74.生産
「はぁー、やっぱりこっちの方が落ち着く」
ダンジョン上層43層――。
アリシアが深呼吸などしながら、心地良さそうに伸びをする。
イビルスレイヤーとのコラボ(?)を終えたクガとアリシアは一度、ダンジョンに戻ってきていた。
イビルスレイヤーとのコラボ効果は大きく、チャンネル登録者数は爆増していた。
おかげで、お金に関しても、あっという間に目標の金額に近づきつつあったのだが、アリシアも少し人間界疲れしていたのと、城に用事もあったので、一度、ダンジョンに戻ることにしたのである。
「ん? あそこにいるのは……!」
城に近づくと、アリシアが誰かの存在に気が付く。
それはクガとアリシアが留守の間、城の防衛をしてくれていた〝あいうえ王のアイエ〟であった。
「アイエもーん、アイエもーーーん!」
アリシアが結構遠くからアイエのことを呼ぶ。
アイエもこちらに気付き、手を振っている。
……
「アイエさん、留守の間、ありがとうございました」
クガはアイエに頭を下げる。
「い、いやいやいや、これくらい大したことではないよ」
相変わらず、アイエは若干、きょどり気味である。
「で、えーと……そちらが例の……彼かな?」
アイエが視線を送ったのは、ひっそりとついてきていた対ハチ防護服を着込んだ人物……ヘビオであった。
どうやらアイエは人間界でのクガとアリシアの配信をチェックしていたようだ。
「そうだ! 今後はこのヘビオくんにも城の防衛を手伝ってもらうことにしたのだ」
それがクガとアリシアが一度、城に戻ってきた理由の一つである。
アリシアがヘビオを紹介すると、ヘビオは無言ながら、ぺこりと頭を下げる。
「そ、そうなんだね」
アイエも軽く会釈をし返す。
その後、直接、ヘビオの被害を受けていた狼男達がヘビオを敵襲と勘違いする一幕もあった。
だが、アリシアによる説得……という名のごり押しで、「まぁ、あんた程の人が言うのなら……」的にヘビオが今後、城の防衛に参加することを納得させたのであった。
「それで、アイエもんは城の外で何をしていたのだ? ひょっとして草むしりか?」
狼男達を納得させたアリシアがアイエに尋ねる。
アリシアが草むしりであると推測できたのは、アイエが背負いカゴを背負っていたからである。
「そ、そうだよ、べ、別に君たちの草むしり配信に触発されたとかそういうのではないよ」
アイエはなぜか少し恥ずかしそうにしている。
「ふむふむ、それでアイエもんは雑草を刈っていたのか?」
「いやいやいや、実はこれだよ」
アイエは背負っていたカゴから何やら植物を取り出し、見せてくる。
「む……? これは……?」
アリシアは首を傾げる。
「これは薬草だよね」
それまで黙っていたヘビオが反応する。
「あー、例の……確か、ここを初めて視察した時に、クガが言っていた奴か」
アリシアは過去に城の周辺の森を視察した時に、クガが薬草なるものを発見して、見せてくれたことを思い出す。
「そうなんだが……へぇ……それも薬草なんですね……」
クガはアイエが見せてくれた草が薬草であるとはわからなかった。
「そ、そうだね。一般的に使われてる薬草とはちょっと違うからね。死霊魔術師……うーん……ネクロくんはよくわかったね」
「……まぁ、山菜とかには多少、詳しいから」
アイエの賞賛に、ヘビオは淡々と応える。
アイエはヘビオのことは死霊魔術師であるからか、略してネクロくんと呼ぶことに決めたようだ。
「な、なるほどね……それにしても堕勇者さん、この辺はなかなか豊富な種類の薬草が自生しているみたいだよ」
「ほ? そうなんですね」
「ど、どうかな? ここは一つ、薬草採集やポーション作りに挑戦してみないかい?」




