73.罰ゲーム
「吸血鬼さん達、随分、地味な配信に徹したみたいだな」
勝負を終え、集合するや否や、ウラカワが草むしりのことをいじる。
「う、うるさい! 勝てばいいんだよ、勝てば!」
「まぁ、違いねえ……んじゃ、各チーム、狩った外来種を見せろ」
二チームはそれぞれの成果物を見せる。
【おやまぁ、これは……】
【大量ですな】
ウラカワチームは、大量のウシガエルのオタマジャクシ、アメリカザリガニなどが詰め込まれたバケツを数杯分、提示する。一方のアリシアチームは背負いカゴいっぱいの草を提示する。
「こ、これは……何対何なんだ?」
「……だぁ、もう数えんの面倒くせえな」
「う、うむ……」
初めてウラカワとアリシアの意見が一致する。
【引き分けってことかな?】
【えー、じゃあ、罰ゲームなし?】
【期待してたのになぁ】
「リスナーは罰ゲームを期待してたみてぇだな。なぁ、駄目勇者、ここはひとつ、両方が相手チームの命令を一つ、何でも聞くってのはどうだ?」
「なっ……!?」
クガはウラカワらが提示する命令というものが、どんな鬼畜なものなのか心配であった。
「なーに、こちらの提示する内容は、少し面倒ではあるが、常識の範囲内のものだ。お前らもリスナーの期待を裏切るようなことはしたくないだろう?」
「クガ、受けて立とうではないか!」
こういう時、アリシアは割と後先、考えない。
「……わかった。常識の範囲内で頼むぞ」
クガが了承すると、ウラカワは「わかってるよ」とでも言うように、軽く手を上げる。
「じゃあ、オフレコで命令を告げて、その後、配信で命令を実行する。リスナー共、震えて待て!」
そうして、配信を停止する。
数分後――
「決まったか? んじゃ、まずお前らからだ」
ウラカワはクガらに罰ゲームである命令の内容を発表するよう促す。
「俺達の命令は、俺達のチャンネルの宣伝をしてくれ」
「……! 俺達をダンジョンから追い出した奴らを宣伝しろとは、なかなか思い切ったこと言うじゃねえか」
「ダメか……?」
「いんや……」
ウラカワはニヤリとする。
と、ウラカワは突如、配信を再開する。
「ちょ……まだ、お前らの命令を……」
【お、再開されたぞ】
「それじゃあ、早速、吸血鬼、駄目勇者、ヘビオくんへの命令を発表していくぅうー」
「なっ……!」
ウラカワは打ち合わせを無視し、命令を実行するでもなく、突然、自分達の命令の発表を始めてしまう。
【お、なんだなんだ?】
【鬼畜命令お願いします!】
【できれば吸血鬼さんがめちゃくちゃ困るやつで!】
「俺達の命令、それは…………駄目勇者ぁああああ」
「な、なんだ……、ウラカワ、お前、約束が……」
「ヘビオをダンジョンで雇ってくれ」
「「……え?」」
クガとヘビオの声がシンクロする。
どうやらヘビオもウラカワの命令を認識していなかったようだ。
【え……? どういうことだ?】
【雇うってことは要するにクガに協力させるってことかな?】
「駄目勇者、お前、〝責任〟はちゃんと取れ」
「……」
「わかってるだろ? お前がヘビオを殺さなかった責任だ。あー、そうそう、言い忘れていた〝もう一つの後悔〟ってのがこれだ」
そう、イビルスレイヤーとの戦いにおいて、クガはヘビオを殺さなかった。
イビルスレイヤーの中で、ヘビオだけ生き残ってしまったのだ。
「う、ウラカワ! 僕は別にダンジョンなんかに未練は……」
「うるせぇ、これは命令だ」
「っ……!」
「っつーわけで、リスナー共、これからは吸血鬼と駄目勇者のチャンネルを視聴することを推奨する」
【え……?】
【は……? なんでや】
【今日、観てるのはイビスレが出てるからであって、別に……】
「俺達は二度とダンジョンに戻れない。これまでのようなショーを観せることはできねぇんだよ」
【……!】
【そうだが……なんで、わざわざイビスレ狩った奴らのを好きこのんで……】
「そう。奴らは俺達を狩った……いや、勝った。それはすなわち、俺達よりぶっ飛んでいるということだ」
【……それは否めないが】
「まぁ、強制するものではない。好きにするといい。だが、俺達への義理立てで奴らの配信を観ないという必要はない。言いたいことはそれだけだ」
「…………と宣伝するのが、うちのチームがクガさんところに言われた罰ゲームでーす」
「ちょっ、ムシハラ……!」
ムシハラに茶化すように暴露されたウラカワが珍しく焦りの表情を浮かべる。
【んだ、罰ゲームかよ……】
【命令なら仕方ない】
【……その割にガチだったような……】
「ガチだよ……大ガチ……」
対戦中、ほとんど空気だったカメオカが突如、言葉を発する。
「ちょ、カメオカさん……!」
気が付くと、カメオカが大粒の涙を流していた。
「僕、ダンジョンに未練なんかないと思ってたんだ。でも、いざもう行けないとなったら…………ヘビオーーーー、俺達の分も頑張ってくれよなぁあああ」
カメオカは顔をくしゃくしゃにして涙を流しながら絶叫する。
「カメオカさん……」
「んだ、てめぇ……性に合わないことしやがって……」
カメオカのせいで、チャンネルコンセプトに反して、なんだかちょっとしんみりしてしまうイビルスレイヤーであった。




