29.スケルトン狩り
【……!】
【えぇええええ……?】
【ふつくしい……】
巨大な白銀の狼がそこにはいた。
【なんじゃこりゃぁあああ!?】
【これはひょっとして……】
【フェン……】
【フェン……なんとか……】
「フェンなんとかじゃないわ! フェンリルです!!」
グレイは美しい姿で憤慨する。
狼の王フェンリル。彼女の前では、ダークウルフも可愛らしい子犬に等しい。
誇り高きダークウルフ達もお腹を見せて転がっており、先刻までの警戒心は見る影もない。
こうして、グレイのおかげで、先住民であるダークウルフ達とは友好関係を結ぶことに成功する。
なんかどんどん犬が増えていくな……と思うクガであった。
◇
「現場の様子を見に行こう」
「お、おう……」
上層43層、湖畔エリアでの築城が決まってから数日が経過していた。
アリシアとクガは今日も築城現場の様子を確認しにいくことにする。
アリシアはワワンオに逆召喚を依頼することで、現場にはすぐに到着する。
「この召喚ワープは便利だな……」
クガが〝召喚ワープ〟の利便性を思わず口に漏らす。人間もワープアイテムである〝転移ストーン〟を使用すれば階層間の移動はできる。召喚ワープに対して〝通常ワープ〟といったところだ。しかし、通常ワープの場合、転移先はその階層の入口となるのだ。そのため、目的地へは、階層の入口から徒歩での移動が必要になる。アリシアのような上位の魔物もワープができるようだが、その仕様は転移ストーンと同じく、階層の入口に飛ばされる通常ワープのようだ。
「な! そうだろ? 召喚ワープ、便利だろ!」
故に、アリシアも嬉しそうに食いついてくる。召喚ワープは相手が目的地にいれば、ダイレクトでその場所へワープできるため、通常ワープに比べ、徒歩移動の必要がないのだ。
「まぁ、召喚ワープも通常ワープも使ったらしばらく次のワープができない点は同じだから注意するのだぞ! 例外として、魔物は各魔物に割り当てられた〝魔物の本拠地へのワープ〟だけは無制限に使えるぞ」
「魔物の本拠地?」
「あぁ、例えば私の場合はクガと出会ったあの場所。コボルト達でいえば、彼らの砦というわけだ」
「なるほど……ややっこしいな……えーと…………まとめるとこんな感じか?」
クガはアリシアに自分用にまとめたメモを見せる。
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●通常ワープ……人間の〝転移ストーン〟または上位魔物が使用可能。転移先は階層の入口。
●召喚ワープ……眷属間で使用可能。転移先は呼び出し側がいる場所に直接。
通常ワープ、召喚ワープは使ったらしばらく利用できない。
その他、魔物の本拠地へのワープは特別で無制限に使用可能。
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「そうだな。転移ストーンについては知らぬが、まぁ、概ね合っている。ただ、私は今、本拠地を全く利用していないから、ちょっと勿体ないんだよな……」
「そうなんだな……」
そんなことなら先日のクマゼミとの待ち合わせ場所はアリシアの本拠地だったんだからワープして行けばよかったなぁとふと思うクガであった。
「わわんお……?」
クガとアリシアがワープについて話し込んでいると、ワワンオはこの人達、何しに来たんだろうというように、アリシアの顔色を窺う。
「おぉ! すまない、ワワンオ! 現場視察に来たのであった!」
「わわん!」
そうして、アリシアは改めて視線を現場へ向ける。
現場では、ヘルメットを被った柴犬コボルトと狼男達がせっせと働いている。
しかし、今はまだ基礎工事をしているようだった。
「うーむ……あまり進んでいないなぁ」
「いや、そんなもんなんじゃないか……?」
少し残念そうなアリシアにクガはそんな風に言う。
建設というものは何か月、場合によっては何年という時間をかけて行うものである。
「そうなのか? ミノちゃんの城なんかは三日でできたと聞いていたのだが……」
「え!? そうなのか!?」
「うむ……」
人間界と魔物界の常識は異なるのかもしれない。
「ワワンオ……実際のところ調子はどうだ?」
「わんわんわ……わんわわわんお」
「ふむふむ……」
アリシアはワワンオと会話している。
ふと、クガは疑問に思う。
「……ちなみに狼男と戦った時のように血(?)による強化はしてやれないのか?」
「あー、あれは少し制約条件があるからな……残念だが常用するのには向かない」
どうやら無制限に使用できるものではないらしい。
「それでワワンオよ……我々で手助けすることはできないだろうか……?」
「わわわんわわわんわ」
「いやいや、恐縮することはないさ。主従関係とはいえ、私は良き主でありたいのだ」
「わわ……わんわ……わんわわわんお」
「ふむふむ……なるほどなるほど……」
「……」
クガは傍らで何言ってるんだろうなーと思いながら、聞いていた。
「よし! クガ、骨を探しに行くぞ」
「あ、はい……」
アリシアはクガに経緯を説明する。
魔物の主従関係は〝封建制度〟のような仕組みになっている。
つまるところ〝御恩と奉公〟というわけだ。
コボルト達に褒美を与えれば、最大限のパフォーマンスを発揮するという。
そこで〝骨〟だ。
コボルト達は骨が大好きなようで、褒美としては最適とのことであった。
「……で、骨ってどうやって入手するんだ?」
クガはアリシアに尋ねる。
「うーん……そこだよな。クガ、何かいいアイデアはないか?」
骨……か……。
人骨は……採ろうとしてもその前にリライブの強制転移が発動してしまうだろうし……。
うーむ……骨……骨……あっ……!
「……スケルトン……とか?」
「あ! なるほど! 確かにスケルトンは骨だな……!」
「……しかし、自分で言っておいてなんだが、狩っていいのか?」
「特に問題はない。魔物の世界は基本的に〝弱肉強食〟だ……無暗に狩ったりはしないが、目的があるならそれは自然の摂理というわけだ」
「……なるほど」
「もちろん、人間が魔物を狩るように道楽やエンターテインメントとして狩ったりはしないがな!」
とアリシアは釘を刺す。
「しかし、あいつら、どこにいるのだろう?」
アリシアの疑問にクガはあることを思い出す。
「あー、確か最近、クマゼミがスケルトン狩ってたな」
◇
「というわけで、今日は骨の調達のためにスケルトンを狩っていこうと思いまーす」
アリシアがドローンに向かって今日の目的を告げる。
【お? 人間だけじゃなくて魔物を狩るときもあるのね】
【ラスボスくらいになると、気分次第で配下は狩っちゃうよね】
【パワハラ】
「違う! ちゃんと骨の調達のためという目的があると言っただろう!」
【いいでしょう。続けてください】
【って、あれ……? 誰かいない?】
というコメントに同調するかのように、ドローンの画角が広がっていく。
クガは内心、どうしてこうなった……と思っていた。
【ユリア様とクシナちゃん……?】
クガの横には、クマゼミの聖女ユリアと新メンバーで再生士のクシナがしれっと並んでいた。
「今日はやや不本意ながら人間と初コラボすることになった」
アリシアが眉を顰めて言う。




