40.グロ注意
クマゼミが快挙を成し遂げたころ――
ダンジョン上層46層 闘牛の館―― ムシハラ撮影ドローン――
「っかは……!」
オーガとイビルスレイヤーによって、身体中に裂傷を刻まれたミノタウロスが片膝をつく。
「そろそろ仕上げといこうかね、ムシハラぁ」
「そうですねカメオカさん、あまりゆっくりしていると、吸血鬼が来てしまうかもしれないので」
「そうだな」
その吸血鬼のドローンはある時を境に配信が止まっていた。
「だけどまぁ、闘牛の館への道のりは無駄に迷路になってるからな」
「そうですね、いきなり逆方向に行ってた吸血鬼が辿り着くのはいつになることやら……」
「もう着いたぞ」
「「っっっ!?」」
ムシハラ、カメオカの後方からややあどけなさの残る透明感のある声が聞こえ、二人は激しく肩を揺らす。
「吸血鬼ちゃん……」
ミノタウロスもその声に気づき、もたげていた頭を前に向ける。
「ミノちゃん、すまない、遅くなった……」
「……そんなこと……ごめんね……迷惑かけて……」
ミノタウロスの声には少し涙が交じっていた。
「ど、ど、ど、どうして? 吸血鬼がここに!?」
「この短時間で、あの入り組んだ迷路を突破してきたというのですか!?」
「そうだが?」
「「……っっ……」」
ムシハラとカメオカは信じられないというように絶句する。
しかし、実のところ、アリシアがこんなにも早く闘牛の館に辿り着けたのには理由があった。
◇
少々前の出来事――
アリシアが築城現場から闘牛の館のあるダンジョン上層46層、ワープの間へ来てからしばらくしたころ―― アリシア撮影ドローン――
ダメだ……わからない……。
アリシアは焦っていた。
上層46層は、迷路のように入り組んだ道となっている。道が分からなければ闘牛の館に辿り着くまでかなりの時間がかかってしまう。
……どうすれば……どうすればいい?
「っ……!」
その時、アリシアは一つの方法を閃く。
この方法なら、もしかしたら迅速に、たどり着けるかもしれない。
しかし、アリシアは躊躇する。
だけど、それはそれほど、長い時間ではなかった。
「皆、すまないが、配信を限定公開にする方法を教えてくれ……!」
【……】
【……? 皆って俺らのことか?】
「そうだ! クガから熱心なファンだけに限定公開することができると聞いたことがあるのだ。そこなら嘘の情報が書き込まれることは少ないと聞いたんだ!」
【……!】
【メン限のことかな?】
【ドローンに指示すればできると思うよー】
「……ありがとう」
アリシアはリスナーの指導により、メンバー限定公開にすることに成功する。
これで、この配信を観ているのはアリシア達の熱心なファンだけとなったことになる。
「皆、頼みがある……」
いつも愉快でちょっと狂気な人間のリスナー達……。
しかし、不安もあった。
果たして、魔物である自分が人間を殺しに行くことを助けてくれるのだろうか? ……それでも……。
「闘牛の館の場所を教えてくれはしないだろうか……」
【……!】【……!】【……!】
アリシアの頼みにリスナー達は一瞬、沈黙する。だが……。
【すまん、俺、知らない。誰か分かる奴おるか?】
【ごめん、俺もわからない……】
【俺、わかる!】
【うぉおおお、ナイス! さぁ、早く伝えるんだ!】
【任せろ!】
「……ありがとう」
この日、初めて、アリシアはクガ以外の人間に頼った。
◇
そして、現在――ダンジョン上層46層 闘牛の館―― アリシア撮影ドローン――
「ま、まぁ……ちょっと想定外ではあったが、想定内だ」
「そうですね、ミノタウロスはすでに虫の息、いまさら吸血鬼が一匹増えたところで……」
カメオカとムシハラがそのように状況を整理しかけた。
「ウゴゥウウ」
「「っっ……!?」」
しかし、すぐにその認識が間違いであったと気づく。
元S級モンスター、オーガ。頑強であるはずのその身体に穴が空いていた。
アリシアの方を見ると、背中から四本の巨大な紅い触手が生えていた。
オーガの身体から触手を勢いよく引っこ抜き、アリシアはその視線をムシハラ、カメオカに向ける。
「い、いやー、凄い魔物ですねー、今までの配信で見せていた姿は全然、本気じゃなかったってことですねー」
「む、ムシハラ、呑気に実況してる場合じゃ……!」
「いや、もうこれ逆に実況するくらいしかやることないですよ」
「……! う、うわぁあああああああ!! ぎゃぁあああああ!!」
「今まさに……! 私の身体を触手が貫いており…………ぐふっ……ぶべっ……」
【リアルタイム修正システム発動中】
【グロ注意……グロ注意……】




