31.予治癒
「灰色だけ少し強そうだな。私がやろう。クガと聖女女で白と黒は一匹ずつでどうだ?」
〝ツイン・スケルトン+アルファ〟を眼前にアリシアは言う。
「聖女女ってなによ……まぁ、わかったけど……」
ユリアはひとまず納得する。
「アリシア、待ってくれ。俺はクシナにつく……」
未知の敵を相手にクシナを一人にするのは危険とクガは判断する。
「お……? まぁ、そうか……」
アリシアもひとまずは納得したようだ。
「いえ、クガさん! 私は大丈夫です」
しかし、クシナはそれを拒む。
「だって、自分の身は自分で守りますから!」
「……! だが……」
そう言ったのは自分とはいえ、クシナはまだ実戦経験は乏しい。クガは判断に迷う。
「後衛に攻撃が及ばぬ程、圧倒すればいい」
ユリアが口を挟む。
「……ひとまずわかった。ユリア、黒い方を頼む」
「わかった」
そうしてアリシア、ユリア、クガの三名はそれぞれの担当スケルトンと対峙する。
結論として、三名にとってスケルトンは難しい相手ではなかった。
白、黒、灰のスケルトンを短時間で追い詰める。
【つっよ】
【吸血鬼さんはいいとして……】
【クガについてももう驚きはないな……】
【クマゼミの前回の戦いもユリアが前線の方がよかったんじゃね?】
【セラ:……確かに】
【セラ来てんじゃん笑】
【あの陣形もサイオンの謎采配か?】
【ミカリ:いや、あれはセラが格好つけただけ笑】
【セラ:……】
【ミカリンも来てる笑】
「随分と賑やかだな」
アリシアはそんなことを言うが、満更でもなさそうだ。
そんな和やかなムードで、その場にいた全員の気が緩んでいたのかもしれない。
「きゃぁああ!」
「「「っ……!」」」
悲鳴を上げたのはクシナであった。
彼女の目の前にはどこからともなく現れた大型の赤いスケルトンが迫っていた。
そして、手にしたロングソードを今にも振り抜かんとしている。
「クシナ……!」
クガは全速力でクシナの方へ向かう。
クシナが足搔くように杖をかざすのが見える。
クガはレッド・スケルトンを背後から大剣で叩きつけるように粉砕する。
「っ……」
だが……。
【うわぁあああああああ】
【クシナちゃぁああああん】
【嘘だぁああああ】
レッド・スケルトンの凶刃はすでに振り抜かれた後だった。
レッド・スケルトンの前にいたクシナは頭が無くなっていた。
「っ……」
クガもその悲惨な光景に思わず、目を背ける。
「クガ……すまない……私がいながら……」
アリシアも申し訳なさそうにしている。
【クシナちゃん……】
【これからって時に……】
【探索って時に残酷だよな……】
探索に退場はつきものであるが、身内であればやはり悲しいものである。
「クガ……」
「っ……!」
気づくと傍らにユリアがいた。
しかも何かボールくらいの大きさのものを抱えている。そう……クシナの頭部である。
【ぎゃぁあああ、ユリア様、それはちょっと刺激的】
【怖い怖い!】
それはなかなか過激な光景であった。
って、あれ……?
クガは少し不思議に思う。
なんで消滅しないのだろう……。
通常、死亡するとリライブ発動のためにダンジョン外に強制転送されるのだが……。
「っ……!」
クガの頭の中で、嫌な仮説が浮き上がる。
まさか……クシナ……リライブをかけてな……。
「いやー、びっくりしました。ほぼ死にかけましたね」
「ふぁっ!?」
驚きのあまりクガは思わず変な声を出してしまう。
【え? え? どういうこと?】
【クシナちゃんの声?】
「自分の身は自分で守るって言ったじゃないですか」
さっきから、なぜかクシナの明るい声が聞こえてくる。
【どういうことだぁあ!?】
【幽霊か?】【ぎゃぁあああああああ!】
リスナーも狼狽えている間にユリアが抱えていたクシナの頭部から徐々に身体が生えてくる。
「ほぇー」
アリシアも感心するように口を開けている。
「いやー、かけておいてよかったですね。予再生。死ぬ直前なら何度でも再生できますからね」
クシナはのほほんとそんなことを言う。
【いやいや、それだけで首切られて再生できるって普通じゃねえから】
【やべえ再生力】
【グロはちょっと……】
【アラクネかよ】
【クガさん、やばい才能を発掘する】




