27.立地
「クガ……悪かったな……」
「え……?」
「その……お前をあんなやり方で追放しちまってよ」
「あぁ……悲しかった」
「っ……! そうだよな……本当すまん……」
「だがよ……クガ……よかったな……」
「えっ……?」
「ユリアは裏でクガが背信者になったーー!って、ぎゃーぎゃー騒いでたけどよ、いいんじゃないか? 吸血鬼と堕勇者」
「……」
「確かに俺達が思い描いていたものとは少し違ったけども……ダークヒーローみたいで少し憧れる……」
「……」
「そういえば、剣聖も人殺したら、堕剣聖になれるんかな……なんて、ははは……」
「っ……」
セラは久しぶりに笑顔を見せる。
高校時代、クガに初めて声を掛けてくれた笑顔そののままに……
◇
クマゼミと別れ、クガは帰途につく。
魔物の街のアリシアの仮住まいへ……
その道中、アリシアはやっとクガに話し掛けることができた。
「なぁ、クガ……結局のところ、彼の思いを受け入れることにしたのか?」
セラの思い。すなわち、クガをクマゼミから解放するということ。
「…………いや、微妙だな……」
「え……?」
「……」
クガは少し沈黙する。
だが……口を開く。
「……そうだな……何者かが何者でもないと感じていたなら、あっちに戻っていたかもな」
「……? っ……! ……~~~」
アリシアは結局、またしばらくクガに話し掛けられなくなってしまった。
◇
「クガよ! そろそろ現場視察に行こうか」
吸血鬼の切り替えは早い――。
翌日、アリシアはクガにそんなことを言う。
「現場視察ってなんだ?」
「なにって、忘れたのか? これを……!」
そう言って、アリシアはクガに例のメモを見せる。
それはSS級ボスになるための条件が列挙されたメモである。
クガはその内容を今一度、確認し……。
「ひょっとして……これか……?」
「あぁ! そうだ」
どうやら二者の認識が一致したようだ。
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【SS級ボスになるには】
【済】侵略者を三〇人狩る
【済】A級パーティを狩る
・S級パーティを狩る
【済?】眷属を従える(S級ボス)
・ボスの城を構える ← これ
・SS級ボスの枠を空ける
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「うーん、どこにしようかなー」
アリシアは何かを考えるように目線を天井に向ける。
「ちなみに築城場所の指定はあるのか?」
クガはアリシアに質問を投げかける。
「特にないな。どうせSS級ボスになったら城ごと移転するから、まぁ、結局、仮住まいみたいなものだ」
「そうなのだな」
「ちなみに、クガはどういう場所がいい?」
「え……? まぁ、基本的にはどこでもいいが……」
「まぁまぁ、そう言わずに君の希望を聞かせてくれよ」
「うーむ……」
クガはしばし考える。
「そうだな……あえて言うなら、こういう空が見える穏やかな場所がいいな」
「なるほどなるほど……」
アリシアはうむうむと頷いている。そこで、クガは少し疑問に思う。
「アリシアは……」
「ん……?」
「アリシアは吸血鬼だよな?」
「ん……? あ、あぁ、そのようだ」
「そのようだ……って……まぁ、それはいいとして、やはり日の光や十字架が苦手だったりするのか?」
魔物の街に関していえば、割と日の光の下も普通に歩いているがとクガは思う。
「確かに×はあまり好きではない。どちらかというと○の方が好きだ」
「……?」
「それに、日焼けするのは好きではない。将来、シミになるというしな。だから、外出時はこの日焼け止めクリームをくまなく塗っている」
アリシアはどこから取り出したのか……チューブ状の物体を見せながら言う。
「……」
いや、そういう問題ではないのだが、とクガは思う。
「まぁ、クガが明るい場所がいいというならば、ひとまず上層ダンジョンに行ってみるか……」
アリシアは呟くように言う。
「ちなみに、イビルスレイヤーの件は気にしなくていいのか?」
「イビルスレイヤー……?」
「あのアラクネを討伐していた奴らのことだ……」
「あぁ! あいつらね……。あいつらが来たときに、気持ちよく返り討ちにするためにも、すんごい城を建てないとな!」
「……そうか」
それから、アリシアとクガは上層ダンジョンへと向かい、いくつかの階層を視察する。
「ここなんていいんじゃないか?」
アリシアがそう言ったのは上層43層、湖畔エリアだった。
そこは湖があり、周囲を森で囲まれた静かな雰囲気のエリアであった。
「……いいと思う。……とても」
クガもその静かで趣がある雰囲気をとても良いと感じていた。
「……!」
アリシアは意見が合ったことが嬉しかったのか、自然と目が細くなり、口角が上がる。
「よし! じゃあ、ちょっと他の者達にも意見を聞いてみるか!」
「え……?」
アリシアはクガの反応を気にすることなく、指輪をはめた右手を前に出す。
そして、その中指の契約の指輪がぼんやりと光り出す。
「「「「「「わんおわんおー」」」」」」
ワープエフェクトの中から、きりっとした表情の柴犬コボルト達が現れる。
「よく来てくれたな!」
アリシアは機嫌がいいのかにこりと微笑む。
「ほら、クガも……」
「え……?」
そうか……俺も呼ぶのか……とクガ。
アリシアが促してくるとは少し意外であったが……。
「わかった」
……こんな感じか……?
クガもアリシアを真似て、右手を前に出す。
アリシアのしなやかな指とは異なり、ごつごつした中指の指輪であるが、ぼんやりと光るのは同じである。
「えぇええ? そっちぃい? 出してほしかったのは、ドローンの方だよぉ!」
と、アリシアが素っ頓狂な声をあげる。
「……!?」
そっちか……! とクガは思うが、もう遅い。
ふわっとした白銀の髪の少女が跪いた状態で現れる。前回、ひどく傷んでいた薄着のワンピースであったが、今回は綺麗な状態であった。
「……クガさま」
人狼のグレイは第一声、俯き気味にぼそりとクガの名前を口にする。
「え……?」




