25.事後
クマゼミの三人、クガ、そしてアリシアはアラクネの館の外に出る。と……。
「クガぁぁぁ」
ユリアが泣き出しそうな顔でクガの元へ走る。
しかし……。
「やめろ! ユリア!!」
セラはそれを大声で制止する。
「で、でも……」
ユリアは不満そうだが、足を止める。
「クガ……」
セラがクガの前へ歩み寄る。表情は硬い。まるで怒っているようだ。
「今回の件は……ありがとう……ございます」
「あぁ……」
「だが、なぜ来た?」
「……!」
【何言ってんだ?】
【クマゼミを助けに来てくれたんだろ!】
セラは表情を変えない。
「お前はもうクマゼミじゃない。お前は来るべきじゃなかった。二度とこんなことはするな」
【ふざけんな! 救ってもらってその態度はなんだ!】
【あんな追放のされ方しても、クガは来てくれたのに】
「…………ひとまず言いたいことはわかった……行くぞ……アリシア……」
クガはそう言って、クマゼミに背を向ける。
「えっ、あ……うん……」
アリシアは幾分、心配そうな顔をするが、クガについていく。
「違うでしょ!! セラ!!」
「「「「っ!?」」」」
突然、大きな声で叫ぶ人物に、その場にいた者たちは驚く。
「……ミカリ……!?」
叫んだのはミカリであった。
【ど、ど、ど、ど、どうした? ミカリン!?】
【何が違うのだろう】
「ミカリ……!」
「うるさいっ!! セラ!」
「っ……」
「あぁああ!! もう限界! いい加減にしてよ! 意味わからない男の自己犠牲に付き合わせんなっての! もうやってられない! 全部、話すから!!」
【ミカリンがご乱心だ……!】
【酒飲んだ時以外、いつも凪のように穏やかなあのミカリンが……?】
【こんな姿見るのガチで初めてかも】
【どうするんよセラぁ……】
ミカリの豹変ぶりにセラは露骨にうろたえる。
「あ……あ……」
そうしてミカリは「あ……あ……」とか言っているセラを無視して、追放した真相の全てをクガ本人、そしてリスナーに話した。
【クガのための追放? マジかよ……】
【後づけの作り話じゃないよな?】
【俺は信じるぞ】
【セラは青鬼だったんだな】
【クガは今後、どうするのだろう……】
「…………」
セラは恥ずかしいのか、気まずいのかクガから目を逸らしている。
クガは内容を理解するのに、少し時間を要した。
自分自身にそれほどのポテンシャルがあるとは思っていなかったし、セラがそんなことを思っていたということにも気づかなかった。
しかし、胸の中にあった靄のようなものはなくなったような気がした。
その日はそのままクマゼミと別れた。
◇
クガとアリシアはアリシアの仮住まいへと戻る。
その帰途、アリシアはなんとなく話しかけづらくてクガと会話することはなかった。
「……」
アリシアはソファーで、ごろんと横になっているクガを眺める。
クガは何かを考えるように天井を見つめていた。
その姿を見て、複雑な心境となるのはむしろアリシアの方であったのかもしれない。
クマゼミはクガに戻ってきてくれなどは言わなかった。
それを言うことはクガを解放したという主旨と反するのだろう。
だけど……クガは……?
「アリシア……」
「は、はいっ……!」
突然、クガに声をかけられ、アリシアは妙に驚いてしまう。
「ど、どうしたのだ?」
「明日、また、クマゼミと話そうと思う」
「え……うん……」
「悪いが、その場についてきてくれるか?」
「……! ……わかった」
その後、クガは何やら忙しそうにディスプレイを弄っていた。
その晩、アリシアはうまく眠ることができなかった。




