65.人間界の服
「ふふふ、喜んでくれてよかった」
ミカリは微笑む。
……
「さてさて、今日の付与術師ミカリのMayPayポイント付与術講座はこれだけにあらず! 同じ自治体のキャンペーンで驚異の30%ポイント還元のお店をもうひとつ、紹介していきますよー」
スイーツ店から退店したミカリがリスナーを煽る。
「さぁさぁ、次のお店はすぐそこです。はい、こちらのお店になります!」
ミカリが落ち着いた雰囲気ではあるが、かわいらしい外観のお店を紹介する。
【ここは洋服店かな?】
【洋服店ということは……ひょっとして……】
ドローンは危機感なく、ぽかーんとしているアリシアを映し出し、カメラの画角の外でミカリがニヤリと微笑む。
……
「な、なんなのだ? この店は、装備品がたくさんあるではないか?」
洋服屋に入るなり、アリシアは不思議そうに、クガに尋ねる。
「洋服屋だな。ちなみに装備品ではない。単なる服だ」
「ほほう……」
アリシアは頷いてはいるが、あまりよくわかっていないようであった。
クガは、アリシアが紅と黒の通常衣装とパジャマの二種類以外の服装をしているところを見たことがなかった。
敢えて言うなら、人間界に隠れて侵入するときは、通常衣装の上に、ロングコートを羽織らせたが、それくらいだろう。
と、ミカリが眉を逆八の字にして、クガに尋ねる。
「クガ、考えたことある?」
「な、なにがだ?」
「アリシアさん、その目立つ一張羅だけじゃ、こっちの世界では、生活しづらいでしょ?」
「た、確かに……」
「というわけで、今日はアリシアさんの私服をバキバキにコーディネートしていきたいと思いまーす」
【うぉおおおおおお】
【吸血鬼さんの私服姿を見れるぞぉおおお!」
【まさに至福……なんつって】
【お、おう……】
「さぁさぁ、お約束……クガは邪魔だから、あっちの方で好きな野菜のことでも考えてなさい」
「え、あ、おう……ほうれん草」
「さぁさぁ、アリシアさんはこっちに!」
ミカリがクガの、クシナがアリシアの背中を押すようにして二人を引きはがす。
「あぁあーー、クガーーーー」
などという少々、不安そうな声と共にアリシアは所狭しと陳列された服の密林へと消えていった。
30分後――。
「はーい、クガさーん、こっちですよー!」
クシナがクガを試着室の方へ呼びつけ、クガはそれに従う。
「アリシアさん、素材がいいから、いろいろ試しちゃった」
ミカリはウインクし、続ける。
「アリシアさんを着せ替え人形にさせてもらったお詫びに何着かプレゼントするからさ」
「着せ替え人形って……あ、でも、正直、ありがたい」
クガはミカリに頭を下げる。
「うむ。ということで、今、試着室の中には、私服姿のアリシアさんがいます! あ、アリシアさん、ちょっと翼は畳んどいてね」
【うぉおおおおおお! 私服吸血鬼さんだぁあああ】
【ワクワク】【ドキドキ】
「刮目せよ!!」
そう言って、ミカリは試着室のカーテンを開く。
「……!」
「お、おう……クガ……人間界の服とは変わったデザインが多いのだな……」
試着室の中には、恥ずかしそうに、もじもじしたアリシアがいた。
「お、おい……これって……」
クガはミカリとクシナに訝しげな視線を送る。
だが、ミカリとクシナの二人はかすれた口笛を吹きながらそっぽを向いている。
【こwwwれwwwはwww】
【うぉおおおおおお! 制服じゃないかぁあああ】
【JK吸血鬼さん】
【私服じゃなくて草】
「えぇ!? 私服じゃないのか!?」
リスナーのコメントに口をあんぐり開けて驚くアリシアは女子学生の着るようなブレザーを着せられていた。




