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追放された器用貧乏、隠しボスと配信始めたら徐々に万能とバレ始める~闇堕ち勇者の背信配信~(WEB版)  作者: 広路なゆる


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08.初体験

「ら゙っ!」


 短剣の男がアリシアに剣を振り下ろす。


「っ……!」


 アリシアは紅の刃でそれを受ける。


「ら゙ぁああああ!」


 短剣の男は強気に攻め立て、アリシアがそれを受けるという展開となる。


【流石、A級……吸血鬼さんと張り合ってる】

【モンスレ好きじゃないけどやっぱり強いな……】

【特に短剣の男はフェンサーのシダハラ……要注意人物だ】


火球ファイアボール!」


「っ……」


 さらに後方からの援護魔法がアリシアを襲う。アリシアは紅の触手の一部を後方へと向かわせる。


「っっ……」


 が、しっかり盾役が立ち塞がり、紅刃を防ぐ。


「おらおらおらっ! お手々がお留守だぜ?」


 その間に、フェンサーのシダハラは攻撃のギアを上げる。


「っ……」


「食らいやがれ……」


 シダハラの眼が鋭く光る。


「スキル……迅斬り《クイック・スラッシュ》!!」


 ガキンという金属がぶつかり合うような音がする。

 しかし、迅斬り(クイック・スラッシュ)はアリシアには届いてはいなかった。

 クガが迅斬り(クイック・スラッシュ)を受け止めていたからだ。


「てめぇ……」


 スキルによる攻撃をクガに防がれたシダハラは怒りを露わにする。


「……別に大丈夫だったのだが……?」


「……そうか」


 不満そうなアリシアとクガが背中合わせになる。


「いやしかし、今までずっと後方で見ていただけのクガがやる気を出したのは良い傾向か……」


「……そうか?」


「そうだ。よかろう……ならばこいつはクガに譲ろう。後ろの三人は私がやる」


「わかった」


吸血鬼ヴァンパイア……行かせるか……! っ……!」


 シダハラがアリシアの背中を追おうとするが、巨大な剣が薙ぎ払われ、それを防ぐのに思わず、ノックバックする。


「はぁん……俺とやろうってのか? 勇者さんよぉ」


「……」


「勝てると思ってるのか? 近接戦で……」


 シダハラのジョブ、フェンサーは近接特化の高速剣士。ダンジョンにはRPGゲームのようなレベルやステータスを表すような具体的な数値はないが、ジョブに対して、客観的な評価を下す機関があり、それぞれのジョブの能力値を公表している。それによると、勇者は


 =========================

【ジョブ:勇者】

 攻撃:A  防御:A  魔力:A  魔耐:A  敏捷:A

 スキル、魔法:

 攻撃、防御、補助、回復など多彩なスキル、魔法を習得可能。

 ただし、それぞれの専門職に劣る傾向がある。

 特性:

 四人のパーティに対し、戦闘中に入れ替わりで、乱入できる〝救世〟を使えるが、あまり使い道がない。

 =========================

 

 一方のフェンサーは


 =========================

【ジョブ:フェンサー】

 攻撃:A+  防御:B+  魔力:C  魔耐:C  敏捷:S

 =========================


 という評価を得ている。


「いいぜ? わからせてやるよ? 無特徴野郎……! 魔法:加速アクセル!」


 短剣と大剣がぶつかり合う。

 シダハラは敏捷性アジリティに物を言わせて、連撃を仕掛けてくる。


「しかし、救世の勇者があろうことか魔物と手を組むってんだから笑えるよな?」


「っ……」


「あ、勇者詐欺に引っかかるような弱い頭だから仕方ないか……そんなんだから仲間にも捨てられるんだろうなぁ」


「……」


 シダハラの連撃と口撃を無言で受けながら、クガは思っていた。


〝あぁ、そうだな……やはり……俺がいなければ、クマゼミはもっと上にいけるパーティだったんだな。それでも俺にとってはあのパーティが全てだった。だから……もう……どうにでもなれ……〟


 そして、大剣を上から下へ一振りする。


「なっ……」


 シダハラは驚きに目を見開いたまま、左右に分かれて倒れる。その断面からは臓物やら血液やらが噴き出ている。そして、消滅する。ダンジョン外に転送されたようだ。


「え……? し、シダハ…………ぎゃぁああああ!!」


「きゃぁあああ」


 シダハラが消滅した直後、後方ではアリシアと対峙していたモンスタースレイヤーの残る三名の男女が穴だらけにされていた。




【え、強……】




 想像以上の一方的な展開にリスナー達はやや引いていた。


「ついにやりおったなー、クガー」


 アリシアがニヤニヤしながら言う。クガは片手で顔を押さえながらも、アリシアの紅刃についた血を触手が吸収していることが視えているくらいには妙に冷静であった。


 そうだな、ついにやっちまった。

 初めて人間を殺した。

 自動蘇生リライブされるとはいえ、リライブは死んでから発動するもの。つまりは一時的に殺していることは事実である。そしてモンスタースレイヤーは二度とダンジョンに再入場することはできない。要するに彼らの積み上げてきたダンジョン生活を終わりにしたのである。しかし、自分クガは吸血鬼の何者かである。だから、それは早いか遅いかの違いであった。


「どうだ? 初体験を終えた感想は?」


「そうだな……感触は魔物を斬った時と大差はなかった……」


「なるほどなるほど……いい傾向だ」


「……」


 と、クガはジョブストーンが点滅していることに気づく。

 ジョブストーンの点滅、それはすなわち新たなジョブツリーの出現である。それはクガにとって、かなり久方ぶりの出来事であった。クガが内容を確認しようとすると……。


「クガー、なにはともあれ、これで条件、二つ達成だな!」


 そんなことには気づいていないアリシアは、例のメモを取り出し、一生懸命になにやら書き込んでいる。


 =========================

【SS級ボスになるには】

【済】侵略者を三〇人狩る

【済】A級パーティを狩る

 ・S級パーティを狩る

 ・眷属を従える(S級ボス)

 ・ボスの城を構える

 ・SS級ボスの枠を空ける

 =========================


【パチパチパチ】

【ところで条件ってなんぞ?】


 そういえば、リスナーには説明していなかったなと……クガ。

 しかし、流石にアリシアがラスボスになろうとしている……すなわち人類の脅威になろうとしていることを説明してもいいものかどうかは悩みどころであった。


【え……、てかそれよりクガがさ……】

【うん……相手、シダハラだよな?】

【なぜに……】


「……?」


なんだろうとクガが思ったその時であった。


「っ……!」


 二人が気が抜けていたところに、何者かがアリシアに急接近して攻撃を仕掛ける。


「っっ……」


 アリシアは触手により、なんとかそれを受けるが、身体ごと吹き飛ばされ、対角の岩に打ちつけられる。


「え……?」


 クガはその人物を見る。

 透明感のある青みを帯びた瞳と肩くらいまでの髪にヘッドドレスをつけ、深い青を基調とした修道服をドレス調にアレンジした服装。少し眠そうな半眼気味の表情をしているが、非常に整った顔立ちの平均的な体格をしたその女性は右手には鉄製のゴツい杖を持っている。

 クガはその人物をよく知っていた。


【ユリア様きたーーーー!】


 そう。クマゼミのメンバー……聖女のユリアである。


「うわー、びっくりした」


 アリシアもどうやら無事のようだ。


「なんだ、貴様……急に殴るとは無節操な……」


 アリシアは苦言を呈す。しかし……。


「うるさい、この泥棒猫が……! 私達の覚悟を台なしにしやがって!!」


 ユリアはなぜか相当キレていた。


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