70.人間界の魔物狩り
「おい、吸血鬼」
そんなアリシアにウラカワが声をかける。
「む……? なんだ?」
「お前、よくここに来ることを了承したな。犬の館を燃やされて、俺達を恨んでるんじゃないのか?」
「は? 恨んでいるが、それがどうした?」
「……!」
「攻城なら、私もやる。お前らのやったことと私が普段やっていること、何が違うというのだ?」
「……」
ウラカワは言葉に詰まる。
アリシアの言葉にクガはふと、アリシアと初めて人間を狩った時のことを思い出す。
仲間を狩られ、憤慨する人間に、アリシアは「何をそんなに憤慨しているのか、理解に苦しむ。君達が普段やってることと全く同じでしょ?」と告げたのだ。
アリシアにとって、狩り狩られることは当たり前のことであるようだ。
「コボルト達が犠牲になった件は許さん。だが、それも私の弱さが招いたことだ」
「……はは、魔物様は心がお広いようで……」
ウラカワは苦笑いする。
「じゃあ、吸血鬼よぉ……犠牲になったのが、コボルトじゃなくてクガだったらどうなんだ?」
ウラカワはクガを指差す。
「っ……! そ、それは……」
今度はアリシアの言葉が詰まる。
「くっくっくっ……吸血鬼様はどうやら本当に駄目勇者にご執心のようで……」
「なっ……!」
「まぁいい……どんな因縁があろうと、今日のお前らは客だ。ゆっくりと過ごせばいい」
そう言うと、ウラカワは店の奥へ引っ込んでしまう。
「あ……」
クガは思う。
ウラカワは二つの後悔があると言っていた。だが、結局、そのうちの一つしか言わずに去ってしまった。
……
「おい、お前、もっと餌をよこせ」
「え、あ、はい。300円です」
アリシアは結局、すぐに元に戻り、ムシハラに追加の餌を要求する。
「おい、この亀の可愛い姿を配信できないのは納得いかない。配信させろ」
「お客様、申し訳ありません、それは……」
「そうか……それは仕方ないな」
しょんぼりとするアリシアの態度とは裏腹に、背中の翼が鋭い形に変形する。
「ひっ……と、特別に、て、店長に確認してまいります」
それを見たムシハラは慌ただしく、去っていく。
どうやらアリシアの触手に串刺しにされたのがトラウマになっているようだ。
「カメオカさーん! 吸血鬼に、餌やり配信、許可してもいいですかー? 許可しないと殺されそうです」
「……」
店長、カメオカなんだ……と思うクガであった。
……
「お、お客様、もう亀さんもお腹いっぱいのようです」
ムシハラがアリシアに餌やりストップをかける。
「お、そうか……」
【いやー、亀、思いのほか可愛いな】
【亀さんの頭、なでなでしてる吸血鬼さんも可愛いな】
【僕も吸血鬼さんに頭なでなでして欲しいよぉ】
「お客様、亀さんはもうお腹いっぱいですが、こちらのカメオカへの餌やりであれば無制限に……」
「いや、いい」
アリシアはムシハラのおすすめを断る。
亀への餌やりも終え、クガは、なんか思ったよりただの平和な配信になってしまったなぁ……と思っていると、
「なぁ、吸血鬼……」
奥からウラカワが出てきて、アリシアに声をかけ、そして、にやりと不気味な笑みを浮かべる。
「人間界の魔物を狩りにいかないか?」
「……! いるのか? 人間界にも魔物が……!」




