30.人間コラボ
【なんでいるの?笑】
ユリアとクシナがいることに対するリスナーからの素朴な質問である。
「え、えーと……一応、説明しますと……聖女と再生士どちらもアンデッド系列のスケルトンに強いジョブということで……」
クガがあまり得意でないトークで必死に解説する。
そこにユリアが割り込む。
「クマゼミをやめるつもりはないけど、遠慮する必要もない」
ユリアの言葉は前置きや主語、目的語が不足しがちであり、いまいち、わからないことが多い。
【(クガが戻って来ないからといって)クマゼミをやめるつもりはないけど、(セラの提案した追放を演じる必要がなくなった以上、クガに対して)遠慮する必要もない ってことか?】
【ユリア通訳ニキ乙】
ユリアは肯定も否定もしないまま紅潮して下を向く。
続いて、クシナも続くのだが、配信慣れしていないせいか少々、たどたどしい。
「か、母さんが人脈は広げておいた方がいいって」
果たして彼女の母親が魔物にまで脈を広げると想定しての発言であるかは甚だ疑問であるが、ひとまずはそういうことのようだ。
昨日、クガがスケルトンの棲息地を尋ねるためセラに連絡すると、すぐに教えてくれた。そして、しばらく経つと、セラから再びメッセージが来る。
ユリアとクシナも行きたいそうだ……頼めないか……〝ガス抜き〟に……と。
セラはクガにクマゼミに戻って来るべきでないと思っているが、どうやらユリアはそうではないらしい。未だにかなりセラに不満を抱いているとのことであった。
クガとしても、自分が抜けたとはいえ、ずっとクマゼミのままでいてほしいという少々都合のいい思いを抱いていることも自認していた。
だから〝ガス抜き〟を受け入れないわけにはいかなかった。
【クシナちゃん……かわええ】
【ほっこりする】
【クガがクマゼミであげた最大の功績といえる】
リスナーの間でクシナに対するコメントが結構盛り上がる。
クシナは可愛らしい顔立ちをしていた。ボブスタイルの黒髪に明るい瞳、再生士の定番である深緑の制服のような衣装を着ている。
ダンジョンのアンチエイジング効果で見た目年齢はそれほど変わらないが、元々童顔で実年齢はユリア、ミカリより二歳若く二二歳。そのため、一部の紳士には大変刺さるようだ。
何はともあれ、クシナがクマゼミにおいて、ひとまずは可愛い後輩的な役割を得ていたようでクガはほっとする。
「それじゃー、スケルトン狩るかー」
「おぉ……」
「うん……」
アリシアの言葉にクガは同意し、ユリアも頷き、そして各々、動き出す。
スケルトン狩りはひとまず順調に進む。
アリシアとユリアが互いに競うように立ち回るため、配信としてもそこそこ華がある。ドローンも前線の二人を映している。と……。
「クガさん、差し支えなければ立ち回りを教えてください!」
「お……?」
クシナがクガにそんなことを言ってくる。
「え、えーと……セラとかミカリに聞いた方がいいんじゃ……」
「セラさん、ミカリさんにも勿論聞きますが、元ヒーラーであり、変人でもあるクガさんの考えをご教示いただきたいのです!」
クシナは純粋な瞳をクガに向ける。変人とは……?
「な、なるほど……まぁ、いいか……俺のは、少し最新のパーティ構築理論とは異なるかもしれないが……」
「それで大丈夫です!」
「わかった。参考程度に聞いてくれ」
「はい……!」
「ちょうど今、アリシアとユリアが二人で前線にいるな。いわゆる二枚前線型だ……だが、クマゼミのは一般的な型と異なる」
クガは語る。
一般的な二枚前線型は物理攻撃特化と防衛特化で組むことが多い。
しかし、クマゼミの場合、ユリアが魔法攻撃特化では珍しい近接タイプのため、物理攻撃特化、魔法攻撃特化の二枚という形になっている。
前提として、パーティの四人構成は物理攻撃特化、魔法攻撃特化、回復特化、防衛or補助特化が最適であるとされている。
クマゼミは四人目は補助特化を選択している。
この四人構成は本来であれば、魔法タイプが遠距離攻撃と防衛も兼務する方式……即ち、前衛は物理攻撃特化一人のみとする〝物理攻撃特化エース型〟が主流である。つまるところ、サイオンのやり方は正しく理論どおりではあった。
だが、遠距離攻撃が苦手なユリアをここに配置してしまうことで、結局、前線のセラにも負荷がかかり、歯車が嚙み合っていなかったのだ。
「ここまでの話でなんとなく察しているかもしれないけど、クマゼミは超攻撃的なパーティ構成だ」
「……はい」
「物理と魔法の二人が近接型であるのに、防衛特化ではなく補助特化を選択している。つまるところ、クマゼミの回復特化には〝自分の身は自分で守る〟ことが求められる」
「っ……! なるほどです……」
クシナは息を呑む。
加入間もないクシナには荷が重い話だろうかとクガは少し不安に思う。だが……。
「いいですね! 刺激的じゃないですか! そういうのなんですよ! 私が求めていたのは!」
「っ……!」
クシナは少し無理やりな様子で、にかっと笑ってみせる。と……。
「お、やっぱり復活してるぞー!」
「お……?」
前線のアリシアの声がする方を見る。
そこには、先日、クマゼミが戦ったA級モンスターの〝ツイン・スケルトン〟が現れていた。
「あれ? なんか三体になってないか……?」
白と黒の骨に加えて、灰色の骨も。〝ツイン・スケルトン+アルファ〟がいた。




