32.襲撃
スケルトン狩りから数日後――。
人間の探索者が魔物と普通にコラボ。さらに首から胴体が生えるというセンセーショナルな治癒を見せた再生士クシナの功績もあり、アリシア・クガだけでなく、クマゼミもより注目を浴びていた。
再生士がダンジョンに潜るということ自体が稀であり、それに対する【貴重な再生士はリライブ保険会社にてリライブに専念すべき】というアンチコメントもそれなりについていた。
しかし、再生士であれば、誰もがあのような驚異的な治癒をできるわけではないらしく、クシナの治癒の才能は勿論のこと、それを発掘したクガがなぜか滅茶苦茶、称賛される結果となっていた。
それはそれとして、スケルトン狩りで得た〝骨〟をもらった柴犬コボルト達のパフォーマンスは飛躍的に向上していた。
骨を所望したのは柴犬コボルトであったのだが、「いいっすね……それ……」と羨望の眼差しを向けていた狼男達にも分けてあげると彼らのパフォーマンスも急上昇したのである。
魔物の御恩と奉公は単なる主従関係の強化ではなく、基礎能力上昇の効果があるらしく、これにより、築城は軌道に乗り始めていた。
そんな時分だった。仮住まいにいたアリシアの身体が突然、発光し始める。
「こ、これは……召喚要請だ!」
「コボルト達からの召喚ってことか?」
「あぁ……そうだな」
アリシアは理由を聞くことなく、コボルト側からの初めての逆召喚申請を受理する。
手を摑まれたクガも付帯物として、召喚に同行する。召喚されたのは築城現場であった。
ダンジョン上層43層アリシアの城築城現場――。
「どうした、ワワンオ……!」
「わわわんお!」
ワワンオは前方を指差す。と……。
「「っ……!」」
直径1メートルはある氷塊がこちらに向かって飛んでくる。
「……」
アリシアの紅の刃により、これを切り裂く。
氷塊は数十の小さな塊に分割され地に落ちる。
「わんわお……」
「いや、気にするな」
申し訳なさそうなワワンオにアリシアはそのように言う。
「クガ、ドローンを……」
「お、おう……」
アリシアの指示に従い、クガは配信を開始する。
すると、再び氷塊が飛んでくる。
今度は先ほどよりサイズは小さいが、五つに分かれて飛来する。
が、アリシアは難なく全て迎撃する。
【ん……? なんだなんだ?】
【ここは吸血鬼さんの城の場所だよな?】
【なんか今、氷の塊が飛んできていたような……】
配信開始と同時にやってきた熱心なリスナー達は困惑している。
「現在、敵襲を受けている」
アリシアは淡々とした口調で言う。
【なん……だと?】
【誰だ!? 僕の吸血鬼さんの邪魔をする不届き者は!? この僕が成敗してくれる!】
【↑おいおい、大丈夫か、そんなこと言っちゃって……】
【ウラカワ:俺らだよ】
【!?】【マジか】【言わんこっちゃない】
クガはウラカワという名前に見覚えがあった。
「アリシア……イビルスレイヤーだ」
イビルスレイヤーのメンバーであるウラカワ本人らしき者がコメントしたのである。
「イビルスレイヤー……?」
アリシアはきょとんとする。
「いや、だから、アラクネの件で俺らに宣戦布告してきたS級パーティだよ!」
「……あぁ!」
どうやらアリシアはアラクネと紐づけないとイビルスレイヤーの件を思い出せないようだ。
【ウラカワ:誰が俺達を成敗するって?】
【ぎゃあああ!】
【さっき成敗するとかイキってた奴、逃げろぉおお】
【ウラカワ:まぁ、モブのことはどうでもいい。聞こえるか? 吸血鬼と駄目勇者。これは始まりに過ぎない。魔物の分際で俺たちに喧嘩を売ってきた代償はしっかりと払わせる】
「……喧嘩なんか売ったっけか?」
「彼らの弟分だったモンスタースレイヤーを俺らがやった」
「おぉ、そうなのか」
【ウラカワ:その舐めた態度を改めさせるのが楽しみだ……震えて待て】
そうして、ウラカワのコメントは途切れる。
【まじか……】
【イビルスレイヤーに狙われるなんて……】
【あいつらはガチ】
「……っというか、コメントじゃなくて直接言いに来いよ……」
【確かに……】
【草】
アリシアの素朴な発言に少し和むのであった。
***
そのころ、配信を観ていた一人のリスナーがディスプレイを見ていた。
ディスプレイには、クガのチャンネルへの大量の支援金の履歴、そして自分が先程したコメント履歴が映し出されている。
【誰だ!? 僕の吸血鬼さんの邪魔をする不届き者は!? この僕が成敗してくれる!】
彼は先程、コメント上でイビルスレイヤーのウラカワに挑発的な発言をしてしまったリスナーであった。
普通なら報復を恐れて震えあがっていても不思議ではない。しかし、彼は違った。
「ウラカワくん、【誰が俺たちを成敗するって?】だって? 誰ってそりゃあ、僕だけど……ってあれ、しまったなぁ。裏アカの方になってたか」
クガとアリシアの知らないところで、イビルスレイヤーのウラカワはとんでもないリスナーに恨みを買っていた。




