66.サプライズ
「き、貴様らーー! 騙したなーーー!!」
アリシアはミカリとクシナをきっと睨みつけ、ミカリの指示通りに畳んでいた翼が服の隙間を縫うように、にょきっと出てくる。
「ご、ごめんごめん、アリシアさん」
ミカリ、クシナはぺこぺこと頭を下げる。
「で、でもほらっ、アリシアさん、見てごらんなさいな」
そう言って、ミカリはアリシアに配信中の画面を見せる。
「ん……? んんん……!」
画面には大量の支援金が投下されている様子が表示されている。
「おぉお……! でも、なんでだ?」
「それだけアリシアさんの制服姿には価値があるってことよ……」
「お、おぅ……」
アリシアが疑問に思っていたのは〝なぜ〟制服姿にそんなに価値があるのかの部分であったのだが、ミカリはそこは答えてくれなかった。
「なぁ、クガ……よくわからないのだが、この姿は似合っているのか……?」
アリシアが上目づかい気味にクガに尋ねる。
「え……あ……おう……」
クガは思わず目を逸らしてしまう。
「ぬ……? なんだ……?」
クガのよくわからない態度に、アリシアは更にずいっと近づく。
しかし、クガはアリシアを直視できない様子である。
「なぜ見ようとしないのだ!?」
アリシアは少々、憤慨する。
【クガ、照れてやがるwww】
【吸血鬼さん、似合いすぎ&可愛すぎなんや】
【吸血鬼さん、はぁはぁ】
【いや、しかし自分が同じ立場だったらクガみたいになる自信あるわ】
【確かに。眩しすぎて直視できないってやつwww】
「んなっ……! そ、そうなのか!? クガ……!」
「えっ? ま、まぁ……」
「……!」
リスナーのコメントを素直に肯定したクガに、今度はアリシアが言葉を失ってしまう。
【んー……】
【これはこれは……】
【あぁああああ! 見せつけるんじゃねえ!】
【ちょっと横になります】
【チャンネル登録解除、さよなら】
「な、なにを言っているのだ、貴様らは!」
アリシアはあたふたする。
「はいはーい、胸やけがする皆さーん、クマゼミチャンネルはこういったご心配はございませんので、どうぞ、こちらへ移住くださーい」
ミカリがクマゼミチャンネルへ誘導しようとする。
【めざとくて草】
【妙だな……、クマゼミチャンネルの方が男女比1:3でハーレム状態のはずなのに……】
「はいはい、冗談はこれくらいにして……クガ、これは約束通りあげるから」
そう言って、ミカリはクガに袋を渡す。
中には、割と普通っぽく普通に可愛らしい私服が何着か入っていた。
「あ、ありがとう……」
「でも、アリシアさん、素材が可愛すぎて、目立ち過ぎるから、私服にするだけじゃ不十分よ?」
「…………わかってるよ」
クガはミカリの言葉を素直に受け入れる。
アリシアは聞こえないような素振りであったが、なぜか翼がぴょこぴょこと動いていた。
◇
1時間後――。
時刻にして19時頃。
「はいはいー、お待たせしましたー。クマゼミのミカリです」
再び配信が開始される。
【おぉー、再開された】
【待ってたよー】
【どこかに移動してたのかな?】
「どうも、クマゼミのクシナです。現在、都内某所に来ておりますよー、本日、最後のロケーションになりますよー」
クシナがそんな風に案内する。配信する姿は、すっかり板についてきていた。
ミカリとクシナの後ろには、やや疲れた様子のアリシアとクガが映っている。
「クガよ、今度は一体、何をするのだ……?」
「わからん……」
クガは、そこがとある役所のビルであることは分かったが、ミカリはなぜか何をするのか教えてくれなかった。
まさか住民登録でもさせる気じゃないだろうな? いや、そもそも魔物が人間界に来るのって、何かの法に引っかかったりしないのだろうか? と今更ながら、少し不安になってくるクガであった。
「さぁさぁ、アリシアさん、こちらへ」
そんなクガの心配をよそにミカリはアリシアをエレベーターへと誘う。
エレベーターは上へ上へと昇っていく。
「……」
だが、そこでクガも気付く。ひょっとしてミカリとクシナは……。
「あ、リスナーの皆さん、ちょっとアリシアさんへのコメントは一時的にミュートするよー。クガもよろしくー」
「あぁ……」
ミカリの指示に従い、クガもアリシアへコメントが届かないようにドローンの設定変更する。
「な、なんでだー!?」
アリシアは自分だけ阻害され、不安そうである。
少し可哀そうであったが、クガも心を鬼にする。
その間にもエレベーターが緩やかに減速し、目的のフロアに到着する。
「さぁ、着いたよ、アリシアさん!」
「ん……? あぁ……」
ミカリが到着を告げると、アリシアはエレベーターを出ようとする。
「アリシアさん、ちょっと失礼……」
「ぬわ……!?」
クシナが後ろからアリシアの目を塞ぐ。
「な、何をする!?」
「まぁまぁ、悪いようにはしませんから、ちょっとこのまま進んでくださいね」
そう言って、クシナは手早くアリシアに目隠しを装着し、アリシアは目隠しされたまま誘導される。
「ぬー、まだなのかぁ……? クガぁ……」
アリシアは心細そうにクガを呼ぶ。
「あぁ、多分、もう少し」
「そ、そうか……」
「はい、アリシアさん、お待たせしました。ここで大丈夫です」
「お……?」
「それじゃあ、アリシアさん、目隠しを外しますよ。クガさん、アリシアさんのミュート解除していいですよー」
そう宣言して、クシナはゆっくりとアリシアの目隠しを外す。
「…………~~――」
アリシアは眼前の光景に一瞬、言葉を失う。




