44.宴
アリシアの城、築城現場――
クガ撮影ドローン――
「宴じゃあ!」
築城現場が燃え盛る。
もちろん城が燃えているわけではない。キャンプファイヤーだ。
炎を中心に、柴犬コボルト、狼男達が不揃いに自由気ままに踊る。
二つのゲスト席には、S級ソロパーティあいうえ王のアイエ、そして一視聴者の青年が座っていた。
「ど、ど、ど、どうしよう……僕、こんなところに座ってていいのかな……」
そのように挙動不審気味に、隣の青年に話しかけているのはあいうえ王のアイエである。
「きっと大丈夫ですよ。多分……」
【アイエ、戦闘時以外、きょどりすぎ笑】
【アイエが一般視聴者に励まされてて草】
「う、うん……ありがとう……」
そう言うと、アイエは緊張から口の中が乾ききってしまったのか、グラスにつがれた飲料をいっきに飲み干す。
すると横に待機していたワワンオがすぐに次の飲料を注ぐ。
「あ、ごめんなさい、お構いなく……」
「ワワン!」
「ひゃぁあ!」
「ワワンワ……」
◇
ずーん……
賑わうキャンプファイヤーの中にあって、そんな擬音が聞こえてきそうな一角があった。
「……あ、貴方は悪くないって」
可愛らしい声で、隣りで体育座りする人狼少女を励ますのは、ミノタウロスであった。
「…………あまりにも役立たず……何が、フェンリルだ、この役立たず……いや、役立たず以下のゴミだ……いや、足りない。クズかな……いや、言葉では言い表すことができないほどの無能……」
人狼少女はぶつぶつと自分を罵倒していた。
「ま、まぁまぁ……」
ミノタウロスは自分自身も結構、落ち込んでいたので、その言葉がぐさぐさと刺さる。
そんなミノタウロスは呟くように言う。
「……わたしたち、魔物ってさ、今以上に強くなれるのかな」
「……え?」
ミノタウロスの発言にグレイは虚を突かれたように声を上げる。
そんなこと、考えたこともなかった。
「今回ちょっと思ったんだ……吸血鬼ちゃんってあんなに強かったんだ……って……」
「……」
「私が一方的にやられてた相手を、一方的に倒しちゃったんだよ」
ミノタウロスは幾分、悔しさを滲ませるように言う。
「それでちょっと思ったんだよ……いくら吸血鬼ちゃんが隠しボスとはいえ、S級の私たちと生まれた時からそんなに差があったのかなって」
「……」
先ほどまで呪文のように自虐を唱えていたグレイは黙ってミノタウロスの話を聞き入る。
そして、突如……
「ありがとう、ミノちゃん……!」
「え……?」
そう言い残したグレイは姿を消していた。
「…………あ、えーと……この場で、一人残されるのはちょっと…………私、大きいからいなくなったら目立つしなぁ……」
ミノタウロスは社会性が高いので、グレイがいたことでギリギリ保たれていたその場に居ていい感が失われ、アウェイ感をことさら強く感じてしまうのであった。
◇
クマゼミドローン――
「あびゃぁああ゛ああ゛……大体ですね、なんでいきなりS級ボスなんかと戦わされるんですか!」
「そうらそうら! 実質、S級なんだから、せめて私たちもS級パーティに昇格させろってんだよ!」
「ミカリさんもそう思いますよね! 本当、ひどい男ですよ……! クガさんは……!」
「そうらそうら!」
「ちょ、ミカリ、クシナ……! 配信中だよ……!」
ユリアが彼女のパーティの酔っ払い二人をなだめようとする。
「なんだ、ユリア……! いい子ぶりやがって……! お前もクガに文句があるんだろぉお!」
「え……? そ、それは……」
【クシナちゃんとミカリ酒癖わるっ】
【ゴリア様が慌てる姿も貴重だな】
その傍らに男二人が座っていた……
セラは酒を飲んでいたが、クガは酒を飲まない。
「……相変わらずだな、ミカリは……」
「あぁ……それにクシナも足されて、厄介度が倍増した」
「はは……」
「はは……じゃねえよ、クガ……、もう関係ないと思いやがって」
「……すまん」
「だが、まぁ、これで最初のアラクネの件で助けてもらった借りはなしってことでいいか?」
「あ……」
クガは貸しているつもりはなかったが、セラからすればそういうことらしい。
「……おう」
「……了解。で、クガ、お前はそろそろ行ってやらなくていいのか?」
「ん……あぁ……そうだな……席を外す」
「あぁ……」
そうして、クガは立ち上がり、セラから離れる。
◇
「……」
クガの足が向かった先は、彼の何者かであった。
アリシアは炎に向かって、跪き、合掌しながら目を瞑っていた。
クガは邪魔をしないように、そっと横に腰かける。
と……
「……私は慢心していた」
「……?」
アリシアはそんな風に呟く。
「私のせいで眷属が六も死んだ」
「……そうだな……俺も同じだ……」
「……いや、君はイビルスレイヤーについて準備しなくていいのかと警告していた。それを蔑ろにしたのは私だ」
「……それは俺も……」
遮るようにアリシアは続ける。
「クガ……もしも私が道を違えていたら、君に叱って欲しい」
「…………そうだな。それは君の何者かである俺にしかできないことだな」
「あぁ……!」
そう言いながら、アリシアは目を細めて、微笑む。
「……!」
クガはその一瞬が切り取られたように錯覚する。
「さーて、いつまでもうじうじしていても仕方がない……! ミノちゃぁああああん!」
アリシアは少々、居心地悪そうにしていたミノタウロスの元へ走っていく。




