76.触媒
「ぽ、ポーション作りの基本は抽出。よ、溶媒とする液体に薬草の成分を煮出していけばいいんだよ」
そう言うと、アイエはフラスコのようなものに、すいけい草をぶち込み、そこに水を流し込む。
「こ、これを湯煎していきます」
アイエはそう言うと、火をおこし、フラスコを熱していく。
「あ、あとは待つだけ……」
【え? これだけ……?】
【めっちゃ簡単じゃん】
……
一時間後――。
「これでだいたい抽出は終わったかな……」
フラスコの中の液体が水色に色づいている。
【おぉ、めっちゃ綺麗……】
【美味しそう】
「う、うん。いい感じだ。ちゅ、抽出が終わったら、次は濾過」
アイエは液体のみが通過できる濾過シートに、フラスコの中身をぶち込む。
濾過シートを通過した液体がポタポタと少しずつ、下に設置したビーカーに落ちていく。
「これも、また、ちょっと時間が掛かるよ。完了後、一晩、寝かせるから、また明日ね」
【地味だな……】
【じらしてくるねー】
……
翌日――。
「ひ、一晩、寝かせました」
アイエは綺麗な透明な水色の液体が溜まっているビーカーをリスナーに見せる。
【お、できたのか?】
「こ、これだとちょっと成分が薄めで、水量が多いので、持ち運びにも不便です。な、なので、ここから少し濃縮していきます」
【濃縮ってなんぞ?】
【よく耳にするけど、わからん】
「よ、溶媒を飛ばして、単位水量辺りの有効成分を濃くしていきます」
アイエはビーカーを再び、火にかけて、水分を飛ばしていく。
「だ、だいたいこれくらいかな」
アイエはある程度水分を飛ばし終えると、ビーカーから瓶に液体を移す。
掌サイズの瓶、3本の中に、濃縮前より色が濃くなった水色の液体がそれぞれ収まっている。
【おぉおおお】
【めっちゃそれっぽい】
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【ポーション生成の工程】
抽出……溶媒で薬草を湯煎して成分を抽出する。
↓
濾過……固形物を取り除く。
↓
濃縮……溶媒を取り除き、濃くする。
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「おぉ、ついに完成したか! うわぁ、すごく綺麗な色のお水だな」
アリシアは目を輝かせる。
「アイエもん、早速、いただいてもいいか?」
「どうぞ」
「やった……!」
アリシアは完成したポーションを口に入れる。
「ぶぇえええええ!!」
アリシアは思いっきり、ポーションを吹き出す。
「え、え? どうしたの? 吸血鬼さん」
「あ、アイエもん、なんだこれは? 余裕で不味いぞ」
「えぇええ!?」
アイエはショックを受けている。
【吸血鬼さーん!!】
【大丈夫か? 吸血鬼さん】
リスナーはアリシアの心配をしている。
「どれどれ……」
好奇心からか今度はヘビオがポーションに挑戦する。
が、一口、口に含んでポーション瓶を置いてしまう。そして一言……。
「人間が飲むものではない」
「な、なに!? ネクロくんもか……!?」
【アイエ、人間否定されてて草】
【確かにアイエはすでに人間超越してる説】
【むしろ吸血鬼さんは魔物じゃんw】
【おら、クガは何してんだ? 早く飲めや】
「っ……!」
クガはアリシアとヘビオの反応を見て、飲まずにやり過ごそうとしていたのだが、リスナーにばれてしまう。
【二人が子供舌という可能性もあるしな】
【クガは変な奴に好かれやすいから変な味もいけるやろ】
【早く飲め!】【早く飲め!】【早く飲め!】
「……変な奴……? まぁ、仕方ない」
クガは逃げられないと悟り、ヘビオが残したポーションを手に取る。
「あ……!」
ヘビオはクガが自分の飲み残しを飲んだのが想定外であったのか、少し驚いたような声をあげたが、もう遅い。
クガは瓶に口を付ける。
「ぶぇえええええ!!」
クガもアリシア同様に吐く。
【うはっ】
【汚ねえな】
【床、汚すなや】
「っ……!」
アリシアの時はそういう辛辣なコメントなかったのに……とクガは少しへこむ。
「お、おかしいなー、美味しいのに……」
その横でアイエはポーションをぐびぐびと飲み干していた。
【せっかくいろんな薬草があってもアイエしか摂取できないんじゃ意味ないな】
「そ、そうだね……」
リスナーの鋭いコメントにアイエは少ししょげる。
【言うて味付けすればいいんじゃない?】
【あとは薬草を組み合わせたりしても面白いかもね】
【触媒を変えてみるとか】
「……な、なんて斬新な発想!」
アイエは割と誰でも思いつきそうな発想に驚愕している。
【しかし、それだけまずいとなると、ちょっとやそっとの触媒ではうまくいかないのでは?】
【確かに……】
「……うーむ」
クガも良い発想が思い浮かばず頭を悩ませる。すると……、
「……ちょっと試してみたいものがあるんだけど」
そう呟いたのはヘビオであった。




