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追放された器用貧乏、隠しボスと配信始めたら徐々に万能とバレ始める~闇堕ち勇者の背信配信~(WEB版)  作者: 広路なゆる


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41.邪鬼

 少し時間を遡る。闘牛の館にアリシアが到着する以前――

 ダンジョン下層45層 人狼の館の前―― ヘビオ撮影ドローン――

 

 大きな狼男と巨大な蜥蜴(とかげ)が激しく交戦していた。


「へぇ~、君、S級でもないのに結構やるね」


 その戦いを観ていた対ハチ捕獲用のような防護服に身を包んだ男……イビルスレイヤーのヘビオが呟く。


「舐めんなよ……これでもS級の兄やってんだ……!」


 人狼兄は巨大な爪を自身よりも一回り大きいサラマンダーに振りかざす。


「ぐぎゃぁあ!」


 サラマンダーは咆哮する。と……。


「ん~、少し出力を上げようかな」


 ヘビオはそのように呟く。すると、サラマンダーにどす黒いエフェクトが発生する。


「……? なんだ……?」


「グガァアアアアア!!」


 次の瞬間、サラマンダーは暴れるように全身をくねらせながら、人狼兄に突進してくる。


「っ……! ぐあっ!」


 人狼兄はまるで轢かれるように弾き飛ばされる。


【いいぞー、サラマンダー】

【やっちまえ、ヘビオぉおおお!】


 人狼兄には聞こえてはいないが、ヘビオへのコメントは俄然、盛り上がる。

 なおも、サラマンダーが人狼兄に追い打ちをかけ突進し、人狼兄は吹き飛ばされる。

 そのまま人狼の館の外壁にぶつかり、膝をつく。


「ねぇ、妹は出てこないの?」


 ヘビオは無邪気な様子で人狼兄に尋ねる。


「君にはあんまり興味ないんだよな……でも妹の方は結構、好みだからさ、僕のペットにしたいんだよね」


「っ……! ペットだと? てめえみたいな奴に妹をやるかぁああ!!」


 人狼兄は立ち上がり、強い気迫を伴い、サラマンダーに突進していく。そして、爪による攻撃を繰り返し行う。サラマンダーの表皮に裂傷が増えていく。


「おぉー、兄妹の愛情パワーってところかな?」


 ヘビオはなにやら少し興奮するようにそんなことを言う。


「だけどね……」


 強い衝撃音が響く。


「ぐはっ……!」


 サラマンダーによる右ストレートが人狼兄の顔面に直撃した音であった。

 人狼兄は10メートル余り吹き飛ばされ、意識を失う。


「やっぱり魔物のランクってのは残酷だよね……そう簡単に覆せるものじゃない」


 ヘビオは倒れる人狼を見下ろしながら、そんなことを言う。


「サラマンダー、燃やしていいよ」


 ヘビオがそう言うと、サラマンダーは深く息を吸う。

 そして、その巨大な口から倒れる人狼兄に向けて、燃え盛る炎を放つ。

 が、しかし、その炎は人狼兄に届くことはなかった。


「……そうそう……最初から出てくればよかったんだよ」


 ヘビオは呟くように言う。

 その視線の先には、倒れた人狼の前に立ち塞がる白銀の髪の少女がいた。


「全くそのとおりだよ……無茶なお兄ちゃんだな……」


 グレイは背中を向けて、倒れる兄の頬を一撫でする。


「だけどね……彼は誇りを守った。従者には主を守護する役目がある」


「誇り……? 何それ? ちょっと阿呆っぽいよ。合理的に考えた方がいいんじゃない?」


 ヘビオは鼻で笑うような口調で言う。


「……貴様には関係のない話だ」


 そう言って、グレイは前に向き直る。


「そう言えば、さっき言っていたな? 魔物のランクってのは残酷で、そう簡単に覆せるものじゃない……と」


「うん、そうだけどそれが何か?」


「いや、感心しただけだよ。よくわかってるじゃないか」


「……?」


「教えてやろう……S級の中にも格が存在する」


 グレイはそう呟くと、その姿を変貌させていく。

 サラマンダーよりも更に巨大な白銀の狼が出現する。

 次の瞬間であった。


「ぐぎゃぁ?」


 サラマンダーは呑気な鳴き声をあげる。自身の身体の四割ほどが(かじ)り取られ、なくなっていることに気づくのは一時(いっとき)、遅れてのことであった。


「ぐぎゃぁああああぁ……ぁ……ぁ……」


 気づいた時には、切断面から血液が噴き出しており、次第に全身から力が抜けていく。

 そして、音を立てて、崩れ落ちるようにその巨体を横たえる。


【ぎゃぁああああああ、サラマンダーがぁああああああ】

【同じS級でも、こんなに差があるんか】


 その一瞬の出来事にヘビオは言葉を発することもなく立っている。


「……そやつが生身の身体ならば、こうはならなかったかもな?」


 グレイはそんなことを呟く。


「……そんな謙遜する必要はないさ、僕の〝死霊〟は生前と遜色ない。君が強かっただけ。ますます気に入ったよ」


「……」


 ヘビオの淡々とした返答に対し、グレイは少々、違和感を覚える。


「……随分と余裕なのだな? サラマンダーを失った貴様は、もう私に食いちぎられる未来が目前なわけだが?」


「……さっきさ、君、言ったよね?」


「……?」


「S級の中にも格が存在する……って……いやいや、感心しただけだよ。よくわかってるじゃないか」


「……!?」


 ヘビオは先程、グレイが言った発言をオウム返しして言う。

 と、同時に地面から一体の魔物が生えてくるように出現する。


「…………こ、こいつは」


 大きさはサラマンダーより一回り小さく、体長は二メートル程。

 筋骨隆々な姿に、どす黒いオーラを纏い、怒れる形相の人間のような顔に、たくましい角が四本生えている。


【え? 邪鬼……?】

【邪鬼じゃん】


 コメントが反応するように、それは、唯一のSS級パーティ〝サムライ〟がかつて打ち破った伝説の初代S級魔物〝邪鬼〟であった。討伐から数年の月日が経過したが、ボス強さ考察でも未だにS級ボス最上位とされていた。


【なんで邪鬼が……!?】


【サムライが倒したはずじゃ……】


 そんなリスナーの疑問にヘビオは淡々と答える。


「死体漁りしただけだけど」


 死霊魔術師(ネクロマンサー)……それがこの防護服を着た男……ヘビオのジョブである。

 死んだ魔物を操ることができるジョブだ。

 つまるところ、イビルスレイヤーが倒したはずの魔物……アラクネ、オーガ、サラマンダーを手駒にすることができているのは、このヘビオによるものである。

 イビルスレイヤーにおいて、その挑発的な言動から魔術師のウラカワが目立っているが、実はヘビオこそがイビルスレイヤーの主戦力(エース)であった。


死霊魔術師(ネクロマンサー)の能力を使えば消滅後の魔物も操れるからね」


 ヘビオはいくらか上機嫌に語る。その間にも……。


「ウゴゥオオ゙オオオ゙!!」


 溢れる力を抑えきれない様子の邪鬼が激しく咆哮する。


「さてさて、人狼ちゃん、どっちのS級が格上なのか、僕、興味があるよ」

「っ……!」


 次の瞬間、邪鬼が立っていた場所から消えていた。


「ぐぁっ……!!」


 グレイの巨体が一瞬で吹き飛ばされる。

 邪鬼に殴り飛ばされたのである。

 グレイはすぐにその身を起こし、邪鬼の左腕に噛みつく。しかし……。


「っ……かは……!」


 邪鬼はその噛みつかれた腕ごとグレイを地面に叩きつける。

 たったの一撃で地面に押しつけられたグレイは力を失ったのか少女の姿に戻ってしまう。

 邪鬼は冷たい瞳でグレイを見下ろしとどめを刺そうとする。その時だった。


「うぉおおお゙おおおお゙おおお!!」


「……ん?」


 居てもたってもいられなくなったのか館から狼男達が飛び出してくる。


「……お、お前ら……やめ……」


「はは……いいじゃん。こいつらもイナゴブリンみたいな使い方はできるかな」


 ヘビオはいくらか嬉しそうである。


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