72.心配
「お、おい、ヘビオくん、なんとかならないのか!」
アリシアは焦った様子でヘビオに聞く。
「うーん……まぁ、策がないこともないけど……」
「よし! やるぞ! 私は勝つためなら、なんでもやる!」
クガは、ヘビオがなんとなく乗り気じゃないような様子が気になったが、アリシアは根っからの負けず嫌いのようで、どんな手段もいとわないようだ。
……
「で、えーと……ヘビオくん? なぜ我々は草むしりを……」
背中に大きな竹製の背負いカゴを背負ったアリシアがヘビオに尋ねる。
「なに? 吸血鬼、不満なの? 勝つためならなんでもやるって言ったじゃん」
「う……そ、そうではあるが……」
ヘビオの策とは、草むしりであった。
「要するに植物にも外来種があるってことだよな?」
クガがヘビオに尋ねる。
「そうだよ。外来生物って別に植物ダメなんて言われてないし。植物なら一気に数も稼げる」
「なるほど」
【めちゃくちゃ地味で草】
【草むしりで草】
【絵面www】
しかし、問題もあった。配信として、絵面が非常に地味であることだ。
「おい、ヘビオくん、君の死霊魔術でマンパワーを増やせないのか?」
地味な作業に早くも根をあげつつあるアリシアがヘビオに尋ねる。
「無理だよ。死霊魔術はダンジョンでしか使えない」
「……そうか」
アリシアはしゅんとする。
ダンジョンで得たジョブの力……スキルや魔法は、人間界で効力を発揮するものとしないものがあった。
効力を発揮しないものの代表例が自動蘇生だ。
同様に、ヘビオの得意とする死霊魔術も効力を発揮できないようである。
逆にアリシアは、翼、触手の変形や瞬間移動など、ほぼダンジョンと同じ性能での戦闘が可能なようであった。(人間界に来てから一応、試した)
「あ、吸血鬼、それは在来種」
「な、なにーー!? す、すまない……」
「まぁ、いいよ。それ美味しいから、あとで食べよう」
「う、うむ……」
なんやかんや言いながらもアリシアは草むしりを頑張っている。
間違えて在来種を刈らないように、触手による大味な伐採も控えていた。
そんな時であった。
「静かに……」
「「……!?」」
突然、ヘビオが張り詰めた様子で二人に沈黙を求める。
「ど、どうした……?」
クガが小声で確認する。
「やっぱり出ちゃったか……」
【なんだなんだ?】
【急にどうした?】
【何が出たんだ?】
「……この時期はこの辺に〝熊〟がよく出る」
【熊ぁあ!?】
【エマージェンシーエマージェンシー】
【やばいよやばいよ】
「……」
道理でヘビオがあまり乗り気じゃなかったのか……とクガは察する。
「やっぱりいる……」
ヘビオの視線の先に、確かに一頭の黒い熊がいた。
「え、えーと死んだふりでもすればいいのか?」
クガはヘビオに尋ねる。
「熊は死肉を漁るから意味ない。できることと言えば、背中を見せないことくらい。熊には出会わないことが一番重要。出会ってしまったら、あとは熊の機嫌と運次第」
「……そうか」
熊もこちらに気付いており、様子をうかがっている。
「おい、クガ、なぜあそこに魔物がいるのだ?」
「あれは魔物ではなくて、人間界の生物だ」
「な、なんだと!? 人間界に、あのような生物が……!?」
「そうだ……あれよりやばいのもそれなりにいる」
本州にいる黒い熊はツキノワグマ。北海道に生息するヒグマよりは小型だ。
「なんと……驚いた……本当に魔物のような生物がいるのだな……だが、なぜクガ達は、そんなに緊迫した様子なのだ?」
「あいつがこちらに襲ってこないか心配してるんだよ……!」
「む……? いくら魔物のようとはいえ、あれくらいは私が……」
「だから心配してんだよ!」
「へ……?」
「熊が万が一、襲ってきたら、熊がアリシアに八つ裂きにされるだろうが……!」
「……!」
心配されているのは熊の方であった。
……
【結局、熊さん、去ってくれてよかったね】
【本能的に危険だと感じたのかな】
【熊のジビエっておいしいの?】
幸いにして、熊は自らクガらから離れていった。おかげで交戦するような事態にはならなかった。
「さぁ、熊とやらは去った! 大幅な時間ロスだ。草むしりを続けるぞ! うらうらうらうらーー!!」
アリシアは要領を掴んだのか、触手を使って、高速で草をむしり始め、次々に背負いカゴに放り込んでいく。
クガも必死に草をむしるのであった。
……
〝ターイムアッッップ!!〟
ウラカワが制限時間の終了を告げる。




