53.ターゲット
【これが守護ゴーレム!?】
【えっ? これがウォール】
【ってきり、ぬり壁みたいな、むきむきのおっさんが出てくるかと思ったら……】
【かわよ】
【高騰してたのも頷ける】
リスナーたちが驚いたように、現れた守護ゴーレム〝ウォール〟は身長140センチくらいで、土色の衣装を纏った妖精のような出で立ちの可愛らしい女の子の姿をしていた。
「ほほーん、君がウォールか。なかなか、可愛らしいではないか。で、君は一体、何ができるのだ? 私に見せてくれないか?」
「きゅうん」
アリシアが尋ねると、ウォールは可愛らしい鳴き声で返事をして、地表に向けて、両手をかざす。
そして、ゆっくりとその両手を万歳するように、上方に掲げる。
その動きに呼応するように、地面から石の壁がせり出してくる。
「おおー!」
【おぉー!】【おぉー!】【おぉー!】
アリシアとリスナーがシンクロするように、小さく感嘆する。
ウォールはその名の通り、一瞬にして、城に障壁を築いてみせたのだ。
「それにしても守護ゴーレムくじというのはなかなか興味深いな。レブロよ、教えてくれてありがとう!」
アリシアは目を輝かせて、レブロに感謝を告げる。
「お……あ、えーと……はい……」
アリシアのお礼と、すぐに名前を記憶してくれていたことが意外だったのか、人狼兄は虚を突かれたように返事をする。
「ふふふ……守護ゴーレムを集めまくって、城を強化しまくれば、私の最強の城が……」
アリシアは何やらニヤつきながら、ぶつぶつと呟いている。
【その笑顔守りたい】
【これは泥沼にはまる奴や】
【お財布逃げてーーー!】
「…………ちゃんと予算を決めてやろうな」
クガはそのようにアリシアを諌めるのであった。
◇
アリシアが守護ゴーレムくじをしてからしばらく経ったころ。
ダンジョン上層43階湖畔エリアの城、ボスの間にて、アリシアがぽつりと呟く。
「そろそろかなぁ……」
「ん……?」
唐突なアリシアの「そろそろかなぁ……」にソファでくつろいでいたクガが反応する。
「そろそろって何が?」
「なにって、クガ、忘れてはいないだろうな?」
「……?」
「その顔は忘れているな! 我々の目的を……!」
そう言うと、アリシアは少々、不満そうにしながら、殴り書きのメモを取り出す。
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【SS級ボスになるには】
【済】侵略者を三〇人狩る
【済】A級パーティを狩る
【済】S級パーティを狩る
【済】眷属を従える(S級ボス)
【済】ボスの城を構える
・SS級ボスの枠を空ける
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「あ、あぁ……これか……」
それはアリシアが目的としている〝ラスボスになる〟ための前段として、まずは目指しているSS級ボスになるための条件であった。
アリシアとクガはこれまで六つの条件のうち、五つを達成している(若干、達成条件を満たしているのか怪しいものもあるのだが、それは置いておく)。
そして、最後の一つである〝SS級ボスの枠を空ける〟だけが未達として残っていたのである。
……
「というわけで、我々はこれからSS級ボスを狩ることに決めた!」
アリシアは思い立つとすぐに行動に移すタイプの吸血鬼であり、配信を開始し、リスナーに向かって高らかに宣言するのであった。
【おぉー】
【ついにやるんですね、吸血鬼さん】
【SS級ボスは流石の吸血鬼さんでも一苦労するだろうなー】
【いやいや、吸血鬼さんなら楽勝でしょ】
リスナー達はそれぞれの反応を示す。
【ところでどのSS級ボスに挑むのでしょう?】
「む……?」
リスナーからの一つの質問に、アリシアは気を留める。
【知ってるかもしれないけど、SS級ボスは①天狗、②ケルベロス、③ドラゴン、④悪魔、⑤リヴァイアサン、⑥ベヒーモスの六体】
【そのうち、ベヒーモスは伝説のパーティ〝サムライ〟に撃破されたから現在、空席】
【残る五体の中のどれかを倒す必要があるよね】
「ふむふむ……」
アリシアはリスナーのコメントに耳を傾けている。
「まとめるとこんな感じだな……」
クガは自分のメモをアリシアに見せる。
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【SS級ボスリスト】
・天狗 ・ケルベロス ・ドラゴン
・悪魔 ・リヴァイアサン ・ベヒーモス ← パーティ〝サムライ〟に撃破された
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「お、クガ、ありがとう……」
アリシアはクガのメモをしげしげと眺める。
「ところで時々、耳にするが、この〝サムライ〟とはどういった奴らなのだ?」
【おっ、吸血鬼さんがサムライに興味を持つとは……】
【いいでしょう。伝説にして唯一のSS級パーティ〝サムライ〟について語らせていただきましょう】
その後、語りたがりのリスナーによりサムライ伝説がもたらされる。
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【サムライの伝説要約版】
・最初のS級ボス〝邪鬼〟を討伐
・その後、上層49層にて、SS級ボス〝ベヒーモス〟を討伐
・50層に向かってから配信がぷつりと途絶え、以降、消息不明
etc.
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「ふーん……」
アリシアはそこまで詳しく知りたかったわけじゃなかったのか、途中から若干、塩対応になる。
【それで、話を戻すと、吸血鬼さんはSS級ボスのうち、誰をターゲットにするのかな?】
「まぁ、ぶっちゃけ誰が相手でも構わないのだが、敢えて言うならドラゴンかな」
【おぉおお、ドラゴンかーー!】
【ざわ……ざわ……】
【ちなみに何ででしょう?】
「ケルベロスも捨てがたいのだが、まぁ、なんとなく、この中で一番強そうだから」
【なんと!】
【いや、確かにそうかもだけど】
【なぜ敢えて強そうなところに……】
「何を言っているのだ? 私が目指しているのはSS級ボスの先のラスボスだ! ならば、まずは一番、強そうな奴と戦いたいのは当たり前であろう。まずはドラゴン! ケルベロスはその後で可愛げのある奴なら眷属にしてやろうと思う!」
アリシアは機嫌良さそうに宣言する。




