64.スイーツ
「付与術師ミカリのMayPayポイント付与術講座~~♪」
「いえーい!」
配信再開と同時に、ミカリが企画を宣言し、クシナがニコニコしながら合の手を入れる。
【お、来ましたね】
【吸血鬼さん企画でそれやっちゃいます?www】
【吸血鬼さん、キョトンとしてて草】
「なぁ、クガ……MayPayって確か……」
「あぁ、いわゆる電子マネーだ」
MayPayとは、現在、もっとも普及している電子マネーである。驚くべきことになぜか魔物の街でも使用が可能だ。
実はMayPayが魔物の街でも使えたことで、クガは非常に助かっていた。
アリシアと行動するようになってから、人間への背信者となったクガは、恨みを買っているリスクを考慮して、しばらく人間界に戻っていなかった。
そのため、口座から現金を降ろすことが不可能であったのだ。
しかし、MayPayのような電子マネーであれば、そのような心配はない。
おかげで、クガは魔物の街で、アリシアのヒモとならずに生活することができていたのである。
「さて、今日、ご紹介するのは、こちらのお店でーす」
満面の営業スマイルのミカリがメルヘンチックな佇まいのお店を紹介する。
「このお店、今、自治体と連携したキャンペーンを行ってまして、なんと驚異の30%ポイント還元!」
このようにミカリは時折、人間界にやってきては、付与術師ミカリのMayPayポイント付与術講座という〝案件〟をこなしていたのである。
案件とは、企業から依頼を受けて、商品やキャンペーンを配信内で紹介することで、企業から報酬を受け取る仕組みである。
少々、金の臭いのするきな臭さから嫌う人もいるが、ある程度、認知もされているため、大半は【あぁ、案件ね】と生暖かく見守ってくれる。
「ちなみに今日は案件ではないですよー。わたくしポイント付与術師ミカリによる純粋なおすすめ情報です」
とのことだ。
「さて、前置きはこれくらいにして、早速、入店していきましょう」
……
「おぉーー!」
そのお店はスイーツを扱ったカフェであった。
入店前はミカリの勢いに押されて、少々、萎縮気味であったアリシアであるが、いざお店に入ると、ピンクでデコレートされたおしゃれな佇まいの内装を一目見て、ラーメン屋では見せなかった好感触の反応を示す。
「なんだか好奇心を刺激されるお店だな。それにとてもいい匂いもする」
「ふふ……アリシアさんもやっぱり女の子なのね」
ミカリはアリシアの姿を見て、微笑む。
【クガよ、見ているか? これが最初に女の子を連れていくべきお店よ】
【まぁ、クガには少しハードルが高いか】
【違いない】
「……」
クガはリスナーにボロクソに言われるが、否定できず、黙って批判を受け入れる。
そうこうしているうちに店員に誘導され、四人は席につく。
「さぁさぁ、アリシアさん、何にしますかー?」
クシナがアリシアにメニューを見せる。
「うわぁ……、これ全部、このお店で食べられるのか?」
「もちろんそうですよー」
「…………す、すごいな……」
アリシアは少しぐぬぬとなる。
しばらくすると、注文したケーキが卓に運ばれてくる。
アリシアはリンゴのタルトを選んだようだ。
「……~~」
リンゴのタルトを目の前にしたアリシアは何か言葉を発するわけではないが、翼がピコピコと動いている。
「……」
その様子を観察しながら、ラーメン屋では見せなかった反応だなぁと、クガは少し不思議に思う。
「食レポは口に合わなくても、まずいって言っちゃダメなんだけど、どうやらその心配はなさそうね」
ミカリは子供でも見るかのような穏やかな表情で、アリシアを眺めている。
「では、アリシアさん、早速いただきましょう! 私ももう我慢できませんーーー! いただきますーー!」
というクシナの号令で、四名はそれぞれのスイーツを口に入れる。
「んん~~……――」
一口、リンゴのタルトを口に含んだアリシアは、言葉にならない声をあげる。
「ど、どう? アリシアさん」
ミカリが尋ねる。
「…………美味しい……です」
アリシアはなぜか敬語で答える。
それはもうそこらにいる普通の女の子のように。
「に、人間とはこんなに美味しいものを日常的に食しているのか?」
「え、えぇ……まぁ、日常的とまではいえるか分からないけど、食べようと思えば割といつでも食べられるかな……」
「っ……!」
ミカリの回答に、アリシアは驚愕している。そして、ぼそりと呟く。
「……人間界、恐るべし」
【恐縮っす】
【なんでお前が恐縮するんだよ】
【別に自分がケーキ作ってるわけでもないのに、吸血鬼さんに褒められると、なんか照れくさいな】
【少しわかる】
リスナーはなぜか自分のことというわけでもないのに、照れていた。




