82.助っ人
「やっほー」
アイエが応えるように右手を上げる。
強力な魔物がひしめくダンジョン真っただ中であるためか、普段のやや挙動不審な様子はなく、むしろ余裕があるように見える。
【え? アイエ? どうしてここに?】
【まさか……クガに食糧を?】
「あ、残念だけど、僕も食糧は持ってきてないよ?」
【じゃあ、何しに来たんだ?】
【ってか、入場料どうしたんだ?】
「入場料はもちろん自腹で払ったよ」
「あ、アイエさん、そ、それは……」
クガが少々、苦い顔をする。
「あ、堕勇者さん、気にしないで欲しいな。実は僕も一度、48層に行ってみたかったんだ。だから、いい機会だと思ってね」
「な、なるほどです」
「まぁ、そういうわけなんだけど、ダンジョン内で困ってる人がいて、自分にできる範囲であれば、普通、助けるよね?」
「え……? どういう……?」
アイエはトコトコと歩いて、クガとアリシアの近くに寄ってくる。
「な、なんだ……?」
アリシアは普段見ている挙動不審気味なアイエと様子が違うためか、少しだけ警戒している。と……、
「「っ……!」」
クガとアリシアは驚く。
アイエが突然……ワイバーンの翼にかじりついたからだ。
そして、アイエは肉を嚙みちぎり、そのまま口の中でもぐもぐと咀嚼する。
「うん……毒はなさそう。いけるんじゃない?」
……
「う、うまいっす……」
クガはワイバーン肉を噛みしめる。
アイエが血抜きや下処理をしてくれ、そして火を通してくれた。
普通であれば、力尽きた魔物はしばらくすると跡形もなく消滅してしまう。
しかし、処理をしているからなのか、はたまたアイエの能力なのか不明だが、消滅することなく残っていた。
ワイバーン肉はたんぱくで硬かった。
だが、空腹に勝るスパイスはなく、クガにとっては、なんなら少し涙出そうなくらい人生史上でも上位に入る心に染みる味であった。
「堕勇者さん、吸血鬼さん、もしよかったらだけど、僕も同行してもいいかな?」
「もちろんです。というか、こちらがお願いさせていただく立場ですね」
クガは頭を下げる。
「まぁまぁ、いいってことだよ。僕はある意味じゃ、マナーの悪いファンなんだから」
「……?」
クガは一瞬、アイエの言葉の意味が分からなかった。しかし、
【まぁ、リア凸するファンはマナー違反ではあるわな】
【アイエクラスだと、何しても許される感はある】
【ってか、一応、ファンの体裁を保とうとしてるの何でなん?笑】
リスナーのコメントでそういうことかと理解する。
「アイエもん、ありがとなー」
アリシアが握手するようにアイエに手を差し出す。
「あっ、あっ、きゅ、吸血鬼さん……」
すると、アイエは挙動不審モードに戻る。
「で、できれば触手の方で……?」
だが、謎の要求もする。
「ん……? こうか?」
アリシアはアイエのリクエストに応え、翼を変形させ触手を差し出す。
「はわぁ……はぁ……はぁ……」
アイエは触手を握ると、ちょっとキモイ反応をしているが、どうやらギブアンドテイクが成立しているようだ。
何はともあれ、アイエのおかげで、クガの食糧問題は解決し、48層攻略を継続することができることとなった。
……
翌日――。
クガ、アリシアはアイエを加え、48層攻略を進行していた。
何から何までお世話になるのは申し訳ないというクガの意思により、アイエはなるべく戦闘には参加させずに、極力、クガとアリシアの二人で魔物を対処していた。
アイエのおかげで、クガは腹を満たし、調子を取り戻しており、前日よりも順調に進むことができていた。
そんな折であった。
「え……? なにこれ……?」
先頭を歩いていたクガは思わず足を止める。
「ん……? どうした~?」
急に足を止めたクガにアリシアは不思議そうに尋ねる。
「ほら、あれ……」
クガは進行方向を指差す。
武骨な岩場が続く、道の真ん中に大きめの段ボール箱が一つあった。
「むむ……? お宝か……?」
【なんで段ボールw】
【誰かギフトでも贈ったのか?w】
【いや、そうだとしても48層は配送対象外地域だろ、とマジレス】
「アイエさん、何か心当たりありますか?」
クガはベテランであるアイエにも意見を求めてみる。
「いや、僕も見当がつかないね」
「なるほどです……」
「でも、堕勇者さん」
「はい……?」
「ダンジョンというものは見当がつかないことが起こるから楽しいんじゃないか!」
「……! ……そうですね」
アイエの普段よりトーンが高い声からは目の前の未知に対する期待を読み取ることができた。
そうして、クガらは警戒しつつ、段ボール箱に近づいていく。
近寄ってみると、段ボール箱の上面が空いており、前面には何やら文字が書かれていることに気が付く。
書かれていた文字は〝拾ってください〟。
【段ボールに拾ってください……だと……?】
【ん? なんだなんだ? 捨て猫か?】
クガとリスナーの脳裏をよぎったものは一致する。
クガは罠の可能性も考慮しつつ慎重に上部から段ボール箱をのぞき込む。
段ボール箱の中には、ぺたんと座り込んだ美少女がいて、ウルウルとした瞳で、こちらを見つめていた。
そして、その少女は言う。
「拾ってください」




