23.贄
「治癒」
クガは自身への棘によるダメージを修復する。
「っ……」
アラクネは唇を噛み、焦燥の表情を見せる。
しかし、それも一瞬……ニヤリと口角を釣り上げる。
「正直、少し驚いた……しかし、何も回復できるのはお前だけじゃないんだよ……!」
「っ……!」
アラクネの右腕、そして、二本の前脚が瞬く間に再生する。
【なんだよ、コイツ、チートじゃねえか】
【いくらなんでも再生が早すぎる】
クガはセラがアラクネの脚を切断したシーンは観ていなかった。
故にその再生能力については知らなかった。が……。
「っっ……!」
間髪入れず、クガは再び、アラクネに大剣を叩きつける。
今度は、脚でなく、下半身の頭胸部を縦にぱっくりと切断する。
手足以外の部位の再生力が低下することを期待してのことであった。
【どうだ?】
【効いてくれ!!】
しかし、切断部位は癒着するように、結合され、すぐに元どおりとなる。
「残念だったわね」
「……そうだな」
その後も、クガとアラクネの激しい戦闘が続く。
しかし、クガの方が押しているように見えるが、アラクネの再生力を崩しきれない。
「アハハハ……頑張ってはいるけれど……ジリ貧みたいね」
アラクネはクガを煽るように言い放つ。
「……」
実際にアラクネの言うとおりであった。優勢に見えて、アラクネの再生力を崩すには至っていない。決め手を欠く……ジリ貧……。
……やるしかないか。
クガは覚悟を決める。
「セラ!」
「えっ!?」
「少しだけ、アラクネを引き止めてくれ……頼む」
「……あ、あぁ……」
こんな状況においても、不思議とセラは嬉しかった。
クガに何かを頼まれることはもうないと思っていたからだ。
幸いセラの身体はサイオンが戦闘序盤にかけた自動回復のおかげで動ける程度には回復している。
「うぉおおおおお!」
セラはロングソードを片手にアラクネに立ち向かう。
それを横目にクガはアリシアと、その足元でへたり込んでいるサイオンの元へ向かう。
そしてサイオンの前で、大剣を逆手に持つ。
【え?】
【なになに……?】
「すみません。新しい特性の発動条件なもので。あんたには恨みもないが、義理もない」
「っ……!」
クガのその言葉でサイオンは察する。
なぜこの男が吸血鬼に自分を保護させたのかを。
「うわぁああああああ」
サイオンは這いつくばるように逃げようとする。
気づいたのだ。自分が贄であることに。
「っっ……!」
気づいた時には遅かった。サイオンはいつの間にか紅い触手に絡め取られており、身動きができない。
「私は別に謝る必要ないよな? 元々、魔物だし」
吸血鬼がサイオンに向けて、にこりと微笑む。
「い、いやだ……僕はまだまだこれから……せ、せっかくS級相当まで成り上がったのにぃ……どれだけ努力したと……」
「すみません、あまり時間もないので……」
クガは頭を搔く。
しかし、その剣の向きを変えることはない。
そのまま大剣を真下へと突き刺す。
「い、い゙やぁだぁああ゙ああああ゙あああ」
断末魔が途切れ、辺りを静寂がつつむ。
【……やりやがった】
【いや、いけ好かない奴ではあったが……】
【クガ……どうして……?】
【いやぁああああ、サイオンさぁああああん】
サイオンの亡骸が消滅する。
と、同時にクガにも変化が生じる。
禍々《まがまが》しいオーラがクガの周囲に発生する。




