58.セシルさん
「おぉー、あの魔物が問い合わせ窓口の係の人だな」
そう言って、アリシアはカウンターまで歩いていき、クガもそれに続く。
【誰だろ?】
【人型っぽいけど、魔物かな?】
【吸血鬼さんが魔物って言ってるし、魔物なんじゃない?】
「こんにちは、魔物の生活マニュアル問い合わせ窓口担当のセシルが承ります。本日はどのようなご用件でしょうか」
そこには、菫のようなパープルのふわっとした長い髪に、白を基調として、髪の菫に近い色があしらわれたドレスを身にまとったグラマーな美少女がいた。
セシルは穏やかに微笑みながら、まさにマニュアル通りのような挨拶でアリシアに対応する。
【かわいい】
【窓口のセシルさん……記憶した】
【大変おおきなお胸のようで……】
【なんだろう……叱られたい】
早速、リスナー達が各々の脳内の欲望を垂れ流す。
「……お前らなぁ」
これにはアリシアも少々、呆れている。
「えーと……それでどういったご用件でしょう? アリシア様」
「え? あ、えーと……」
セシルに急に名前を呼ばれてアリシアは少々、虚を突かれた様子を見せるも、用件を述べる。
「えーとですね……魔物がダンジョンを出て、人間の世界に行っても問題ないですか?」
【えぇええええ!?】
【問い合わせ内容ってそれか!】
【吸血鬼さん、こっちに来るの!?】
【激熱……!】
【それより吸血鬼さん、なんか敬語になっててかわよ】
引っ張ったわりに、うっかり、さらっとネタ晴らししてしまったアリシアであったが、リスナー達は上々の反応を示してくれる。
アリシアはリスナーに敬語を指摘されて、少々、赤面している。そんなアリシアをよそに、セシルは淡々と回答する。
「可能です」
【うぉおおおおおおおおお!!】
【吸血鬼さんが人間界に来るぞぉおおおお!!】
【楽しみすぎる!】
セシルの回答に、リスナー達は大盛り上がりだ。
「え、本当ですか? 人間の世界に出た瞬間、消滅するとかないですよね?」
あまりにあっさりと懸念が払しょくされたクガは念のため、セシルに再度、確認する。
「ないですね」
しかし、セシルは非常に端的にはっきりと当たり前であるかのように回答する。
「あ、ありがとうございます……ちなみにですが、人間は自動蘇生をかけていないと、ダンジョンに再び入ることができないのですが、魔物はどうなるかなどわかりますでしょうか」
「自動蘇生の検閲は人間側が設置したものです。魔物には適用外となります」
セシルはやはり、はっきりと断定的に回答する。
【おぉー、これで懸念事項はあらかた払しょくされたかな?】
【ってか、そもそも吸血鬼さんにリライブかけるとどうなるの?】
【リライブは魔物にかけても効果ないのは有名だろ】
「自動蘇生は人間専用の魔法となります」
【!?】【!?】【!?】
【え……? 今、窓口さん、俺らの会話に回答しなかったか?】
【……気のせいだろ】
「……」
クガも一瞬、セシルがリスナーの質問に回答したように感じたが、ぎりぎり前の回答の続きと捉えられなくもなかった。
そのセシルは営業スマイルなのか終始、ニコニコしている。
【なぁ、俺、ちょっと思ったんだけどさ……】
【あぁ……】
【協力的】
【なぜか人間界の事情にも詳しい】
【なぜか吸血鬼さんの名前を知っている】
【なぜかリスナーのコメントに介入できる】
【……糸目キャラ】
【これって……】
【なにこの露骨に黒幕っぽい人】
【窓口さんは黒幕です。間違いありません】
「えっ!?」
リスナー達の暴走気味の考察に、クガは流石に少し驚く。
「ん? クガ、リスナー達の言っている黒幕とはなんなのだ?」
「えーと……要は……アリシアの目指すラスボス的な……」
「えぇええええ!?」
アリシアはわかりやすく驚く。
そして、大胆にもストレートにセシルに尋ねてしまう。
「あの……セシルさんは、黒幕なわけ……ないですよね?」
そんな唐突な質問にも、セシルはニコニコしながら答えてくれる。
「えぇ、もちろんです」
【あぁ、黒幕だわ、これ】
こうしてセシルはリスナーにより黒幕扱いされるのであった。




