お兄さん、その人、魔物なんですか?」
今度は少女が尋ねてくる。
「……そうだが」
「へぇ~~、お兄さん、すでに魔物を拾ってるんですね! じゃあ、私のことも……」
「拾ったというか、どちらかというと拾われたんだがな」
「……!」
クガの拾ったというより拾われたという発言を聞き、そっぽを向いていたアリシアの耳がピクリとし、翼が少し動く。
「本当に困ってるんですよー! お願いします! 私にできることなら、なんでも……なんでもしますから!」
【典型的なヤドカリみたいなこと言ってんなぁ笑】
【ん?】【ん?】
【今何でもするって言ったよね?】
「なんでもするんだな? じゃあ、自己解決してくれ」
「それ以外なら何でも! そうだ、ほら、いくらでも殺らせてあげますよ」
【キタァアアアアア!】
【またですか】
「ん……? アイエもん、やらせるとはどういう意味だ……?」
「え……? な、なんだろうね……」
俗語の意味まではわかっていないアリシアの純粋な質問にアイエはたじたじとしている。
「い、いや……そういうのはちょっと……」
「なんですか、お兄さん、遠慮がちですね。うーん、じゃあ、道案内とかできますよ!」
「道案内……?」
クガは露骨に怪訝な顔をする。
「まぁ、いいんじゃないか? クガ」
「え……?」
クガは難色を示していたが、家出魔物少女に救いの手を差し伸べたのはアリシアであった。
「私はラスボスになる器の魔物だ。眷属希望の一人や二人、受け容れてやろうではないか」
「……ラスボス? 眷属?」
家出魔物少女は一瞬、眉をひそめる。
「ん……? どうかしたか?」
「あー、いえいえ、なんでもないですよー」
クガが尋ねると、家出魔物少女は取り繕うように、両手を顔の前でぶんぶんと振る。
「……アリシア、受け容れていいとのことだが、罠の可能性もあるぞ?」
「……! そうだな、警戒はする」
今までのアリシアは自信過剰気味で楽観的な部分があったが、クガの忠告を素直に聞き容れる。
「わかった」
クガもまた結局、アリシアの決定を受け容れるのであった。
「アイエさんも受け容れるで大丈夫でしょうか?」
「もちろんだよ、その方が面白そうだしね」
アイエはくすりと笑うように答える。
アイエはどうやら予測不能なことを求めるような傾向があるようであった。
「決まりですね! よかった……! それじゃあ、早速、こっちですよ!」
家出魔物少女はクガらが自分を受け容れるという方に傾くや否や、先陣を切って、48層を進んでいくのであった。




