24.堕勇者
「っっ…………え……?」
次の瞬間、驚嘆と疑問の声をあげたのはアラクネであった。
アラクネの蜘蛛の胴体が地面に打ちつけられていたのだ。
「っっ……!」
身体を支える六本の脚が全て切断されていることに気づくのに少し時間を要した。
「くそぉっ……」
それでもすぐに六本の脚を再生する。
「……えっ?」
しかし、次の瞬間には上半身と下半身が離れていた。
「い、一体、何が起きているの……?」
拘束されながらもその様子を見ていたユリアは困惑するように呟く。
「ふっふっふっ、クガはもうお前達の知っているクガではないのだよ」
「っ……!」
サイオンの消滅により贄の保管の任を解かれたアリシアは手持ち無沙汰になったのか、先日、勝負を仕掛けてきた脳筋聖女ことユリアに話しかけに行く。
「お、お前……! クガに何を……!?」
「別に私は何もしていないが……」
言葉のとおり、アリシアは何もしていない。
だが、クガは確かに変わっているものがあった。
それは〝ジョブ〟だ。
現在のクガのジョブは〝堕勇者〟。
モンスタースレイヤーと戦闘したあの日――。
初めて人を殺した時に目覚めたジョブである。
[ジョブ:堕勇者]
基本的な能力は勇者と類似している。
ご丁寧なことに〝救世〟の特性も引き継いでいる。
しかし、治癒や補助の魔法の対象が自分のみになるというデメリットの代償に攻撃面の性能が上昇している。
そして、特記すべきは、追加された特性〝魂の救済〟。
魂を救済することで、能力が跳ね上がる……というもの。
救済とは聞こえはいいが、魂を救うとは〝無〟にすることを意味する。
つまるところ〝殺すと能力が飛躍的に上昇する〟。
「あがっ……あがっっ」
サイオンの魂を救済し、飛躍的に力が上昇したクガの初撃により、上半身と下半身を離されたアラクネは、なおも再生しようと足搔いていた。
下半身は再生されず、上半身側に蜘蛛の身体が生えようとしていた。
しかし、次の瞬間には上半身が上下に切断され、さらには首が落とされる。
その状態で再生しようとする側は胸部であった。
クガはその胸部に大剣を突き立てる。
「やめてぇええええ、降参するからぁあ゙ああ」
アラクネの首が叫ぶ。
しかし、クガはその手を止めることはなく……
……もなかった。
「二人を解放し、扉を開けろ」
「え……?」
アラクネは困惑する。
「だから今生きている人間に手を出すな。それを誓うなら殺しはしない」
「……」
「俺はすでに魔物側に肩入れしている。無暗にリライブできない魔物を殺すことはない」
「……」
ユリアとミカリを拘束していた糸は消滅し、扉が開く。
【うぉおおおおおおおおおおおお!!】
【クガぁああああああああああ】
【強すぎる】
【人殺しやん】
【元々、殺してるからセーフ】
【どういう理屈やねん笑】
【人殺して、魔物殺さないの草】
【頭おかしいやん】
【ある意味、人類への背信者として一貫してるともいえる】
【吸血鬼さん、クガさん、今まで覚悟できずにすみませんでした。俺も一リスナーとして背信します。一生ついていきます】
【私、なんで今までサイオンなんて好きだったんだろう……】
この日、大量の背信リスナーが誕生した。
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