67.うちあげ
「……な、なんなのだ……? これは……」
ミカリとクシナがアリシアに見せようとしていたもの、それは……
【夜景だよ】
摩天楼連なる大都会が一望できる夜景であった。
「夜景……とても……綺麗だ……」
アリシアは口をぽっかりと開けて、呟く。
【吸血鬼さんがどんな反応するかちょっと心配だったけど】
【気に入ってくれたみたいでよかった】
「そうか……なるほど……建造物を上空から見ているというわけだな……それがこれほどまでに心打たれるほど美しいとは……よく考えたものだ……それに、これほどまでの建造物をよくぞあの無力な人間たちが拵えたものだ……どれほどの時間と根気、そして知恵を要したのか……私には想像すらできない。これが人間たちが生み出した文明の一端というわけか……」
【そう! これが東京名物……社畜達の残業の瞬き】
【あの光の一部が俺なんだなぁ】
【↑仕事しろwww】
【吸血鬼さんに変な知識、入れんでいい!】
「クガ……」
「ん……? なんだ?」
「かつて私は初めて配信をしたとき、人間とは頭がおかしいと思った。同族が狩られているのに、喜んだり、もっとやれと言ったからだ」
「そ、そうだな」
【申し訳ありません】
【さーせん】
【ごめんなさい】
【不徳の致すところです】
「だが、今、改めて思う……」
【お……】
【流れ変わったか?】
【もしや……】
【見直してくれたのか?】
「やっぱり人間は頭おかしいな」
【ぐふっ】
【変わってないのかーい!】
【クリティカル・ヒット】
「…………だって、こんなものを生み出せるなんて……正気の沙汰とは思えない……」
【……】
【いい意味と捉えていいのかな?】
【吸血鬼さんが褒めてくれてる?】
【な、なんだか痒くなってきたぞ。まぁ、俺、飲食業だけど】
【↑関係なくて草】
【いや、建築業の方が食べるものを提供していると考えれば関係なくもないかも】
【皆、多かれ少なかれ、何かに貢献してるんじゃないか?】
【↑君、いいこと言うね】
「はい! というわけで、うっかり感動しちゃった人、これからもクマゼミチャンネルはアリシアさんに便じょ……じゃなかったコラボしていきますので、チャンネル登録よろしくね!」
リスナーがちょっとしんみりしているところに、ミカリはちゃっかり宣伝をぶっこむのであった。
【ちょwww】
【空気……!】
【仕方ないなー笑】
【ぽちっとな】
◇
配信を終了し、クガ、アリシア、ミカリ、クシナの四人は静かなカフェにてオフレコで、小さな打ち上げをしていた。
ミカリとクシナが居酒屋に行こうとしたが、クガが全力で拒否した。
なにせミカリとクシナは酒癖が悪い。
「クガ、それにアリシアさん、今日はありがとね」
ミカリが切り出す。
「あ、あぁ、こちらこそ感謝する。正直、言ってとても稀有な体験をさせてもらった」
アリシアは素直に応える。
「あー、アリシアさんのJK制服姿、かわいかったなー」
クシナは夢見心地のようにぽけーっとしながら言う。
「なっ!? 結局、あの衣装はなんだったのだ!?」
「あー、クガ、ちゃんと制服もその中に入ってるからね!」
ミカリは「いい仕事したぜ」とでも言うように、クガに渡した私服一式を指差しながらウィンクする。
「クガさん、変なことに使わないでくださいよー」
クシナが疑わしいものを見るように、目を細めて言う。
「使うか!」
クガは焦るように否定する。
「なぁ、クガ、変なことってなんだ……?」
純粋な瞳をクガに向けるアリシアをクガはスルーする。
「ところで、クガ、肝心の〝数字〟の方はどうなのよ?」
ミカリが幾分、真面目な顔でクガに尋ねる。
「あ、あぁ……おかげさまで悪くはない……」
チャンネル登録者数や再生数、支援金などまずまずの伸びとなっていた。
だが……、
「その顔は……ちょっと伸び悩んでる感じかな?」
「っっ!」
ミカリの鋭い指摘に、クガはドキリとする。
「そ、そうなのか……? クガ……」
それを聞き、アリシアが心配そうな顔をする。
「いや、まぁ、こんなものだとは思うぞ。今までが良すぎたんだ」
実際に、チャンネル登録者数は伸びてはいるが、伸び率が鈍化しつつあった。
「だが、このまま続けていけば、目標の1500万円にはいつか届くはずだ」
「なるほど……」
アリシアの表情が少し曇る。
「まぁ、私達の訴求力……要するに私達とのコラボ効果も少し物足りなかったかな。申し訳ないわ」
ミカリの言葉にクガは首を横に振る。
「ただまぁね、今更言うまでもないかもしれないけど、あなた達のやってることって、基本的には〝外道〟なのよね。誰彼構わずってわけではないけど、〝探索者狩り〟がチャンネルの根幹にあるわけだし」
「そうだな」
クガは今度は首を縦に振る。
「というわけで、クガ……」
「ん……?」
「こんな企画はどうかしら?」
ミカリがにやりとする。
……
「正気か……?」
ミカリに〝とある企画〟を持ち掛けられたクガは、思わずミカリに確認する。




