50.くじ
「魔物の街? こんなところに守護ゴーレムとやらがあるのか?」
人狼兄に連れられ、クガとアリシアは魔物の街のメインストリートに来ていた。
「へい、そうです。吸血鬼の姉さんは御存じないのですね」
【守護ゴーレム? なんだそれ?】
【ゴーレムというと堅い岩人間みたいな奴か?】
【興味深い】
アリシアが「面白そうだから!」ということで、配信を開始していた。リスナーの皆さんも守護ゴーレムに興味津々のご様子だ。
「守護ゴーレムについては聞いたことがないな……ところで、人狼兄! ミノちゃんへのストーキング行為はしてないんだろうな?」
アリシアは眉を吊り上げる。
ミノちゃんとはS級ボスのミノタウロスであり、アリシアの親友である。人狼兄はそのミノタウロスに対して、一方的な恋心を抱いているのである。
「ストーキング行為? そんなことしてるわけないじゃないか」
人狼兄は両手を顔の前でぶんぶんするジェスチャーで完全否定する。
「む? グレイが人間に盲目的に溺愛する姿を見て、自分の身も改めたのか?」
「自分の身を改める……? 元々、僕はストーカー行為なんてことはしてないですからね」
「「……」」
クガとアリシアはじとっと人狼兄を見つめる。
「僕はただミノタウロスに危害を加える者がいないか監視しているだけであって」
人狼兄は妙に自信まんまんな態度で、そう宣言する。
【あちゃー、これは重症ですわ】
【ストーカーの思考回路ってこうなってるんだなぁ……】
【こわっ】
【ミノちゃん、逃げてーーー!】
リスナーの反応と同様に、これはまだ続いているな……と思うクガであった。
「あ、着いた着いた」
そうこうしているうちに、目的地に着いたのか、人狼兄が足を止める。
そこは一見、何の変哲もない道端であったが、大きな箱のようなものが設置されていた。
「ん……? これはなんだ……?」
早速、アリシアが大きな箱のようなものに関心を示す。
箱の前方には、回転式の取っ手のようなものが付いている。
「これが"守護ゴーレムくじ"です」
「……ほう。なんだそれ?」
「守護ゴーレムくじってのは守護ゴーレムのくじのことです」
「お、おう……」
「まぁ、試しに僕が一回やってみます」
人狼兄は5000円札を取り出し、箱に挿入する。
そして、取っ手をくるくると回す。
すると、ガコンという音と共に石盤のような物が出てくる。
「なんだなんだ?」
アリシアは興味津々だ。
「シールドのレベル6……うーん、ハズレですね」
そう言いながらも、人狼兄は石盤をクガとアリシアに見せ、更に何かを宣言する。
【こ、これは……】
【ガチャですね】
【どう見てもガチャです】
「ガチャ……? なんだそれは? お前達は知っているのか?」
アリシアはリスナーが一斉に口にした〝ガチャ〟という概念は知らないようで、不思議そうにしている。
「姉さん、続けてもいいですか?」
「あ、おう……」
「それでは……ゴーレム召喚! っと……」
人狼兄が「ゴーレム召喚」と宣言すると、石盤から盾を持つ泥人形のようなものが出現した。
「おぉーー!」
【おぉーー!】【おぉーー!】【おぉーー!】
アリシアとリスナーの反応が一致する。
「このように、石盤から守護ゴーレムを召喚することができるというわけです」
「なんと!?」
アリシアは口をぽっかりと空けている。
「姉さん、この守護ゴーレム、城の守護に役立つんじゃないですか?」
「なるほど……! 確かにそうかもしれぬ」
「まぁ、今回のはハズレだったから、戻します……」
「戻す……?」
「えぇ、戻す……です」
そう言うと、人狼兄はゴーレムを石盤に戻し、さらに箱の上部に石盤を戻す。
すると、石板が箱に吸収され、逆に箱からは2000円が排出される。
「ハズレを元に戻すとお金が戻ってくる仕組みです。親切でしょ?」
【キャッシュバック方式w】
【なんという親切設計】
【い、いや……これって結構、エグいのでは……?】
一部のリスナーの懸念と同様にクガも思う。
確かに一見、親切そうに見えるかもしれないが、これ、実質、3000円が無になったのでは……? と。
しかし……
「やってみたい!」
そう目を輝かせるのはアリシアである。
「お……姉さん、いける口ですね」
人狼兄は歓迎する構えだ。だが、クガは少し心配する。
「……だ、大丈夫か?」
「ん……? なにか心配なのか? これで城の警備を強化できるのだぞ?」
「そうかもしれないが……こういうのは、のめり込むと……」
「まぁまぁ、心配するな。一回だけ試してみるだけだ」
【吸血鬼さん、大丈夫かー?】
【一回だけ一回だけ】
【フラグ】
アリシアはリスナーの心配する意味をあまり理解できていない様子で、彼女の日給である5000円を箱に投入する。




