26.吸血鬼の緊張
翌日――
アリシアは待ち合わせ場所へ向かうクガの背中を追う。
「……」
今日も会話はない。
恐らく自分が話かけていないからだ。
思えばクガは自分から話し掛けてくることはあまりなかった。
クガは今日のクマゼミとの話し合いに自分も呼んだ。
そこにどういう意図があるのだろうか……
アリシアは視線を落とす。
◇
「おっす……」
「あぁ……昨日ぶりだな……」
クガが声を掛け、セラが応じる。
「っ……ここは……」
待ち合わせ場所……
そこは地下43層……隠しボス部屋の入口付近であった。
セラの後ろには、ユリアとミカリもいる。
普段なら飛んでいることが多いドローンも今日は飛んでいない。
要するにオフレコだ。
「悪いな……来てもらって……」
「いや、それでどうした? クガ」
「え、えーと……な……」
「……」
……
その瞬間、胸が跳ねる。
なんだこれ……? 緊張か……?
この私が……?
そうだとして、私はなぜ……緊張しているのか……?
……
クガの口元が開く。
「ヒーラーを探してるんだろ?」
「「「「っ……!」」」」
「サイオンのようなエリートではないが、心当たりがある」
「っっっ……」
「ん……? なに、にやけてるんだ? アリシア」
「へっ……? に、にやけてなどいない……!」
「そうか……?」
……
「クシナという再生士の女の子なんだが……」
クガがクマゼミに紹介したのは、コボルト達の城を攻めた時に出会った再生士のクシナであった。
昨晩、クガはクシナに連絡して、意思確認を行っていたのだ。
「え? 再生士?」
ミカリが反応する。
「あぁ、再生士なんだが、配信に挑戦したいみたいだ。ダンジョン経験は浅いが、本人によると学生時代はぶいぶい言わせていた(?)らしいからすぐに戦力になれるよう頑張るとのことだ。治癒能力については申し分ない」
「なるほど……」
「"ク"シナだから、パーティ名変えなくて済むね……」
ミカリがそんなことを言う。
「元々、変えるつもりなんてなかったけどな」
「……」
セラの言葉にクガは何かを考えるように少し沈黙する。
「クガ、ありがとう。本人と話してみたい。連絡先を教えてほしい」
「承知した」
セラとミカリは前向きのようだ。
ユリアは下を向いて黙っていた。
と……
セラのところに何やら通知が来る。
「ん……? リスナーからだな…………えっ……?」
「どうかした?」
「アラクネが…………イビルスレイヤーに討伐された……」
「っ……!?」
……
イビルスレイヤーとは、かつて、アリシアとクガが討伐したA級パーティ:モンスタースレイヤーの兄貴分と呼ばれるS級パーティである。
セラはリスナーから提供された情報を元に、イビルスレイヤーの動画を再生する。
その映像では、確かにイビルスレイヤーがアラクネを仕留めていた。
どうやらクガとの戦闘で弱っているところを狙われたようだ。
そして、さらに……
"おーい、吸血鬼ちゃーん、駄目勇者観てるかー?"
「っ!?」
アラクネ討伐後にイビルスレイヤーのメンバーがなんとアリシア、クガに向けたメッセージを送っていたのだ。
"最近、調子に乗ってるみたいだけど、結局、S級ボスは倒せてないよなー? お前ら……"
"なんやかんやチキってるんじゃねえの?"
"魔物ってのはこうやって分からせてやらないといけない"
"見えるか? このアラクネのだっせぇ姿が……"
"分かるよな? 次はお前らだ……"
そこで映像は終了する。
「ほほーん、なかなか活きがいい奴がいるじゃないか」
アリシアは口角をあげる。
クガは少し頭を抱える。面倒なことにならなければいいが……と。
いや、それは希望が薄そうだ。
と……
「あ、すまん……少しだけクガと二人きりで話してもいいか?」
セラが割り込むようにそんなことを言う。
「……? あぁ……構わない……」
そうして、クガとセラはその場を離れる。
「「「……」」」
残された女性三名……
若干、きまずい……




