55.警護の委託
「な、なんだってーーー!!」
豪快に1500万円を一括支援した人物は、四組のS級パーティの二番手とされる〝あいうえ王のダンジョン籠りアイエ〟、その人であった。
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【四組のS級パーティとその配信スタイル】
①ルユージョン……正統派
②あいうえ王……ソロダンジョン籠もり ← この人
③デュエリスト……プレイヤー間の決闘を好む
④イビルスレイヤー……猟奇的モンスター狩り ← 退場済み
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以前、クガとアリシアが四番手イビルスレイヤーと一戦交えた際に、クガ、アリシアに協力してくれたのだ。
その際、アイエは二人のファンであることを公言していた。
「うわ…………マジで入ってる……」
クガはディスプレイを操作し、所持金の確認をする。そして……。
「…………アイエさん、ありがとうございます」
「クガ、やったな! これで、SS級ボスに……」
「ですが、これは受け取れません」
「え……?」
【え……?】【え……?】【え……?】
アリシアとリスナー達がシンクロしている間に、クガは再びディスプレイ操作を行い、手早く返金処理を行ってしまう。
「ん……? クガ、何をした?」
「返金した」
「………! ………あぁああ゛あああああ゛あああ!!」
アリシアは取り乱す。
アリシアはわりと現金なタイプの吸血鬼のようだ。
【アイエ:いいのかい?】
「はい……流石にこの額は受け取れません」
「クガ! この……! 何を勝手に決めているのだ!」
アリシアは少々、納得いかない様子で、クガをポコポコと叩く。
【アイエ:吸血鬼さんは納得いってないみたいだけど……?】
「アリシアは根本的にお金というものの価値がわかっていないのだと思います。自分が納得させます」
【アイエ:了解。金銭面以外でなにか支援できることがあれば言ってください】
「…………ありがたいお言葉です」
クガはドローンに向かって頭を下げる。
「すみません、リスナーの皆さん、ちょっと一度、配信を止めます」
【え、もう?】
【了解ー、お疲れ様ー】
【二人でゆっくり話しなー】
クガは再び、ドローンに頭を下げ、配信を停止するのであった。
◇
数日後、アリシアの城の前にて――。
クガは配信ドローンを起動する。
「あ、え、えーと……こ、こんにちは……」
少々、挙動不審な様子で、挨拶をしたのは、あいうえ王のアイエである。
「うむ、来てくれて感謝する」
「おい、アリシア……! アイエさん、ご足労ありがとうございます」
わりといつも通りであるが、ちょっと偉そうなアリシア。
それを嗜めつつ、クガがアイエにへりくだった挨拶をする。
【んんん……?】
【吸血鬼さんの城にアイエが来ている?】
【吸血鬼さん&アイエのコラボ来たーーーーー!】
【えーと、どういうこと?】
「えー、こほん……」
アリシアが咳払いし、そして語り出す。
「前回の配信の後、クガからお金とは大切なものであることを教わった」
【そうだね】
【偉いぞ、吸血鬼さん】
【うむ、その通り。それでそれで……?】
「その大切なお金を……クガは実は500万円も持っていることが……」
「ちょっ、アリシア!」
「ぬ……? 何だ?」
「所持金については、あまり他人に公然と公開するものじゃないんだ」
「そ、そうなのか……!?」
アリシアは眉を八の字にして焦っている。
【クガ、結構、金持ってるじゃないか】
【儲かってるのか?】
【意外と堅実そうだしな】
「えー、こほん……」
今度はクガが咳払いする。
「これはまぁ、あれです。ダンジョン配信という極めて不安定なことをしているが故にですね……これまでコツコツと……」
【節約してるのかな】
【まぁ、そりゃそうか】
【まじめな話、いつ廃業するかわからない仕事だしな】
「そ、そういうことです」
リスナーは案外、すぐにわかってくれる。
「ただ、正直に打ち明けますと、このお金のうち、200万くらいは最近になって、得られた金額になります」
ここ最近のアリシアとの配信で得られた金銭は、クマゼミ時代の七年間にコツコツ貯めていた金額に迫りつつあった。
「なので、実質的には100万円くらいはアリシアのお金だと思っています」
「ふふふ……ひゃくまんえんだ」
アリシアは埋蔵金を掘り当てたかのようなドヤ顔をしている。
「それで、ここからが本題なのですが……」
クガが話を切り出そうとすると、アリシアが割り込んで高らかに宣言する。
「我々は〝我々の配信〟で、残りの1000万円を稼ぐことに決めた!」
【おぉおおおお!!】
【いいねー! 楽しみ!】
【クガの500万使われる前提になってて草】
【ん? じゃあ、アイエは……?】
というリスナーの素朴な疑問に、クガが反応する。
「あ、アイエさんなのですが、その積極的な活動をするに当たって、城の警護が必要でして……」
「そうだ! アイエもんには私が留守の間、私の城を預かってもらうことにした」
【うぉおおおおお!!】
【アイエ、ボス化してて草】
【ダンジョン籠りからボス城籠りへ】
【アイエもん?】
アリシアはなぜかアイエのことをアイエもんと呼んでいた。
「アイエもん、頼むぞ!」
「お、おい……! アリシア……!」
偉そうにアイエの背中をぱんと叩くアリシアをクガが窘める。しかし……。
「あ、はい! 吸血鬼さんに頼られて光栄でっす!」
アイエはこのような状態である。
「うむ、コボルト達にも私が留守の間はアイエもんの指示に従うように伝えてあるからな」
「あ、ど、どうもです……お、お気遣いなく……という感じではあるのですが……」
「えーと、アイエさん、謝礼については……」
「あ、あ、それは何度も言ってますが、だ、大丈夫です。こちらも防衛の様子を配信しますので」
「何から何まですみません……」
クガはアイエに頭を下げる。
「いえいえ……」
アイエは首を横に振る。
「ということで……す、す、すみません、来た奴、皆、ぶち殺すと思いますので、よ、よろしくお願いします」
【きょどりながら、めっちゃ物騒なこと言ってるやん】
【この人はマジでやりそうだからな】
【こっちはこっちで期待してしまう】
こうして、しばらくの間、アリシアの城はアイエが防衛することになったのであった。




