38.弱小パーティ
ダンジョン地下37層 洞窟―― クマゼミ撮影ドローン――
「どこかで見覚えがあると思えばあの時の……弱小パーティじゃないの」
クマゼミの前に現れたのは、上半身が人間の女のような姿、下半身が蜘蛛のような姿の元S級魔物アラクネだった。
「お前はイビルスレイヤーに討伐されたんじゃなかったのか?」
クマゼミの剣聖セラはアラクネに尋ねる。
「そう……だから……コノヨウナ……クツジ……」
「……?」
「あら、ちょっと馴染んでいないところがあったようね……言い直すわ。だから、このように、復活を遂げて、イビルスレイヤー様に服従を誓ったってわけ」
アラクネは、一瞬、かくかくした喋り方を見せるが、その後は滑らかな口調で語り出す。
【どういう原理か知らんが、イビスレは討伐した魔物を配下にできるみたいなんだよな】
【やばすぎる】
痛々しい傷痕があるものの、言動や思考については以前のアラクネと大きく違いはないようだ。そのアラクネは嬉々として語り出す。
「ちょうどよかったわ。貴方達のことを逃して、消化不良だったのよ。少し前回とメンバーが違うような気もするけど……」
「あぁ、〝少し〟違う」
セラは静かに返答する。
「あ……でもあいつは来ないわよね……?」
饒舌であったアラクネはその瞬間は、少々、引き攣ったような表情を浮かべる。
「そうだな……おそらくは来ないんじゃないか?」
セラの回答にアラクネからは安堵の表情が読み取れる。
「え゙!? クガさん、来てくれないんですか!?」
逆に、それを聞いていた再生士のクシナが驚く。
「多分な……あっちはあっちで忙しいだろうし……それに……今のクガの優先度的には俺達は高い方ではないだろう」
【あっちはもっと大変そうだぞー】
【さっき死んだら消滅する魔物を優先するってクガが発言してたぞ】
「え゙!? 本当ですか……!」
クシナの焦りの色が濃くなる。
「クガに来てもらう必要はない」
が、しかし横で聞いていた聖女……ユリアがそのようにぽつりと呟く。
「え……?」
「だって、クシナが入ってくれたじゃない」
戸惑うクシナに、付与術師のミカリが明るく言う。
「っ……!」
その言葉にクシナはハッとしたような表情を浮かべる。
そんなクマゼミのやり取りを見ていたアラクネは明らかな不快感を表していた。
「聞いていて、少々、気分が悪いのだが、要するに自分達だけでなんとかできるってことを言っているのかしら?」
「……そのつもりだ……!」
その返答と同時に、セラは剣を抜き、アラクネに突撃する。
「っ……!」
アラクネは咄嗟に、その剣を左前脚で防ぎ、つばぜり合いとなる。
「前回は手も足も出なかったくせに、随分と粋がるわね……」
セラは応えない。
「だったら、すぐに思い出させてやるわよ……!」
アラクネはセラを貫かんと右前脚を振り上げる。と、その時であった。
「魔法:聖なる騎士」
「なっ……!」
高速で接近してきたユリアが乱暴に杖を振り下ろす。
「ぐあっ……!」
アラクネの右前脚と右中脚は、杖が通過した部分が消滅している。
アラクネは思わず、顔をしかめ、バックステップで距離を取る。
しかし、破損個所はたちまちに修復されていく。
「……再生能力は健在か」
セラも同様に顔をしかめる。やはり一筋縄ではいかないようだ。
しかし今回は、驚きの度合いはアラクネの方が大きいようだ。
「……どういうことだ? 聖女は後衛を漂ってるだけの雑魚だったはず……」
「あー、そうだな、作戦変更だ」
セラは特に表情を変えることなく、そのように返答する。
【うぉおおおおお! ゴリア様来たぁああああああ!】
【ゴリア帰還】
【俺達のゴリア様が帰って来たぞぉおおおお】
「その呼び方はやめろ……」
ユリアは不満気にぼそりと言う。と……。
「魔力強化」
更に、ユリアの身体の周囲を赤紫色の光が上昇するような強化エフェクトが発生する。
ミカリの付与魔法である。
「行くよ……」
ユリアは杖を担ぎ、アラクネに向かっていく。




