68.襲撃返し
「正気か……?」
ミカリに〝とある企画〟を持ち掛けられたクガは、思わずミカリに確認する。
「ぎりぎり正気かな。まぁ、やるかやらないかはそちらにお任せするけど」
「……」
クガはすぐに結論が出せず、沈黙する。
「アリシアはどう思う?」
「え? まぁ、いいんじゃない?」
「マジか……!」
アリシアがあっけらかんと受け容れることにクガは驚く。
「ただ、まぁ、状況次第では、クガとの人間界での〝お約束〟を破ることになるかもしれないなぁ……」
アリシアは人間界に来てから、あまり見せていなかった邪悪な笑みを浮かべる。
いや、それはまずいんだが……と思うクガ。
「まぁ、さっきも言ったけど、やるかやらないかはそっちであとでゆっくり決めてね。いやー、それにしてもおかげさまで、こっちはチャンネル登録、爆増しちゃいました! これ、クマゼミ史上、最大増、更新しちゃったんじゃないかなー」
ミカリは嬉しそうに目を細めて微笑む。
その笑みを見て、クガはふと思う。
「ひょっとして、ミカリ、ここまで計算して俺を脱退させたんじゃないだろうな?」
クガを劇的に追放したのも、無能なサイオンを一時的に加入させたのも、アラクネに襲われたのも……その後の処理も含めて、全てがミカリの掌でコロコロ転がされていたのではないかという想像がクガの脳内を駆け巡った。
だから「実はそうだったんだよね~」などと、にやり顔で応えるミカリの姿を想像していた。
だが……、
「そんなわけ、あるわけないでしょ!!」
ミカリは眉を逆八の字にして……なんなら目尻に涙を浮かべて、きっとした表情で語気を強めて言う。
「……っっ! す、すまん……」
「っっ……」
ミカリはそのまま無言でその場を離れてしまった。
「あっ、だ、大丈夫か……?」
アリシアがミカリの去っていく姿を見て、心配そうに、おろおろしている。
「クガさん、今のはダメですよぉ」
残ったクシナがクガに苦言を呈す。
「クマゼミの初代〝ク〟は、クガさん、貴方だけなんですから」
「……! すまん、席を外す」
クガはミカリを追って急いで席を立つ。
……
その後、クガはミカリに平謝りするのであった。
逆にミカリに「どんな理由があれど脱退させた側の私が怒るのは筋違いだよね」などと謝られたりして、クガはかなりたじたじしてしまったりもしたが、ひとまず二人の仲に、この出来事前後の〝違い〟は生じずに済んだのであった。
◇
ミカリ、クシナとの配信を終えてから数日後――
クガとアリシアは田舎町のとあるカフェを訪れていた。
「ほほーう、ここがミカリの言っていた例の場所か……」
アリシアは妙にニヤニヤしている。
「さて、アリシア、開店直後に入店するぞ……」
「おぉ……!」
クガとアリシアは本日の目的地〝亀カフェ〟へと足を踏み入れる。
入店するとすぐに、少し……いや、かなり恰幅のいい店員がお出迎えしてくれる。
「あーい、いらっしゃいま……」
恰幅のいい店員は、クガとアリシアの姿を見て、青褪めていく。
「いらっしゃいま……せぇええええええええ!?」
そして恰幅のいい店員は顎が外れそうなくらい口を開けて、驚愕する。
「ど、どうしました? カメオカさん」
中から別の店員が現れる。今度はやせたタンクトップ姿の人物だ。
「む、ムシハラ……! あれ……! あれ……!!」
カメオカと呼ばれた恰幅のいい店員は、タンクトップ姿の店員に呼びかけながら、アリシアの方を指差す。
「ひっ、これはなかなかにとんでもない事態で……」
【こwwwれwwwはwww】
【クガ、思い切ったな】
【まさかの襲撃やり返し】
【驚いてる驚いてる】
そう、ミカリに提案された企画……それはイビルスレイヤーの経営する亀カフェへの突撃配信であった。




