81.48層へ
クマゼミS級昇格祝賀会からしばらく経った頃、
ダンジョン上層47層、上階への間にて――。
クガとアリシアが48層へ入場するために必要な1500万円を超え、今、まさに48層へ足を踏み入れようとしているのである。
【1500万円達成おめでとうー】
【ついに行くんだね】
【わいの200円、大事に使ってくれや】
リスナーからも祝福のコメントなどが付く。
【そういえば上層の方を選んだのね】
【サムライがベヒーモス倒したのも上層だったよね】
【そうだね。上層下層、どっちにしても48層は武骨な岩場続きのダンジョンだけどね】
【吸血鬼さんがターゲットにしてたドラゴンって上層にいるのかな?】
【そればかりはわからんなぁ】
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【SS級ボスリスト】
・天狗 ・ケルベロス ・ドラゴン
・悪魔 ・リヴァイアサン ・ベヒーモス ← パーティ〝サムライ〟に撃破された
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SS級ボスのリストはあるものの、それぞれ上層、下層のどこに配置されているかはわからなかった。
アリシアが上層を選択した理由。それは、〝自分の城から近いから〟であった。
「アリシア、覚悟はいいな?」
「もちのろんだ!」
アリシアに戸惑いはない。
クガは主に金銭面で、少しだけ二の足を踏むが、それでも決めたことだ。
二人は並んで、ゲートをくぐり、48層へと足を踏み入れる。
……
「……やっちまった」
クガは絶望する。
48層へ足を踏み入れて、早々、遭遇してしまった魔物〝フレイム・ワーム〟。炎を吐く巨大な芋虫だ。
地中を移動する性質から、S級でもおかしくない程に厄介であった魔物であったが、クガとアリシアはそれほど苦戦することなく、フレイム・ワームを退けた。
しかし、不運なことに、〝持ち込んだバッグ〟が炎を被弾してしまったのだ。
その中には、主にクガの食糧が詰め込まれていた。
【これは……】
【あぁ、やっちまいましたなぁ】
リスナーもクガに同調する。
なにせこの48層は広いことで有名であり、最低でも攻略に一週間はかかると言われている。
その間の食糧の大半が初手で消滅してしまったのである。
【仕切り直しか……?】
【これは辛い……】
「……」
クガも苦々しい表情をする。
普通の階層攻略であれば、それも止む無しであろう。しかし……、
【どうすんのこれ】
【わいの200円がぁああああああ】
【せっかく貯めた1500万円が水の泡w】
まさにリスナーの反応の通りである。
ここで引き返せば、ここ最近で頑張って貯めてきたお金が無に帰すことになるし、リスナーの中にはなけなしのお金を支援してくれた人もいる。
「どうする? クガ……」
アリシアも心配そうにしている。アリシアはエネルギー効率がいいのか、ほとんど食糧を摂取しなくても平気なようで、問題はクガの方である。
「不幸中の幸いで、全ての食糧が駄目になったわけじゃない。節制すれば、なんとかなる。だから進もう」
「わ、わかった」
二人は前に進むことにする。
しかし、やはりこの誤算の影響は小さくはなかった。
翌日、クガとアリシアの二人は魔物〝ワイバーン〟と対峙していた。
ワイバーンもまたS級ボスに格付けされていてもおかしくない程、強力な魔物であった。
「クガ……!」
ワイバーンの放った風の刃へのクガの反応が遅れており、思わずアリシアがクガの名を叫ぶ。
「……くっ」
クガはアリシアの声かけのおかげもあり、なんとか風の刃を回避する。
「小癪な……!」
ぐぎゃぁあああああ!!
アリシアの触手が空中のワイバーンを捉え、ワイバーンを力を失い、地に落ちる。
【おぉおお、すげぇ】
【流石、吸血鬼さん】
【ぱちぱちぱち】
結局、ワイバーンも退けることに成功した。しかし……、
「……クガ、大丈夫か……?」
アリシアが心配そうにクガに尋ねる。
「……あ、あぁ……」
クガはそうは答えたものの、実際は……、
ぐぅうう……。
「っ……!」
腹の虫が鳴き、クガは咄嗟にお腹を押さえる。
クガは腹ペコであった。
【クガ、大丈夫か?】
【48層、広いだけじゃなく、魔物も強いしな】
【昨日もほとんど食ってないんだろ?】
【この状態だときついか……】
実際、48層の魔物は強く、数も多かった。
昨日、今日とフレイム・ワームやワイバーン以外にもA級相当の魔物にも相当数、対峙していた。
「…………クガ、仕切りなおすか」
「え……?」
クガは驚く。
アリシアの口から撤退の提案があるとは想像もしていなかったからだ。
「だ、だが……アリシア……せっかく貯めたお金が……」
「お金ならまた貯めれば……」
「アリシアは根本的にお金というものの価値がわかっていな……」
「そんなものわからぬわ!」
クガの言葉の途中で、遮るようにアリシアが語気を強めて言う。
「お金とは、クガ……君を失うリスクと天秤にかけられるほど価値があるものなのか?」
「……」
クガは言葉を失ってしまう。すると……、
「堕勇者さん、吸血鬼さんの言う通りだね」
「「……!?」」
突然、後方から第三者の声が聞こえ、二人は振り返る。
「あ、アイエもん!?」




