49.守護ゴーレム
アドベンジャーによる吸血鬼の城への攻城の翌日、ダンジョン上層43階――
「うーむ……」
城のエントランスにて、吸血鬼のアリシアは腕を組み、悩んでいた。
「アリシア、どうかしたか?」
吸血鬼の〝何者か〟であり、同時に人間への背信者でもある堕勇者のクガが尋ねる。
「あ、うん、何か、城の警護を強化する方法はないだろうか……と思ってなー」
「……そうだな……昨日のような輩がたびたび来るのも面倒だしな」
クガはここ最近、結構な頻度で現れる挑戦者に少々、うんざりしていた。
たいていはチャンネルの人気が全く振るわないパーティが一か八かの話題作りのために、挑戦してくるものであった。このケースはあまりにも実力不相応なパーティが無謀にも挑んでくることが大半だ。
もう一つのケースは昨日のアドベンジャーのような〝私人逮捕系〟と呼ばれるダンジョンの治安維持をチャンネルのコンセプトにしたパーティである。
治安維持をコンセプトとしたパーティはダンジョン内において、彼らなりの解釈において、正義と悪を制定し、そして悪を裁くことでリスナーの注目を集めている。
彼らの多くは悪と制定した者に対しては、その言い分を聞き入れることもなく、一方的に責め立てるようなやり方を行使する。
ゆえに、標的にされた方からすると、迷惑な話である。
……とはいえ、魔物に加担している自分は、悪とされても仕方がないか……と、クガも自身が「正義である」と主張するつもりもなかった。
しかし、無謀にも挑んでくるような輩は大抵、面倒な立ち回りをしてくるのも事実であった。
だが、アリシアの考えはクガとは少し違ったようだ。
「面倒? クガ、君は何を言っているのだ?」
「……ん?」
「私はむしろ攻城ウェルカムだ! どんどん来いと思っている!」
「……だろうな」
アリシアは攻城されるとき、いつも目を輝かせている。
そう言えば、出会った時も退屈だったと言っていたな……とクガはふと、隠しボス部屋に放り込まれたという〝訳あり〟の自身とアリシアとの出会いを思い出す。
挑戦されること。それが魔物にとっての本能的な生きがいなのかもしれないなぁ……などとクガはぼんやりと考える。
「であれば、アリシアはなぜ城の警護を強化したいんだ?」
「そんなの決まり切っているだろう?」
「……?」
「私の最強の城を作るためだ!」
「お、おう……」
アリシアはやはり目を輝かせている。こういう場合、大抵は一苦労することになるのだが、なぜだかクガはそれが嫌ではなかった。
クガがそんなことを考えていると、横から第三者が声をかけてくる。
「だったら守護ゴーレムでも置いたらどうですか?」
「「ん……?」」
クガとアリシアの二人に声を掛けてきたのは、城の警護に当たっていた人狼兄であった。
「……人狼兄か」
アリシアは話しかけてきた巨大な狼男にやや訝しげな目を向ける。
人狼兄……狼男軍団の中でもひときわ大きく、軍団のサブリーダー的な存在である。なぜ人狼〝兄〟と呼ばれているかというと、それはS級ボスの人狼娘であるグレイのお兄ちゃんであるからだ。
S級ボス人狼のグレイは、色々あってクガの眷属となり、そのグレイの眷属である狼男軍団達も〝実質〟アリシアの眷属ということになっている。(グレイは自分がアリシアの眷属だとはさらさら思っていないが、狼男軍団達はほぼほぼ眷属であると認知している模様)
そんな狼男軍団達は最近はわりとアリシアの城に入り浸っていたのだが……、
「ところで、人狼兄……妹の人狼は最近、見かけぬがどうしたのだ?」
アリシアが尋ねる。
「へい、それなのですが……グレイは家出中でして……」
「はぁ!? 家出?」
「はい……理由はわからないのですが……それで、自分がいない間はクガ様の警護を任せたということで……」
「ほーん、それで最近、狼男軍団達もこの城に入り浸っていたのか」
「えぇ、そういうことです」
「……」
クガは二人の会話を黙って聞いていた。実はクガはグレイから家出の理由を聞いていたのだが、他言無用とのことであった。
「ふむ。まぁ、貴様らもクガの配下というわけだから、別に城にいることは構わん。それで、人狼兄、先程言っていた守護ゴーレムとはなんなのだ?」
「お? ご興味がおありですか? それでは、ちょっとついてきてください」
「うむ」
そうして、アリシアとクガは人狼兄についていくことになった。




